2間奏-音楽祭
「ーーそういえば、律動は音楽隊でどんなドラムを叩いているんだ?」
律動がドラマーとして、この国の音楽隊でどのような演奏を担当するのか、ふと気になり聞いてみる。
「僕はローラント様のオーケストラで、シンバルを担当する事になった。」
「シンバル!? シンバルってあのシンバルか!? ジャーンって鳴らすだけの!?」
律動の意外な回答に、奏太は思わず笑い声をあげる。
「う、うるさい! シンバルも大事な役目なんだぞ!」
奏太がシンバルを馬鹿にしているように、何かと軽く見られがちなオーケストラのシンバル。
だがその楽器は、素人には到底扱いが難しく、繊細さが求められる、非常に重要な存在である。
片方2、3キロある鉄の塊を扱うというだけでも、並大抵ではまともに持ち続ける事すら出来ない。
更に、少し当たる位置がズレるだけで音が変化してしまうため、ミリ単位に調節する技術が求められる。
しかも、クライマックスで扱われる事が多く、音も目立つゆえ、100%リズムに合わせ、『最良の音色を最良の音量で響かせなければならない』というプレッシャーは想像を絶し、かつて一度の失敗を理由に自殺をした者がいた程である。
「あの、奏太様!」
奏太が律動に、シンバルを叩くゴリラのおもちゃのイメージを重ねて笑っていると、アイバニーゼが話しかけてきた。
「あ、え~っと、何でしょうかお姫様。」
突然勢いよくアイバニーゼが話しかけてきた事に、奏太が狼狽えながら応える。
「アイバニーゼと申します。その……昨日は、初めて聞く奏太様と金重様の楽器の音に、私、非常に興味をそそられました!
あれは一体、何という楽器なのでしょうか?」
「あれはエレキギターっていう、ギターの一種です。」
そういえば、この子は昨日も俺達の演奏が聞きたいと、興味を示していたな。
見た目は俺より4、5歳ほど若そうな少女だが、随分熱心だな。
好奇心旺盛なお年頃ということだろうか。
思い出すと、俺がロックに興味を持ったのも丁度その頃だ。スれていた俺は、周りの奴らが聴いていたJ-POPをダサイと思い、ロックを最高に格好良い音楽として崇めていた。
今思えば、完全に中二病っていうやつだ。
「エレキギター……ですか。
是非また皆さんの演奏をお聴きしてみたいのですが、皆さんは音楽祭には出演なさらないのですか?」
ーー音楽祭?
初めて聞く言葉に、奏太達は首をかしげる。
「ーーゴホン。音楽祭とは毎年この季節に開かれる、国王陛下主宰のヴィシュガルド音楽祭の事だ。
今からおよそひと月後に、街の外れにある屋外大広間にて開催される。
国を挙げての一大行事で、全国民が一年間で最も楽しみにしている祭典なのだ。」
ローラントが会話に割り込むように説明する。
ふーん、この国の音楽フェスってところか?
「種族や身分を問わず、様々な音楽を興じる者達が一同に介し、その優劣を競う。
そこで観客達の投票により、最も優秀な音楽隊と認められた者達には、国王陛下より正式に王国所属の音楽隊としての認定と、金貨5000枚が授与される。」
「金貨5000枚!?」
金貨5000枚って言うと、宿代が防音室込みで1250ヶ月分、今朝の朝食が10万食分……。
勿論メンバーの数で割ると、一人辺りはもっと少なくなるが、それにしても途方もない額だ。
「我々王国所属の音楽隊も、ここでの票数が音楽隊の序列を決めるゆえ、全音楽隊が威信をかけて出演する。
冒険者の貴殿らには関係のない話ではあるが、まあ記念に出演してみるのも良いだろう。
王国に属する音楽隊の素晴らしさを身をもって知れるだろう。」
「ふん。あんたこそ俺達に第一音楽隊の座を奪われて後悔するなよ。」
「た、大層な自信だな。せめて昨日のような恥を再びかかぬよう、せいぜい練習に励むがいい。」
2人がバチバチと視線を交わすと、ローラント達は奏太達の元から去っていったーー
ーー嫌な奴に出会ってしまった事で、朝から気分が害されたが、興味深い話も聞けた。
俺個人としては是非ともその音楽祭に出てみたいが、2人はどうだろうか。
「さっきの話、俺は出てみたいと思うけど、2人はどう思う?」
奏太が2人に意見を求める。
「私は是非出てみたいです。ベースの練習も、目標があった方が励みになります。」
「小生も構わぬでござるが、ドラムはどうするでござるか?」
確かにドラム抜きとなると、音的に中々寂しいものがある。やはりロックはドラムがあってこそだろう。
だが、仮に律動に頼んでみたとして、音楽隊との掛け持ちで出てくれるだろうか。
そもそも自分達のバンドに興味を持つかどうか……。
他にドラムを叩ける人間を探すにしても、あてが全く無い異世界では中々難しい。
「そうだな……ドラムの事はおいおい探すとして、音楽祭出演に向けてとりあえず俺達だけで練習しようぜ。」
「はい!」
「了解でござる!」
目標が決まったところで、3人に気合いと結束が芽生える。
「じゃあ買い物も済んだし、宿に戻って冒険者ギルドに行くとするか。」
先の目標はさておき、まずは今日の生活の足掛かりを作るために、奏太達は冒険者ギルドの門を叩くことにしたーー




