表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やがて神になる者  作者: なめくじ
第1章:始まりの世界攻略者(アズル村編)
3/56

2話:何かがおかしい異世界転生

「――こ、ここは……?」


 次に目が覚めた時、俺達は何も無い草原の上にいた。周りを見渡すと、クラスメイトの皆もそれぞれ目をこすりながら少しずつ起き上がっている。そしてよく見ると、皆それぞれ服が鎧やローブ等のファンタジーゲームのキャラの様な服装に変わっていた。中には、剣や杖などのいかにもな武器を持っている人もいる。それに、明らかにそれぞれの髪の色などもアニメのキャラクターの様なカラフルな色に変わっていた。


 ……どうやら、受け入れるしかないらしい。信じられないが、これが現実。俺達のクラスは、本当に異世界に来てしまったんだ。



「俺を含めて31人か……どうやらクラス全員、この異世界へと来たみたいだな。いや待てよ、でも確か事前に聞いていた人数は30人だったような……?」


 まあ、そんな事は今考えても仕方がないか。しかし、まさか本当にこんな事になるなんて……今見えている景色はただっ広い緑の草原と青い空だけだが、俺は確かに分かる。ここはもう、俺達のいた地球じゃないのだと。雰囲気と言うか、空気と言うか……言葉に表すのは難しいが、確かに地球とは別の感じがした。


「そうだ、ハルは……?」


 俺は幼馴染のハルを探して再び周りを見渡した。この時妙に体が軽く感じたが、まあ気のせいだろう……この時はそう思った。



「その声……ダイム君なの?」


 すると、背後から聞き慣れた声が聞こえた。よかった、あいつも無事に来れたみたいだな。


「おう、ハルも無事だったか。」


 俺は少し安心しながら声の方へと振り向いた。


「……あれ?ハル、お前は何でそのままなんだ?」


 俺は彼女の姿に違和感を覚えた。他のクラスメイト達がそれぞれゲームのアバターの様な見た目に変わっているのに対し、何故かハルだけは元の学校の制服姿のままで見た目も全く変わっていなかったのだ。白いシャツに茶色いブレザー、それに青と白のスカートの姿。ファンタジー感全開な周りと比べるとやはり大きな違和感があった。



「そ、それよりもダイム君の方が大変じゃない!どうしてそんな姿に……!?」


「……?」


 彼女は何か青ざめて不安気な表情でポケットから手鏡を取り出し、俺の方へと向けた。



「――な……なんじゃこりゃあぁっ!?」


 俺は鏡に映る自分の姿を見て思わず叫んだ。


 そこに映っていたのは、どう見ても俺ではない『何か』だった。妖怪の人魂ひとだまに似た形をした、小さな金色の炎の塊の様なもの。それが空中に揺れながら浮遊している……それが確かに鏡に映る、今の俺の姿だった。


「マ、マジで何なんだよこれ……!?」


 そう言えば、さっきあの女神が『肉体とスキルが適合できない』とか何とか言っていたな……まさか、その影響で俺の肉体が消えて……?いや、でもまさかそんな……


 俺はなんとか現実から目を背けようとしたが、どうやらダメらしい。あの女神が言っていた『不適合者』の意味は完全には分からないが、俺がその中の一人……下手するとただ一人の人物となってしまったのだ。


 どうしてこんな事に……!?突然異世界に来たと思ったら今度は体が無いなんて、マジでシャレにならないぞ……!



「おい、見てみろよ!」


 すると、鋼の鎧を着た赤髪の男子が皆に呼び掛けた。


「今偶然気付いたんだけどよ、前に指を翳して念じると何か出てくるぜ!」


 彼がそう言うと、皆がそれを試し始めた。


「本当だ、目の前に画面の様な物が出てくるぞ。これは……まさか、ステータス画面か?ここにレベルや習得スキルなんかが書いてあるぞ!」


「え、マジ?」


「本当だ、スゲェ!」


 皆はこの異世界感満載の要素に興奮している様子だった。


 やはり、皆やけに状況への適応が早いな……何人か黙って座り込んでいるような人達もいるが、女神の力がまだ働いていると言う事か。

普通に30人も同時に異世界転移させれば色々とパニックやら抗争やらが起きて面倒そうだし、おそらくあの女神が無事に俺達を最初のスタートラインに立たせるために、元から何等かの方法で俺達のこの世界に対する理解力と適応力を高めているのだろう……いや、すぐにこんな仮説を思いつく俺も同じ状況にあると言う事か。


 となると、探してみれば俺のこの訳の分からん姿の謎に関するヒントもあるかもな。突然の異世界転移に、何故か消えた肉体。割とガチでヤバい状況だが、だからこそ冷静に物事を判断しなければ……



