4話:『ミステリオーソ』
「こうなったら、やるべき事は一つしかない……俺達の『ユニークスキル』を使って、こいつらと戦うんだ!」
ゆっくりと近づいて来る狼達を睨みながら、俺達は身を構えた。
「コウキ、お前の『ユニークスキル』を使う事はできるか?」
俺が聞いた。
「悪ぃ……まだ上手い力の出し方が分からないんだ。どうする?それなら素手で戦ってみるか?」
「いや、それはあまりに危険すぎる……仕方ない。それじゃあ俺とハルが戦うから、お前は力が出せそうになったら参戦してくれ。それまでは後方で待機だ。」
「すまねぇ……俺もなるべく早く参戦するぜ。危険になったらいつでも助けてやるからな!」
俺の言葉を聞くと、ハルは驚いた表情で青ざめていた。
「えっ、ちょっと、私が戦うの!?」
「当たり前だろ!今は怖いだの何だの言ってる場合じゃない。安心しろ、基本的にスキルの操作をするのは俺だから。」
「で、でも……」
ハルは足元から震えていた。
「……ハル、お前にやってほしい事は一つだけだ。俺が『スキル』を発動している間、絶対に俺を離さないでいてくれ。そうすれば、多分ちゃんと戦えるはずだ。」
ぶっつけ本番のスキルテストになるが、今は自分の力を信じるしかない……大丈夫、きっと戦える!
「離さないでって……どういう事?具体的にどうすればいいの?本当に私達でこいつらを倒せるの……?」
ハルの表情は不安で満ちていた。
「それは心配しなくともすぐに分かる。大丈夫、きっとやれるって。俺と自分を信じろ!」
そう言うと、俺は深く意識を集中させた。
「――行くぞ!『ミステリオーソ』、発動!!」
――カッ!!
すると、ハルの右目が激しく光り輝き、黄金の光が辺りを包み込んだ。
「うわぁっ!?」
その眩さに、その場の全員の目が眩んだ。
「――!これは……!」
再び目を開けた時、ハルの手には一本の黄金に輝く長い片手剣が握られていた。
「俺の『ユニークスキル』、『ミステリオーソ』の能力は、簡単に言えば生物以外への物質変化だ。この力を使い、俺は今自分の姿を一本の剣に変えた!そしてハル、お前は『敵を必ず倒す』という強い意志を持て。そうすれば、俺達の魂と意識の強さが高まって、より大きな力を出せる!」
「強い、意志……」
ハルは一瞬黙り込むと、一度深く息を吸った。
「……そうよね。怖いからと言って、ここでただ怯えている場合じゃないわ。どんな事になっても、たとえ異世界に放り込まれても、私はダイム君と生きるんだ!!」
そう叫び、彼女は俺の変化した黄金の剣を前に構えた。俺達の周りからは、金色に輝くオーラが炎の様にあふれ出している。
「安心して俺を使え、ハル。『ミステリオーソ』で変身している最中の俺は、一種の『破壊不能オブジェクト』となる。だから、俺が傷つく心配などせずに思いっきり剣を振るうんだ!!」
「うん!私、ダイム君を信じるよ!」
ハルは俺を握る拳に力を込め、思いっきり地面を蹴った。
「……よし。ハル、行くぞォッ――!!」
――ザシュッ!!
その時のハルの体は軽く、持っている剣に引っ張られるかの様な素早い動きでその刃を振るった。
「グオオオォォッッ!!!」
気が付くと、俺とハルは一度に3匹もの狼の首を斬っていた。彼らの上げる断末魔を聞きながら、その仲間達も突然の出来事に驚く様子だった。
「止まるな!このまま押し切るぞ!!」
「ごめんね、狼さん達……だけど、私達もここで大人しくあなた達に食べられる訳にはいかないんだ!」
――ズシャッ!バシッ!!
