ドラゴンと私
ドラゴンとの1日です。
ドラゴンと今日から暮らすことになった。
(ふむ、しかし、普段の姿は人型じゃないんですね)
契約が終わって疲れたらしいドラゴンは、私にもたれかかった後、すぐに人型から元の姿に戻って、今は私の横で寝そべっている。
(それにしても綺麗ですね)
漆黒のウロコは太陽の光を反射した泉の模様をうつしていて、見ようによっては虹色にも見える。
薄く開いた目からのぞく金色の瞳は、宝石のように美しく、時折、光をうつしてはキラキラとその瞳を輝かしている。体は10メートル以上の大きさだが、不思議と怖いとは感じなかった。
(触ってみたいですね)
基本私は、爬虫類は苦手だ。
だが、ドラゴンはどうやら平気のようだ。触りたいという欲求に耐えられそうになかったので、触ることに関して許可を得ようと思った。
「ジョラゴンしゃん、ジョラゴンしゃん」
《あ?何だ?》
「ジョラゴンしゃんの綺麗なうりょこ、しゃわってもいいでちゅか?」
《俺の鱗?そんなん触ってどうすんだよ。物好きだな。鱗が欲しいと言われるのは珍しくはないが、触りたいとは…本当にハクは面白いな!》
大きなドラゴンの姿で笑うと迫力が凄い。
少しばかり恥ずかしいと感じてしまったが、欲求には勝てそうにない。
「ダメでちゅか?」
ドラゴンはひとしきり笑った後、
《いいぞ》
と言った。しかし、その後に続けて、
《俺のことを名前で呼べたらな》
と言った。
一瞬何を言われたのか分からなかったが、つまりはドラゴンと種族の名前で呼ぶのではなく、彼自身の名前で呼べということだと分かった。
(名前で呼ぶだけですか。意外と簡単ですね)
そう息巻いていたが……
「アーガチュちゃん……アーガシュしゃん、あー、が、しゅ、しゃん……」
どうやら滑舌の問題で、アーガスと呼ぶことが出来ない。
(年齢的に仕方のないことなのですから特に気にしなかったのですが、そこまで笑われると恥ずかしいです)
ドラゴン…もとい、アーガスは、私の滑舌の悪さに大爆笑である。
私が、顔を真っ赤にして少し涙目で睨んでやると……
《わはははっ、あー、すまねー……ふははっ》
笑いながら謝ってやがる……。
(流石に、私もここまで笑われるとイライラしてきますね)
フツフツと湧き上がってくる負の感情をぶつけてやろうかと思ったら、
《おっ、おいっ!ま、待て!話せばわかる》
一体何がわかるというのか、少し呆れてしまった。それと同時に、怒りも消え失せた。
《あー、驚いた。心臓が止まるかと思った。すまねーな、悪気はなかったんだよ。そうだな、俺の名前は、アース……言いにくければアーさんとでも呼べばいい》
何に驚いたのか分からなかったが、特に興味がなかったので流すことにした。
「アーしゃん、うりょこ、しゃわってもいいでちゅか?」
《あぁ、構わねーよ》
やっと許可を得たことなので私は存分に触ることにした。
(あー、初めて触りましたが、触り心地がいいですね)
顔、背中、腹と鱗を触っていって、最後に首もとに差しかかろうとしたところ……。
《ちょっと待て、首もとに1枚だけ逆さに生えてる鱗がわかるか?それにはあんまり触れんなよ?ちっとばかし、ドラゴンにとっては命の次に大事なもんだかんな》
「了解でちゅ」
やはり、竜の逆鱗というのはどこにでも存在するものなのか…と思っていると、
「……いちゃっ」
鱗に手を引っかけてしまった。血が出てしまったので救急箱を取りに行こうとした所、
《おい、どこ行くんだ?怪我したなら、俺に向かって手を出しな?》
理由はよくわからなかったが、大人しく言う通りに手を出した。
すると…
《〝この者を癒せ、ヒーリング〟》
何かを呟いたと思ったら、みるみる手の傷が治っていった。
(これが魔法ですか。凄いですね。さっきの契約の時、手を切っていましたが、傷がまったくないのでこれを使ったのでしょうか)
思わず感心していると、
《あー、やっぱ、苦手だなー。こういうのは、白竜…白いドラゴンの方が得意なんだけどなー》
気になる言葉が、聞こえた。
「苦手な魔法ってあるんでちゅか?何でもちゅかえる訳じゃないんでちゅか?」
質問してみると、丁寧に返してくれた。
《ああ、それぞれ得意不得意がある。俺ほどの大物になると属性が、関係なくなるんだが、やっぱり回復系の光魔法が…使えねーことはねーが苦手だな。その代わりに、闇系統の魔法が得意だ。これは、人間でも言えることだ。人間の場合、1人が使える魔法の属性が極端に少ない。まぁ、魔力量の問題もあるんだが…。とにかく、火、水、土、木、風、闇、光、無と…まー、細かく分けっとこうだな。ただし、そこにユニークが入ってくる。これは、いわゆる特殊能力だ。持っているだけで、注目の的だな。理由は簡単、劣っているものが極端にないからだ》
