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7サビ-喧嘩

 演奏が終わると、奏太達は一様にアイバニーゼの方を見た。


「ーーやはり皆様の音楽は素晴らしいですわ。その……特に奏太様の歌声は……ゴニョゴニョ。」


 アイバニーゼが奏太達に賛辞を送るが、3人は全く耳に入ってこない。


「ア、アイバニーゼはピアノが凄く上手いんだな……。」


「流石は王国音楽隊の方ですね……。」


「原曲よりも良かったでござる……。」


 奏太達は、王国第一音楽隊に所属する音楽家の凄さを思い知らされ、アイバニーゼの演奏を手放しで褒める以外無かった。


「まぁ! 私の演奏など、皆様に比べたら足元にも及びません! ですがーーもしお役に立てるようでしたら……その……私も皆様のお仲間に入れて頂きたいのですが……。」


「えっ。う、うう~ん。」


 アイバニーゼがモジモジとバンドへの加入を願い出る。

 確かにアイバニーゼのピアノの技術は申し分ないし、キーボードがメンバーに加わればバンドの幅も広がる。

 だがピアノだけとなると、それはピアノロックになってしまう。


「ーーなぁ金重、キーボードって持っていたりするか?」


「キーボードでござるか? 電子ピアノなら持っているでござるが、シンセサイザーの機能を備えたキーボードは、残念ながら持っていないでござる。」


「そうか……。」


 金重もシンセは持っていなかったか。となると、常にピアノだけだとジャンルが限られてしまう。


「……アイバニーゼ。」


「はい!」


 申し訳なさそうに喋り始めた奏太に、アイバニーゼが期待に溢れた顔で答え、奏太は罪悪感に締め付けられる。


「え~っと……申し訳ないんだけど、俺達のバンドへの参加は、ちょっと難しいかな……。」


「ど、どうしてですか!? 私の演奏が至りませんでしたか!? でしたら一所懸命練習しますのでーー」


 アイバニーゼの反応に、奏太が困っているとーー


「それはロックンロールにピアノは、頻繁に使われないからですよ。

 勿論先程演奏した曲のように、ピアノが使われている曲もありますが、私の敬愛するセッ◯ス・ピストルズのように、ギター、ベース、ドラムのみで構成されるロックバンドが主流なんです。」


 返答に困っている奏太に代わって、響子がハッキリと伝えた。


「まあ……! セ、セッ◯スだなんて……。響子様は随分と破廉恥な音楽をお好みでいらっしゃるのですね……。」


 ーーま、まずい! 響子さんの前でセッ◯ス・ピストルズを悪く言うのは……!


 奏太が慌てて間に入ろうとするがーー


「ーー今なんて仰いました?」


 あちゃ~……やってしまった……。


 響子が恐ろしい目付きに変わる。


「セッ◯ス・ピストルズはロックンロールの魂を体現したバンドなんです!

 それを理解出来ないのは、貴女がまだお子様だからです!」


 響子がまるで大人をアピールするかのように、胸を突き出しながらアイバニーゼに反論する。


「あら。ですが先程の曲からは貴女のだらしない胸のように、ふしだらな印象は全く感じられませんでした。

 寧ろ私のピアノの方が、高貴な奏太様の歌声を引き立てられます。貴女より。」


 響子の揺れる胸を見て、アイバニーゼもムキになる。そしてアイバニーゼの言葉に、響子は顔を真っ赤にして立腹した。


「わ、私だってバンドのお役に立てます! 立ちます! ピアノは無くてもロックは出来ますが、ベース無しのロックなんてあり得ないです!」


「(おい金重! 何とかしてくれ!)」


 奏太が金重にヒソヒソと助け船を求める。


「(むむむむ無理でござる! 女性の喧嘩に割って入るなど、火に飛び込むようなものでござる!)」


 金重がそれを全力で拒み、男2人は加熱する女2人の喧嘩を、ただ黙って見ている事しか出来なかった。


「とにかく! 私達のロックンロールにピアニストは要りません! どうしても私達の仲間に入りたいなら、シンセサイザーを持ってきてください!」


「わかりました。その“シンセサイザー“があれば、私を一員として認めてくださるのですね?」


 響子とアイバニーゼがバチバチと視線を交わすと、「フン!」とお互いにそっぽを向いた。


 シンセサイザーを用意しろだなんて、響子さんも無茶を言うなぁ~。電子楽器の無いこの世界にある訳がないのに。


 奏太がアイバニーゼに同情するが、当のアイバニーゼは固い決意に瞳を燃やしていた。


「き、今日の所は遅いしもう寝よう! うん!」


 奏太が半ば強引に場を収めると、4人は各々の部屋に戻っていったーー




 ーー翌日の朝、4人は再び斎堂にて朝食を取っていた。

 昨日の喧嘩を引きずり、場には気まずい空気が流れている。

 響子は完全に機嫌を損ねており、眉間にシワを寄せながら無言で食事を取っている。


「奏太様、本日はどのようにお過ごしになられますか?」


 かたやアイバニーゼは、奏太の横にベッタリと付き、ご機嫌な様子で奏太に話しかける。


「き、今日も冒険者ギルドに行って、クエストに参加しようと思う。」


 二人の様子にどぎまぎしながら、奏太た今日の予定について答えた。


「でしたら、私もご一緒しても宜しいですか?」


 アイバニーゼが同行を求めると、響子が『ギロリ』と睨みを飛ばしてくる。


「え、え~っと、お姫様がクエストに同行するのは危険だし、それは流石にマズイと思う! うん!」


 響子の機嫌を損ねない為に、奏太が慌ててアイバニーゼの申し出を断る。


「そうですか……。まあ私もやることがありますし、今日は遠慮しておきます。ですが奏太様は私の騎士なのですから、次はご一緒させてくださいね!」


「ーーお姫様が付いてきても、邪魔なだけです。」


 アイバニーゼが笑顔で奏太に語りかけていると、横から響子が不機嫌そうに「ボソッ」と茶々を入れてきた。


「あら、私はこう見えて魔法も使えます。もし魔物に襲われても、自分の身を守れるくらいには戦えますわ。」


「なら奏太さんの護衛なんて要らないんじゃないですかぁ?」


 昨晩に引き続き、2人の女性がまたもや一触即発のムードとなる。

 その様子に奏太と金重は食事も喉を通らず、ナイフとフォークを机に置き、急いで斎堂を出て冒険の準備に取りかかったーー


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