次々と襲い掛かって来る狼達を、俺達は自分でも信じられないほどの反応速度と剣技で圧倒していた。
(体が紙の様に軽い……それに、心も妙に落ち着いている。これも、ダイム君の言っていた『意志の強さ』によるものなのかしら……?)
ハルは自らの力に少し驚きながらも、冷静に戦いを続けていた。
ハルの奴、上手く『意志の強さ』を利用できているみたいだな。『ユニークスキル』が俺の様に意志を持っている事の最大のメリットは、本体……つまりハルの魂と意識が共鳴する事によって、湧き出る力と感覚が何倍にも跳ね上がる事だ。これなら、たとえ数で圧倒的に負けていても勝てるかもしれない。いや、何が何でも勝たなきゃいけないんだ!!
「グルルオオォォッ!!」
「――!!」
すると、周囲から10匹程の狼が一度に飛び掛かって来た。
「ダイム君、ヤバい……ッ!」
「いや、いける!!」
ハルが思わず目をつむると、黄金の剣は更に強く光り輝き、今度は大きな黒い雲へと姿を変えた。
「――行くぜ、サンダァーーーーーッ!!!」
――ドガアアァァンッッ!!
「グオオオォォッ!!」
するとそこから放たれた無数の電撃が、雷の様な轟音と共に一瞬で狼達を黒焦げにした。
「す、すごい……!」
「言っただろ、俺の能力は『物質変化』だって。この力があれば、剣や盾だけでなく今みたいな無形物質になる事もできるんだぜ!」
そう言うと、俺は再び黄金の剣の姿になりハルの手の中へと戻った。
「さあ、まだまだ行くぞ!!」
「うん!」
――ズバッ!!
「グオオオォッ!!」
その後も俺達は順調に敵を切り倒していった。しかし、いくら斬っても狼の数が減る様子はなかった。
「クソッ、斬っても斬ってもどんどん湧いてきやがる!いったいどれだけの数がこの森にいるんだ!?」
「ダイム君、私もそろそろ体力の限界が……!」
ハルは少しずつ息を切らしてきた。
まずいな……敵の数が多すぎる。このままじゃジリ貧だぞ……!
「グオオッッ!!」
すると、大きな狼が一瞬の隙を突きハルの背後から飛び掛かった。
「ヤバい、腕の力がもう……!」
――ガキィンッ!!
「ダイム君――!」
「ぐっ……!まったく、なんちゅうパワーだ……!」
狼の牙がハルに届く寸前で、俺はなんとか大きな盾に姿を変えて攻撃を防いだ。
「グルルル……!!」
クソッ、ギリギリ防いだはいいが、こいつの力が強すぎて攻撃に回る隙がない……!どうする、ここでこのまま剣になって無理やり突き破るか……!?
「――グオオオォッ!!」
「しまっ――!」
一か八か攻撃に転じようとした瞬間、俺達の背後に更に10匹以上の狼が勢いよく飛び掛かった。
ダメだ、今度こそ防げない――!!
――パキィンッ!!
「……!!」
もう無理だと諦めかけたその時、大量の大きな氷塊が地面を伝って狼達を一瞬の内にピタリと氷漬けた。
「た、助かったの……!?」
「これは、まさか……!!」
俺達はゆっくりと背後へ振り返った。
「――ふぅ、なんとか間に合ったみてぇだな。」
その少年は俺達の驚く様子を見てニヤリと笑った。
「コ……コウキ!!」
そこには、地面に手をついて全身から青いオーラを放つコウキの姿があった。
「遅れて悪かったな、二人とも。ようやく力を操るコツが掴めたぜ……それじゃあ、こっからは俺の番だな。」
彼は立ち上がり、突然の攻撃に驚く狼達を睨みつけた。
「さぁ、かかって来いよテメェら!今度は、俺の『タッチ・オン』が相手だ――!!」
おまけトリビア・その3:
ダイムは日本人の父とアメリカ人の母を持つハーフの少年。なので英語もかなり得意。