「万能なんでちゅか?」
《そういう訳じゃねーが…、あー、なんて言ったらいいのか…。あ!そうだ!例えばだな、3つ属性が使えるやつがいるとする。そいつとユニークを持ったやつが、戦うとする。どっちが勝つと思うか?》
「みっちゅの属性を持った人でちか?」
《正解……と言ってやりたいとこだが不正解だ。この場合は、引き分け、もしくは、ユニークを持ったやつが勝つ。理由はなんだと思う?》
「ユニークのひちょが、みっちゅの属性の人に勝ちゅような能力を持ってたからでちゅか?」
《おっ、正解だ。属性が少なくてもそれを補えるほどの力がユニークにはある。そして、そのユニークは希少性が高く、一国に一人いるかどうかと言ったところだろうな。まぁ、宣告してない奴もいるかもしれねーから俺にもわかんねーが…、話がそれちまったな。とりあえず俺が言いたいのは、人それぞれ使う魔法が異なるってこった》
「分かりまちた。わたちの場合はどんなのが得意とかわかりまちゅか?」
《んー、どうだろう。俺はそこら辺わかんねーからな。手っ取り早いのが、教会に行くことだが……》
そこまでのアーガスの言葉を聞いて思い出した。
「あーっ!」
《おわっ、何だ?どうした?》
心配してくれる声が聞こえるが、それどころではない。
(真白様に会いに教会に行くの忘れてました)
「アーしゃん、わたちやっぱり街に行きまちゅ」
《なんかあったか?》
「はい。真白ちゃま…神ちゃまに会いに行かないとダメなんでちゅ。待ってるんでちゅ」
《神がハクを待ってる?なんでんなことわかんだ?》
「ここに来りゅ前に約束したでちゅ。また会いましょうっちぇ」
《ここに来る前って…、お前どこいたんだよ…》
「しゃあ……。何も無いまっちろな空間にいまちた」
この言い方だとなにか誤解を生みそうだったが、白は気づいてない。
そして、ここにばっちり誤解したのがいた。
《ハク、おめー……、そんな苦労してたのか…》
「?」
私はアーガスの言っていることが、分からなかったので流すことにした。
《連れて行きたいのはやまやまなんだが、俺の魔力の問題と時間の問題で明日以降になりそうなんだが、構わねーか?》
仕方がないと思った。
真白様を待たせるのは忍びなかったが、だからといってアーガスを酷使するのは間違っていると私は思う。
(仕方がないです。真白様にはもう少し待っていただきましょう)
そう結論づけた後、お腹がなった。
(は、恥ずかしいです)
自分でも分かる今の私の顔は真っ赤だ。アーガスが、目の前で笑いを堪えている。殴りたい衝動に駆られるも、やはり空腹には勝てずに結局、食べることを優先することにした。
ガサゴソ……。
リュックを漁っていると、アーガスが後ろから覗いてきた。
《なあ、その中何が入ってるんだ?》
「食べもにょと、怪我を治療しゅる道具と、着替えにちゃおるでちゅ」
《意外と準備万端だな》
「はい、真白ちゃまが(魔法を教えてもらえない間)大変だろうかりゃって、用意してくれたんでちゅ」
《そうか…(外に出たことなくて)大変だからか…》
さっき誤解を解いてなかったから、新たな誤解を生んでしまった。だが、これにも白は気づかない。
目当ての物を取り出して食べようとした所、
《おいっ!そりゃ、ホントに食いもんか?》
「そうでちゅけど…」
何なのだろうか、食べたいのか?いや、それはないだろう。明らかに動揺している反応だ。
(そんなにこの見た目がおかしいのでしょうか…)
手に持ったカロリー〇イトをしげしげと眺めた後、アーガスに差し出した。
「食べてもいいでちゅよ」
毒ではないことを証明するため、私が食べてから差し出したが…
《いや、遠慮する…。よくそんな、土の塊みたいなの食えるな?》
土の塊とは失敬な。
「ちゃんとおいちいでちゅよ」
《そうか…》
それ以上、アーガスが話すことはなかった。
私は食べ終わったあと、眠くなったので寝ることにした。
「アーしゃん、おやすみなちゃい」
《 あぁ、おやすみ 》
アーガスはそういった後、私を囲うように体を丸めた。
(ふふっ、やっぱり優しいですねぇ…)
消えゆく意識の中で私はそう思ったのだった。
次は、ドラゴン…アーガスsideですね。
評価、ありがとうございます。




