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3間奏-指導

 

「ーーようやく着いた……。」


 長い帰り道がようやく終わり、奏太達は城下町と帰ってきた。

 3人は馬車から降りると、急いで気付け薬をポーションで流し込む。


「それじゃあボウズ達、蓄音箱の事よろしく頼むぜ!」


 キブソン達は、先程の歌をご機嫌に口ずさみながら去っていった。

 今回の討伐クエストは、奏太達には何の成果も無かったため、冒険者ギルドへの報告はキブソン達に任せ、3人は宿へと向かう。


「宿に帰る前に、どこか飯でも食べにいくか。」


「そうでござるな。小生も戦い疲れてお腹がペコペコでござる。」


 金重は殆ど逃げ回ってただけじゃないか?

 と奏太は思ったが、自分も大して変わらない事に気付き、ポリポリと頭を掻く。


「ーーあの!この後なんですけど、ベースを教えて貰ってもいいですか?」


 奏太と金重が食事に行くことで同意の中、一番大食いの響子から、意外な言葉が出たことに奏太が驚いた顔を見せる。


「えっ……あ、それは別に良いですけど、ご飯は食べないんですか?」


 奏太がまさかという顔で響子に尋ねる。


「あ! えっと、食事は頂きたいのですが……先程のお2人を見てましたら、私も早く一緒にベースが弾きたいな~って思いまして……。」


「なんだビックリした。まさか晩飯を食べずに宿に戻るのかと思った。」


「響子殿に限ってそれはないでござるよ。」


「も~、酷いですよ2人とも!」


 奏太と金重が笑うと、響子がぷくりと頬を膨らませる。


「すみません響子さん。じゃあ食事が終わったら3人で宿の防音室に行きましょう。」


「いいですな! でも小生の指導はスパルタでござるよ?」


「お手柔らかにお願いしますね。」


 3人は楽しく会話を交わしながら、街へと歩いていったーー




 ーー3人は夜の食事を済ませ、宿の防音室に来た。

 部屋は丁度1つ空いており、カウンターで利用の手続きを済ませ、部屋に入る。

 夜の、しかも場所は地下にも関わらず、部屋の中は割と明るい。蛍光灯とまではいかないものの、視界を保つのには充分な明るさだ。

 後からカウンターの男に聞いた話だが、どうやらこの世界では、水道だけでなく夜の灯りも魔法を使うらしい。

 防音環境もかなり整っており、他の部屋も使用中のようだったが、音もれは部屋の前で僅かに聞こえるだけで、部屋の中では全く聞こえてこなかった。

 広さは10畳程で、流石にオーケストラ全員が入れるスペースはないが、我々少人数のバンドが練習するには充分の広さだ。


「では響子殿、ベースを出して貰って良いでござるか?」


「はい!」


 響子が金重から借りたベースを収納魔法で取り出す。

 ベースは金重が指導する事になっていたので、この場は金重が仕切っている。

 奏太はその横で、アンプに繋がれていないギターを『チャカチャカ』と弾きながら、2人の様子を眺めている。


「まずはチューニングからでござる! 基本的なチューニングは一番太い弦がEでーー」


 金重が別のベースを使いながら、一つ一つ教えていく。

 2人の様子を見ていると、自分がギターを始めた時の事を思い出す。

 何も分からずただ闇雲に掻き鳴らし、『うるさい!』と親に怒られた。

 教本を買って基礎から練習するも、定番のFコードでつまずく。

 初めは指が痛くて指先がボロボロになった。

 一曲弾けるようになった時は感動だったなぁ。

 カエルの歌だったけど。


「ーーでは次に、弾き方を教えるでござる。ベースには大まかに2種類の弾き方があるでござる。

 1つはピックを使って弦を弾く方法、もう1つは指を使って弾く方法でござる。」


 ギターにもピック弾きと指弾きがあるが、アコースティック・ギターや、特殊な奏法でない限り、エレキ・ギターは基本的にピックを使う。

 だが、エレキ・ベースの場合には両方の奏法が多用される。


「曲や出したい音色によってピックと指を使い分けるでござるが、響子殿にはまずはピック弾きから教えるでござる。

 このように先を1cmほど突き出して、親指と人差し指で握るでござる。

