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イントロ

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「―――こんな筈じゃなかった。」



 石巻(いしまき) 奏太(そうた)は、とぼとぼ大学構内を歩きながら呟いた。

 項垂れる奏太の背には、ギターケースがのし掛かり、右手には重厚なアルミケース、左手には四角い箱のようなものをぶら下げ、その大荷物が、奏太の醸し出す重々しい空気に拍車を掛けていた。

 

「なぜ彼女が出来ないんだ。」


 まるでご都合主義な不満を漏らすのには、ひとつの目論見があったからだ。


『ロックバンドをやればモテる。』


 誰が言い出したのかは分からない、その定番とも呼べるシナリオを、奏太は確かな真実と確信し、実行したのであった。

 

 童貞卒業という夢を果たすために―――



 大学に入学後即、軽音楽サークルに入部し早一年。童貞卒業はおろか、彼女すら一向に出来る気配はない。


 サークル内では、奏太を含む数人を残し、既にカップルの成立がほぼ完了している。

 現に奏太がギターボーカルとして所属するバンドも、リードギターはキーボードと付き合い、ドラムはベースと付き合うという、奏太を除くメンバー全員がバンド内カップルだ。


 それでも奏太は、バンド内でイチャ付くメンバー達を他所に、モテるため、もといバンドの為に必死に努力してきた。

 

 それなのに、バンドはまさかの空中崩壊。


 練習には自分以外誰もこない。


 理由は言わずもがな、定番の痴話喧嘩。『バンド内恋愛は必ずバンドを崩壊に追い込む』という、これも誰が言い出したのかは分からないシナリオの一つ。

 

 奏太はそのいざこざに巻き込まれ、もはやモテる為の唯一の手段であったバンドすらも失ってしまった―――



 そういったわけで、奏太はバンドの道具を抱えて、一人孤独に歩いている。


 ここまで不遇な扱いを受ける全ての要因は、奏太に一つの誤算があったからに他ならない。

 

『バンドをやればモテる。』


 そこに重大な思い違いが存在した。



「結局顔が全てか……」


 奏太はここにきてようやく、その残酷なこの世の真理を悟った。奏太の見た目は中肉中背の、言わば普通。良くもなければ悪くもない。しかも周りのサークルメンバーは全員バンドをやっている。

 

 そう、バンドをやっている事は軽音楽サークルでは当たり前。アドバンテージとならないのだ。

 更に大学の出会いはサークルが全てと言っても過言ではない。その中では結局、見た目の良い奴がモテるのだ。


 自分の方が上手いのに、誰よりもステージを湧かせられるのに、チヤホヤされるのはイケメンばかり。

 結局、バンドはイケメンが更にモテる為の付加価値でしかなかったという現実に、奏太は絶望した。

 

『ドサッ』


 奏太はおもむろに荷物を足元に投げ捨てた。

 背中のギターケースを下ろし、中から乱暴にエレキギターを取り出す。


 そしてそれを担ぐと、人目もはばからず掻き鳴らし始めた。


『チャカチャカチャンチャカ』


 アンプに繋がれないエレキギターの乾いた音が、構内に哀しく鳴り響く。


「―――ちくしょう……やってやる……いつかロックスターになって、こんな世界ぶっ壊してやる……! そんでもって世界中の女を手籠めにしてやるううううう!!」


 そう叫ぶと、頭上から光が差し込み、眩い光と共に奏太の体は音もなく消え去った―――


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