失禁
掻き捨てられない恥が此処にはある!
今日も終わった。私はふーっと溜息を漏らし会社のデスクの上のラップトップをシャットダウンする。時刻はもう20時前。そそくさとタイムカードを押して退社する。私は今日、節目の40歳を迎えた。付き合っている女性もおらず端から見れば独身貴族を謳歌しているように想われるが実際のところ人恋しい年頃デモある。奧さんがいてくれたらと願う事は多々ある。一人での侘しい食事。会話も無く唯ぼーっとネットを見たり映画を観たり。感想を話す相手さえいない現状。このまま寂しい老後を迎えるのか。友人はいるが皆所帯を持ち多忙な毎日。私はバーガーキングでカロリー満点の夕食をテイクアウトして帰路に着いた。アパートの廊下の照明が切れていて真っ暗だ。大家に言って直してもらわないとと一週間前から想っているが帰りの時間も遅く蔑ろになっている。ポケットから部屋の鍵を出して鍵穴に挿した。鍵が開くと抜き取ってゆっくりとドアノブを回して中に入ろうとした。その時である。背後から人影が忍び寄り銃口を後頭部に突き付けられた。持っていたバーガーキングの紙袋がバサリと落ちた。私は息を呑んだ。「騒ぐなよ、静かに中に入れ。」嗄れた声で男は言った。私は言われた通りに中に入り泣きじゃくりながら懇願した。「こ、こ、殺さないでくれ。た、頼むよ。金目の物は全部持って行っていいから。頼む、後生だから命だけは助けてくれ」往生際の悪い死刑囚がガス室に連れて行かれる直前に警務官に泣き縋るように私は言った。「うるせえ、黙れ。四の五の抜かすとぶっ殺すぞ、てめえ」男が低い声で言って撃鉄を下ろす音がカチッと鳴った。すると、部屋の灯りがパッと点いて歌声が聴こえてきた。「ハッピ~ バ~スデ~ トゥ ユ~♪」そこには、父さん、母さん、妹家族、友人の姿があり、甥っ子が〈どっきり成功!マシュー叔父さん誕生日おめでとう!〉と書かれたプラカードを持っていた。強盗の男が名刺を私ながら言った。「リアリティ俳優養成所のシルベスタ スタイミーです。何か仕事がありましたらよろしくどうぞ」ハリウッド俳優顔負けの迫真の素晴らしい演技だった。私は皆を軽蔑の眼差しでギロリと見渡した。皆の顔は一様に困惑して気不味い空気が流れた。私の股間は膀胱から迸った液体でぐっしょりと熱く湿っていた。その日に限って私は普段あまり着ない薄いグレーのスーツを着ていた…