そしてざまぁ回
「父上。」
学園の卒業パーティー会場から真っ直ぐに王宮に上がり、国王に謁見を求めた第一皇子は、婚約者であった公爵令嬢に言われたとおり早速、先ほどの婚約破棄や、男爵令嬢との結婚について報告する。
報告を受けた王は、ハァと深いため息と一緒に、
「お前はそれほどまでに愚かであったか。
…お前の実母の身分は低いが、無駄な争いを起こさない為にも第一皇子であるお前を次の王にと思っていたのだがな」
と、言葉を吐き出す。
第一皇子は、王からの質問の意図を図りかねたものの、とりあえず
「幼き頃から王になるのだという重責を背負っておりますゆえ、父上が譲位した後は謹んで王になるという覚悟を持っております。」
第一皇子は、頭は良くないものの、外見は王族らしい美しさを持ち、黙っていれば思慮深くも見えるので、質問の意図がよくわからない時などは、それっぽい単語や言葉遣いでその場を凌いできた。
「よく意味がわからないが、なりたいということで良いのか。」
「父上や母上、他の皆の期待には応えねばなりませぬゆえ」
「ああ…誰もお前に期待なんぞしていないわ」
「は?」
王の思いもよらぬ冷たい対応に、第一皇子は戸惑い、呆けた声を漏らす。
自分でも結構良いことを言ったという自覚があったので、王の冷たい反応がご不満だったのだ。
「いずれにしろ、皆の前でシャーロットを貶めた罪は重い。相応の措置を覚悟しておけ。」
王は疲れたように言い放ち、話はこれで終わりと席を立ち上がった。
まるで第一皇子の方が悪いような言われ方である。愛する大事な息子が、真実の愛を見つけてわざわざ報告にしにきたというのに。
愛のない結婚はダメなんだと、愛しのヘンリエッタが教えてくれたのだ。
「お、お待ちを、父上!わ、私は真実の愛を…。」
王は思っていたより出来の悪い息子を、憐れむように見下ろす。
「仮にも国を背負う王族が、国よりも自分の欲を優先させるとはな。守るべきものは何なのか、よく考えてみることだ。」
「父上…しかし…。」
守るべきは愛する者ではないのか。目の前の小さな幸せを守れないで、国を守るなどおこがましいと、英雄物語の主人公も言っているではないか。
苦渋に満ちた父王の言葉に、何が正解なのかわからないと言葉を濁す第一皇子に高らかにキンキンと響く声がかぶる。
「お、王様!アーサー様は私のために…!」
敢えて視界に入れてなかったピンク色の娘が、鼻にかかった声で叫び、第一皇子の腕に自らの豊満な胸部を押し付けるようにして縋り付く様子に、凍りつくような視線を送る。不愉快である。
「貴様に発言を許した覚えも、謁見を許した覚えもない。第一皇子、この者を連れて直ちに退出せよ。余は不快である。」
「ち、ちちうえ…。」
第一皇子の目は、驚愕に見開かれている。
「おうさま!聞いてください!シャーロットが悪いのです!年下のくせに、あたしに意地悪したりとか、アーサー様に生意気な口きいたりとかするのです。あたしがアーサー様と結婚するんだから私が王妃ですよね?
なのにパーティーとかで、アーサー様のパートナーはシャーロットに決まってるみたいに図々しく出しゃばるのです!
アーサー様は、私を愛してるのに!」
その場の誰もが、第一皇子ですら、『アーサーの婚約者はシャーロットだからな』と心の中でツッコミを入れたとか入れないとか。
「衛兵、この者を連れて行け。」
ピンク色の男爵令嬢は、自分が一番可愛く見える角度と声と動きで王に自らの主張を伝えたのだが、最初から最後まで不敬でしかない。
そもそも王政をとるこの国で、王の意に反する行為は反逆に等しい。第一皇子とその連れでなければ、速攻で罪人、牢屋行きである。
「え、ちょっと何するの私はアーサー様の婚約者ですよ!あなたたち全員打ち首よ!」
王の言葉に、近衛兵が鎧をガチャガチャいわせながらピンク色の男爵令嬢を囲む。
第一皇子は、その様子を呆けたように見つめていた。
「ちょっと痛い!やめて!はなして!…あたしはヒロインなのよ!皇子エンド達成したじゃないの!」
ピンク色の男爵令嬢は、以前から意味不明の単語を使い、常識を逸脱した言動が見られるなど、問題行動が多かった。
彼女が、第一皇子に語った話では、彼女は異世界転移者とやらで、ここは、『ゲームの世界』に似ているらしい。