「おい、ここに『ユニークスキル』って項目もあるぞ!もしかして、ここにさっきあの女神が言っていた俺達の力が書いてあるんじゃないのか!?」


「おおっ、そうっぽいぜ!俺の『ユニークスキル』の詳細が書いてある!まさか、本当に神の力が貰えたのか!?」


 その情報を聞き、皆は更に盛り上がった。『ユニークスキル』……そんな夢みたいな特殊能力が、本当に皆に宿ったのか。



「あの……私だけ、その『ユニークスキル』ってのが無いんだけど……」


 目の前に浮遊する四角い画面を見ながらそう言いこぼしたのは、幼馴染のハルだった。


「えっ……?」


 すると、ハルの前に皆が集まって来て彼女の画面を覗き込んだ。


「本当だ、こいつだけスキルの項目が無いぞ!」


「そう言えば、さっきあの女神が『スキルの適合が間に合わない』だとか言っていたよね……」


「えーっ!?じゃあこの子だけ『ユニークスキル』が貰えなかったの?なんかかわいそー……」


 何人かのクラスメイト達は黙り込むハルの周りで憐みの声で笑い始めた。



「お、おい!お前ら、そんなに笑う事ねぇだろ!あの女神だって、これは不足の事態だって言ってたじゃないか!」


「ダイム君……」


 俺が思わずそう言うと、皆は今度は俺の方を見た。


「おいおい、どうした?見た感じ、お前に関しては肉体すら無いみたいじゃないか。あの女神の言っていた『肉体とスキルの適合が間に合わない』って、まさか肉体そのものが消えちまうもんだったのかよ!その姿は何だ、魂だけにでもなってるのか?力どころか体すら貰えなかっただなんて、流石に同情しちゃうぜ。」


 赤髪の男子は弱者を嘲笑う様な口調で俺を見下ろした。


「ぐっ……!」


 違う……今俺は自分のステータスを見て分かった。確かに俺はあの女神のミスで肉体を失った。それは紛れもない事実だ。しかし、それだけではない。俺はもっと別の、更に奇妙な状態にあるんだ……!


「なぁ、こいつらは放っておいて、そろそろこの世界の探索に行かねぇか?なんか『世界石』って石を見つければ神になれるんだろ?」


「そうだな、俺達が先にその石を見つけよう。これが俺の異世界無双ライフの始まりだぜ!」


 そう言うと、俺達を笑っていた奴らは皆から離れて歩き出した。


「じゃあな、精々頑張って生きろよ。『出来損ないの転移者』さん達!」


「ぐぬっ……!」



「そ、それじゃあ、そろそろ私達も行く?」


「うん、そうだね。」


「俺達も行こうぜ。早く色々と調べねぇと。」


 そう言い、少しずつ他のクラスメイト達も次々とバラバラの方向に去って行った。そしていつしか、草原の転移ポイントに残っている人物は殆どいなくなっていた。



「ダイム君、大丈夫?ありがとうね、私をかばってくれようとして……でもまさかダイム君だけこんな事になっちゃうなんて、そんなの酷いよ……」


 もう殆ど誰もいなくなると、ハルが涙目で俺に優しく声をかけた。


「ああ、心配ありがとな。俺は平気だが……クソッ、あいつらめ……俺達だって好きでこんな事になっているわけじゃないのに、あんな言い方……!」


 もう顔も無かったが、俺は悔しさで心の中で強く歯を食いしばった。



「おう、そうだそうだ!お前ら、あんなの気にする必要無いからな!」


 すると、一人の背の高い冒険者の様な服装の青髪の少年が俺達の側に寄って来た。彼の瞳は空色で全体的に爽やかな見た目で、青い長袖のシャツに黒い長ズボンを履いている。そして肩や膝、胸には小さく軽い金属製の鎧を付けていた。


「あ、あぁ。ありがとう……えっと、君は?」


「俺の名は大谷おおたにコウキってんだ!よろしくな。霧崎きりさき大夢ダイム君に、桜井さくらいハルさん!」


 その少年、コウキは元気な笑顔で答えた。


「よろしくね!って、どうして私達の名前を……?」


「俺、入学前にクラスメイト全員の顔と名前覚えて来たんだぜ!友達沢山作りたかったからな!」


 彼は得意気に言った。


「す、すごいな。」


 今度は随分と変わっていそうな人だな。異世界に飛ばされたばかりだと言うのに、こんな明るいテンションでいられるなんて。


 ……でも、よかった。この人はいい人そうだ。まだ分からない事だらけだけど、できれば友達になってみたいな。



「それにしても、お前らも不幸だよな。突然こんな異世界に飛ばされた挙句、まさか二人だけスキルが貰えないなんて……しかも、ダイムに関しては体までねぇんだろ?て言うか、こんな人魂みたいな姿で生きているのかも分からねぇが……そんな状態で、この先大丈夫なのか?」


 コウキは心配そうな顔で言った。


「ああ、その事なんだが……実は一つ分かった事があるんだ。」


「分かった事?」


 俺の言葉に、二人は首を傾げた。


「ハル、お前には肉体はあるが『ユニークスキル』が無いだろ?そしてお前だけ制服姿のままなのは、他の皆のあのゲームみたいな服装はおそらく『ユニークスキル』を貰った人達のボーナスみたいな物だからだ。俺はこんな姿だから、開かなくても元々脳内にステータス情報が入っているみたいでさ。それを見て、実は俺は今お前と真逆の状態にある事が分かったんだ。」


「ハルさんと真逆の状態?それってどういう事なんだ?」


 コウキが困惑した表情で尋ねた。


「すごく奇妙な話なんだが……簡単に言うと、そうだな……」


 俺はこれから自分が言う事が二人を更に混乱させないか心配だったが、これが覆しようのない現実なので思い切って言うことにした。



「……俺は、『ユニークスキル』の能力そのものに転生してしまったんだ。」



 ――そう。人間でもモンスターでも、ましてや生物ですらなく、『ユニークスキル』という名の概念の様な物に転生してしまう……それが、俺の前代未聞の異世界ライフの、そして世界を揺るがす大冒険の始まりだった。

おまけトリビア・その1:

ステータス画面にはその人物の名前・性別・年齢・職業・レベル・習得スキルが記されている。力や防御力といった身体能力の数値は表示されない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