 そして弦にピックを当てるでござるが、この時ピックが斜めに当たって弦を擦らないように気を付けるでござるよ。」


「え~っと……こうですか?」


 響子が確認しながら弦を弾くと、『ベーン』と音が鳴った。


「わっ、わっ! 鳴りました! 私ベースを弾きましたよ!」


 ベースの開放弦 (フレットを押さえずに弦を鳴らす事)の音が鳴ったことに、響子がはしゃぐ。


「中々良い感じでござるよ。今のがダウンピッキングでござる。次にアップピッキングでござるがーー」



 金重が一つ一つ丁寧に教えていく。

 最初は上手く教えられるか不安に思っていたが、中々良い指導じゃないか。


 奏太が感心しながら見ていると、金重が粗方の弾き方を説明し終わった。



「ーーという感じでフレットが構成されているでござる。

 まあ最初はゆっくり一つずつ練習していくでござるよ。

 されど優しいのは今のうちだけでござる! 今の小生はスパルタ教師でござるから、どんどんペースアップしていくでござーー」


「ーーなるほど! 大体分かりました!」



「ふおっ!?」

「へっ!?」


 突然の響子の言葉に、奏太と金重は訳が分からず間抜けな声を出す。


「えっと、こんな感じですかね?」


 そう言うと、響子は『ボンボンボン』とベースを弾き始めた。

 一つ一つの弦を音粒良く弾き、スケールに沿って左手を動かす。


 このベースラインは聞き覚えがある。確かーー


 奏太が聞き覚えのあるベースラインに、記憶を辿っていると、


「ア~イア~ムァン アンチクリィストゥ♪

 ア~イア~ムァン アナ~キストゥ♪」


 おもむろに響子がベースに合わせて歌い始めた。

 そうだ。この曲はセッ◯ス・ピストルズの名曲、アナーキー・イン・ザ・UKだ。


 つーかいきなりベースで弾き語り!?

 教えてからたったの数十分で!?


 響子の驚異的な吸収力に、奏太と金重は唖然とする。

 そしてワンコーラス弾き終わると、響子は「じゃじゃーん」と格好良くポーズを決めた後、こちらを見て照れ臭そうにお辞儀した。


「ーーえっと、どうでしょうか……?」


 口を開けてただ呆然と見つめる2人に、響子は遠慮がちに尋ねた。



「て、ててて天才でござるーーー!!」


「いやいやいやいやいやいやあり得ねーーー!!」


 響子が教わってすぐベースを弾きこなした事に、奏太と金重は驚愕し取り乱す。


「え!?響子さんってベース初めてなんだよね!?」


「はい! あ、でもセッ◯ス・ピストルズの曲は沢山聴きましたので全部覚えてます!

 セッ◯ス・ピストルズ以外の曲はまだ弾けるか分からないですけど……。」


 響子が照れながら答える。

 いや、覚えてるとか他の曲とか、そういう次元ではないのだが……。

 確かにパンクロックのベースは比較的簡単なものが多いが、それにしても初心者が教わってすぐに弾けるものではない。


「信じられないでござる……。これは指弾きも……、それどころかタッピングやスラップ奏法もすぐにマスター出来るかも知れないでござる!」


 とんでもない逸材を目の当たりにし、奏太と金重は、興奮と若干の敗北感を味わったーー


 その後も響子は金重に教わりながら、ベースの弾き方をどんどん吸収していった。

 まるでスポンジや砂漠の砂のような吸収力に、金重の指導にも熱が入る。

 途中、有名な曲を題材に3人で合わせてみる。

 初めはたどたどしく、しかしすぐに奏太と金重の音を聴きながら合わせるコツを掴んだ。

 そして3人は時を忘れ、気付けば深夜に近付いていた。



「ーーそろそろ終わりにしよう。練習を始めてからかなり時間が経つし。」


「そうでござるな。あまり初めから練習し過ぎても手を痛めるでござる。」


「とても楽しくて時間を忘れてしまいました!

 お二人ともありがとうございました!」


 3人はやや長い初日の練習に満足し、部屋を出た。すると他の部屋から微かに楽器の音がする。

 どうやらまだ練習している人がいるようだ。随分熱心な人だ。

 奏太は漏れる音に意識が向き、ふと窓の中を覗き込む。


 すると何故かそこにはドラムセットを叩く律動の姿があったーー


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