1サビ-拒否
ざわ…
ざわ…ざわ…
「一体どういうことだ!?」
「才能を無駄にする気か!」
「圧倒的愚行っ……!」
響子から発せられた意外な言葉に、群衆はざわつく。
響子さん、まさか俺と一緒にいたくて冒険者に……!?
「訳を聞かせて貰えるかな?」
周囲がどよめく中、国王はまたもや冷静に問いかける。
国王が冷静さを保つということは、響子の発言より俺のフ◯ディの方が衝撃だったということか。
流石俺、いやフ◯ディだぜ。
「私、三味線はもう弾きたくないんです。」
ざわ…
ざわ…ざわ…
響子の言葉にまたもや周囲がざわつく。
「それほどの才能がありながら、何故弾くことを拒む!」
「響子殿なら素晴らしい功績を遺せるはず!」
「犯罪的っ……!悪魔的所業っ……!」
最後の奴はさすがにどうかと思うが、俺も同感な部分はある。
あんなに美しい旋律を奏でていたのに。
だがそれを断るなんて、勿体ない気がする。
「よい。響子殿にも何か事情があるのだろう。嫌がる者に無理やりさせる事は出来ぬ。
たとえ無理にさせたところで、音楽に嘘は付けぬ。いずれ越えられぬ壁に当たる事だろう。
響子殿の思う通りにするがよい。」
ーーなんて理解力のある国王なんだ。
とは言っても奏太の主張は全てはね除けられた訳だが、少なくとも国王のこれまでの発言に誤りはなかった。
「はい。ご期待に添えず申し訳ありません。ご理解頂き感謝致します。」
響子が国王に深々と頭を下げる。
響子が三味線を弾きたくない理由は気になるが、それ以上に一緒に冒険者になれることに心が踊る。
イヤッホーー! 響子さんと冒険が出来るだなんて最高だぜ!
響子さんは元々冒険者になりたかったのなら、むしろ俺も冒険者でラッキーじゃん!
響子が自分と同じ冒険者の道を選択したことに、奏太が浮かれているとーー
「響子殿、よろしく頼むでござるよ。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
忘れてた……。もう一人いたんだった。
まあ別にオタクが一人いるくらい問題ない。
それよりも響子とのめくるめく冒険の日々に奏太は思いを馳せた。
「律動殿も冒険者を所望か?」
「いえ、僕は音楽家を目指します。」
「そうか。そなたの選択を嬉しく思うぞ。」
群衆に安堵の声が漏れる。
いいさ、あいつは好きにエリートコースを歩めば。
俺は響子さんと薔薇色の冒険者人生を歩むぜ。
そしていつか、お前が羨むようなロックスターになってみせる。
「それでは冒険者の道を歩む3人に、旅の選別と必要な物資を支度せよ。」
「はっ!」
国王が側近に命じると、数人が奥に下がっていった。
そして程なくして、大きな荷物が台に乗って運ばれてきた。
「その中に、武器、防具、衣類、鞄、そして一月分の食料代と宿代が入っておる。
武器や防具は冒険者向けの動きやすさを重視したものであるが、品質は王国軍兵士が備えるものとほぼ同等の物を用意した。
それで当分は事足りるであろう。」
お決まりの布の服と木の棒みたいな最弱装備を想像したが、意外としっかりした物を用意して貰えた。
だが少し重いな。
受け取った荷物は何とかなるにしても、これに楽器類を常に持ち運ぶとなると中々にキツい。
それに……
「時に、小生のこの楽器達はどうすれば宜しいでござるか?
全て小生の大切なコレクションなのでござるが……。」
こいつの場合はとんでもない楽器の数だ。
さすがにこれを全部持ち運ぶのは無理だろう。
「ああ、言い忘れてたおった。召喚者は常に楽器と共に召喚される。
また、音楽家となる召喚者にとって、元の世界より持ち込んだ楽器は、命に等しい。
ゆえに、召喚者はミューサ神より与えられた収納の魔法が使える。これを使えるのは召喚者のみであり、自身の楽器と、演奏に使用する物は際限なく魔法にて異空間に収納出来る。
収納魔法を使用する際は魔力を消費しないゆえ、収納したいものに"収納"と念じれば、いつでも異空間に収納することが出来る。
使用したい時に収納した物を念じれば、それが目の前に現れる。」
なんて便利な魔法なんだ。
楽器類のみという制約が惜しいが。
奏太は言われた通りにギターに向かって"収納"と念じてみる。
すると、瞬く間に目の前からギターが消え去った。
今度は消えたギターを出そうと念じてみると、また目の前にギターが現れた。
一体何処に消えて、何処から現れるのかは全くの謎だが、この魔法さえあれば楽器の持ち運びに困らず、盗難の心配もない。
奏太は持っている楽器類を魔法で全て収納した。
「それは助かるでござる! では早速!」
金重もギターを一つ取っては収納、一つ取っては収納という作業を始めた。
しかしこの数となると中々時間がかかりそうだ。
そう思って見ていると、金重の楽器の中に、一つ気になる物が混ざっていた。
「ーーおい金重、それはなんだ?」
「これでござるか? これは蓄電池でござるよ。屋外や停電時にも電子楽器が使えるものでござるが……残念ながらバッテリーは切れてるでござる。」
大きさから見るに、随分容量のありそうな蓄電池だ。
だがバッテリーが切れているとなると、使い道はなさそうだ。
まてよ。そういえばーー
「なあ、金重の属性は雷だったよな? ひょっとしたらお前の魔法で充電出来るんじゃないか?」
「やや! それは確かにでござる! 試してみる価値はありそうですな!」
金重は蓄電池を床に置き、ハンドパワーを扱うマジシャンのように手を構えた。
「ぬぬぬぬ……。」
『バチッ
バチバチッ』
「おお! 電気が出ているぞ! そのままコンセント部分に電気を当ててみろ!」
『バチバチバチバチッ』
「ぬぬぬぬ……! ふんぬーー!」
金重が顔を真っ赤にして気合いを入れる。
『バチバチッ……バチッ……』
「ふあぁ、もうダメでござる~……。」
『シュウン……』
やはりまだ鍛練していないからあまり持たないか……。
「あ! でもバッテリーが0%から5%まで回復しているでござる!」
「おお! やったな!」
鍛練を積めばもっと充電出来そうだ。
これで当面のエレキギターの電源問題は解消したな。
ありがたく使わせて頂くぜ金重!
「ーーさて、そろそろ出発の準備はよいか?」
「はい」
→「いいえ」
みたいな選択肢が出てきそうなセリフだが、視界には何も現れない。
奏太は口頭で万端であることを伝えた。
「冒険者になる3人は、後の細かな事は、城下の冒険者ギルドにて聞くがよい。
律動殿に関しては、推薦する音楽隊の者に従うがよい。
ここに連れてまいれ。」
「はっ。」
冒険者ギルドかぁ。魔物討伐のクエストなんかを受けたりするのだろうか。
俺戦えるかなぁ……。
喧嘩すらしたことねえのに……。
『ギイィッ』
奏太が今後について悩んでいると、右横の扉が開いた。
「御呼びでしょうか、国王陛下。」
「おお、来たか、ローラント。そして我が娘よ。」
見るとそこには、キザなイケメン長身男と、麗しき金髪美少女が立っていたーー