九話 魔導の知識(後編)
「ソウの適正属性が四つ?」
「あぁ、そうだ」
適正属性?水と風、氷と光と言っていましたが……
「魔法にはまず無、風、水、火、土の五つの属性がある。これは五系統属性と呼ばれる物だ」
無。身体強化等で扱う基本的な属性。
誰でも扱うことが出来る属性なのですが、その力は未知数と言われています。
昔の方で他の属性が使えなかった人がこの属性を極め、体術の境地に至ったと言う伝説があるほど。
その力は万物を砕き、空ですら飛びまわる事が出来たんだとか。
最初はその昔話を聞いて、そんな事はあり得ないと思っていました。
ですがヤーコプ兄様はその可能性も捨てきれないと言います。
風や水、火に土はそれらを生み出して行使する魔法。
難易度が上がると、天災とも言える程の威力を誇る技を持つ属性たち。
この四つは先程の方の様に、魔法に適性を持たない人以外なら努力次第では全て獲得する事の出来る属性らしいです。
「そしてこの五つに属さない物、あるいは複合属性と呼ばれるのが系統外属性だ」
系統外属性。
氷、雷、木、光、闇の五種類を指します。
『複合属性というのは?』
「主に氷と木を指すが……。厳密には複合属性なんて物は存在しない」
「そうですね。それぞれ水と風、水と土属性の複合と言われていますが、あくまでその二つに適性を持つ人が氷や木属性に適性がある事が多いだけですね」
つまり、対応すると言われる属性適性を持っていても、系統外属性に適性があるとは限らない。
また系統外属性は先天的な物であり、後から使えるようになることは、まずないそうです。
「あ、確かに治癒魔法にはソウの適正属性が多いですね」
「あぁ、支援系の治癒魔法。これには水、風、光の三種が最も適している」
治癒魔法と聞いて僕は光しか浮かばなかったのですが、どうやら水と風も使えるようです。
「水属性は体内に入った毒や汚物を解毒・浄化することに応用出来る。風属性は体に悪影響を及ぼす汚染された空気や瘴気を浄化することに使用する」
「治癒本来の役割の他にも解毒や浄化作用を期待して使う事が多いですね」
治癒魔法の中でもそれぞれの属性ごとに得意な事があるようです。
「そして変質系の特徴は、ソウの魔力総量が少ない点を克服して鍛えることが出来る」
魔力総量は個人が持つ魔力の最大量の事。
魔法を行使すればするほど多くなっていき、個人差はある物の、大体の人が20歳程で成長が止まります。
僕の場合伸びる限界まではあと五年程……
普通の人が9歳頃から魔法を使い始めるのに対し、僕は全く魔法を使ったことが無く、魔力総量も全く上がってない状態なのです。
今から修行しても、たった五年でその遅れを取り返すのは不可能に近いのですが……
「変質系の魔法の行使に繊細な技術が求められることは教えたな?」
僕は頷きます。
「その魔法を毎日魔力が尽きるまで使う。魔力の繊細な使い方を覚えれば、ある程度まで魔力量の差を克服出来る」
つまり、量を質でカバーするという事。
勿論カバー出来る範囲はありますが、最高で自身の二倍程の魔力量の相手とも互角に撃ち合える程には成長出来ると言います。
「風は屋外ならほぼどこでも。水も城の庭にはある程度確保されているしな」
この城の庭には、近くの海に繋がる川がそのまま流れています。
大分前の代からこうなっているらしく、それを利用して池や噴水も庭の中にあります。
「何より、変質系を最初に覚えれば無詠唱魔法に発展させやすい。そこがソウにとって最大のメリットだ」
自然の流れを感じ取り、それを無詠唱時のイメージに当てはめる。
動きを感じ取りやすい水や風だからこそ出来る方法です。
「よし、一通り説明し終えたな。治癒魔法はリーネに任せるが、変質魔法は私が細かいアドバイスをする。第一目標としては小さな動作一つで水や風を一定の基準まで操れる様になることだ」
……魔法の行使だけでもやることは沢山ある。
そしてこの後に剣術の訓練もありますが、どちらも疎かにする気はありません。
僕はヤーコプ兄様に指示を受けながら、魔法の修行を始めました。
◇
「いや、すまないヴィルヘルム。つい夢中になりすぎてしまった」
「まぁ良いよ兄さん。……それにしても一日目で水をある程度操れる様になるなんてね」
「あぁ全くだ。私も操れる様になるまで少なくとも七日程はかかると思っていた」
ソウが魔法を習い始めた日の夜。
ヤーコプとヴィルヘルムは今日の事について話をしていた。
元々午前に魔法、午後には剣術を教えようとしていたのだが、ヤーコプがソウの魔力が切れるまで魔法を使わせてしまい、ソウが倒れた事で剣を教える事が出来なかった。
魔力を完全に使い果たすと、体に力を入れる事が出来なくなり倒れてしまう。
その事はヤーコプも知っていたが、ソウが初日から水を僅かではある物の操って見せたことにより、つい限界まで魔法を使わせてしまったのが原因だった。
「光の魔法は一般的な習い始めの子供と同程度、風は若干上回るぐらいだった。今後は水を中心に教えていこうと思う」
「あれ?兄さん、ソウの適正は四つあるんじゃなかった?」
「あぁ、その事なんだがな……」
◇
「……なるほど」
「リーネが教えてくれたんだが、まさかここまでとは……」
ソウが四つ目の適正である氷を使えない理由。
……どうやら嫉妬の魔人が関係しているらしい。
あの時どうやって魔人がソウから声を奪ったのかはわからないが、ソウは氷をイメージする時にどうしてもあの魔人を想像してしまうらしい。
魔人に対するトラウマが枷となり、魔法を上手く発現出来なくなってしまっているようだ。
「無理に使わせるのも酷だと思ってな。しばらく他の三属性をメインに鍛えよう、となった訳だが……」
「仕方が無いよ。心に深く刺さった棘は、そう安々と抜けるような物では無いし……。ただ、いずれは克服しなくちゃいけなくなる」
……いつまでもそのトラウマを引きずる事は出来ない。
どこかでソウにトラウマを克服させなければならないけど……
具体的な案は浮かばない。
「こればっかりは、ソウの気持ち次第になるね……」
「そうだな……。だが私達がサポートすればもしかすると……」
そんな風に今日の成果や今後の課題を話していたら、城で明かりがついているのは僕達の居る部屋だけとなってしまった。
「もうこんな時間か……」
「ヴィルヘルム、そろそろ時間じゃないのか?」
「あぁ、行って来るよ」
僕はそう言って兄さんと別れた。
◇
……向かうのは城の外。
町から離れた森の奥。
密集する木々の合間をすり抜ける様に走る。
大分走ると視界が開ける場所にでる。そこが目的の場所。
「……着いた」
木々が薙ぎ倒され、根すらも跡形も無く吹き飛んで出来た平地。
薄くではあるが霧がかかっていて、視界が悪いこの場所に佇む人影が一つ。
「……もう一度聞くけど、本当にやるのかい?」
人影はこちらに問いかける。
「……あぁ。俺は本気だ」
当然の様に返す。
元々そのためにここを選んだ。
「そうか……なら―――――」
次第に歩み寄ってきた人影は、普段使っている大剣ではなく腰に携えた片刃の直剣を引き抜く。
剣を引き抜くと同時にとてつもない圧が体から放たれる。
「――――手加減は出来ないよ?死ぬ気で習得するんだ」
俺は普段は目にしないような兄の表情に戦慄するも、剣を抜き相対した。
今の自分を……変える為に。
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