一、腕の先
――手。
目の前の空間に、まるで浮いているかのように現れたそれは、僕を招いているのかくいくいと呼び寄せるように動く。
何だか滑稽だ。このまま放っておいたらどうなるのだろう? どうでもいい疑問だけれども、少し気になる。
考える。考える。
――結局僕は、その手を掴んだ。
ぐいと力強く引っ張られる。絶対に離さないという、確かな思いが伝わってきた。
別に抵抗するわけじゃないが、こうも必死だと何故だかあらがいたくなる。天邪鬼。友人にはよく言われたその言葉を、僕はやんわり否定したものだが、どうやら友人は僕の本質を良く理解していたみたいだ。
まあいい。そんなことはどうでもいいことだ。何が重要で何が重要でないのかなんて、僕にはまだ判別しきれないけれど。これはきっと、どうでもいいことだろう。
段々と空間に現れた手が短くなっていき、残すところ拳一つ分くらいになったくらいで、僕は辺りを見回す。
恐らくこの手は僕を違う世界に導くのだろう。旅の占い師兼原始の人殺しである彼が言ったとおり、僕はこの世界から排斥される。だからこれがこの世界で見る最後の景色。
僕は軽く苦笑する。
空は黒く淀み、僕の足元は赤く濁っていた。