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六話 兄の思い

 ◇


 頭がぼんやりとする。

 ここは一体どこでしょうか?


 視界がはっきりとするとそこには見慣れた天井が。

 そして背には柔らかいベッドの感触。


 どうやらここは僕の部屋のようです。


 確か今日は僕の誕生日で……

 料理を楽しんでいたら確か魔人が現れて……


「――――――――!」


 ……思い出しました。


 僕は、魔人に声を取られた。


「―――――、―――――」


 先ほどから声を出そうとしても出てくるのは僅かな空気。

 あの魔人は確実に僕から声を奪っていきました。


「……」


 その事実に打ちのめされていると扉が開き、フレイ兄様が訪ねてきました。


「……起きたか?」

「……」


 僕は声を出すことが出来なかったので首を縦に振りました。


「そうか。……俺は隣の部屋にいるから、用があったら声をかけてくれ」


 フレイ兄様はそれだけ言うと扉を再び閉めました。


「……すまない」


 閉める直前に小さく響いた言葉は、何への謝罪だったのか。

 その時の僕には考える余裕はありませんでした。


 僕はもう動く気すら起きずに、枕に顔を埋めて声も出せずに泣き続ける事しか出来ませんでした。

 

 ◇


「そんな、どうしてソウがこんなことに巻き込まれたのよ!」


 城の一室には、ソウを除いた兄弟五人と国王夫妻、そして護衛隊長とアリシアの姿が。


「落ち着いて、メリッサ。今は過ぎてしまったことよりも今後の事を考えなきゃ」

「落ち着ける訳ないじゃないですか!ヴィルヘルム兄様はなぜ落ち着いていられるのですか!」


 宥めようとするヴィルヘルムに噛みつくメリッサ。


 兄弟の中ではソウと共にいる時間が長いこともあり相当心に余裕がなくなっていた。


「ソウは、ソウは歌が大好きだったのに……。それなのに声を奪われて、好きな歌が歌えなくなるなんて……。魔人なんて私が真っ二つにしてやります!」

「落ち着け!メリッサ!」

「ひぅ……ヤーコプ兄様……」


 取り乱すメリッサを怒鳴りつけたのは長男ヤーコプ。


「命には別条は無い。呪いを解く方法なら時期に見つかるだろう」

「ですが、ヤーコプ兄様が()()治らないと分かったのでしょう!?」

「……」


 メリッサに問われ返答に詰まるヤーコプ。

 実際、ソウに掛けられた呪いは、そう簡単に解けるようなものではなく、治す方法はほぼ無いに等しかった。


「まさか魔人を倒しても治らない類の呪いとはな……」

「私の力でも治せないような呪いなのですか?」


 重苦しく呟くルイスと呪いの治療が出来ないのか尋ねるアメリア。

 二人とも息子(ソウ)がどれだけ歌が好きなのか知っている為、治す方法が無いか考えている。


「……恐らく母上の力を使っても呪いで奪われた声を取り戻す事は出来ないでしょう」

「そう……」


 自分が役に立てないとわかると落ち込むアメリア。


「すまない、我が娘が付いていながらこの様とは……私がソウ君の傍にいてやれれば良かった」


 そう言ったのは護衛隊長のクリス。

 クリスの娘であるアリシアは、実戦の経験も積んでいて、幼いながらも能力ならば訓練された騎士にも劣らない逸材だった。


「いや、俺もフレイとアリシアが居ればソウに万が一が起こることはないだろうと思っていた。これは俺の判断ミスだ」


 自分を責めるクリスとルイス。

 しかし魔人は滅多に人前に姿を現すことが無く、この出来事を未然に防ぐのは不可能だった。


「皆自分を責めないでください!」


 そう声を荒げたのは次女リーネ。


「さっきから聞いてれば自分達の責任ばっかり!ソウは声を奪われて傷付くでしょう。それを支える私たちが落ち込んでどうするのですか!?」


 普段リーネが見せない表情に固まる一同。

 そしてその声を聞いた全員は次第に冷静さを取り戻し始めた。


「そうだね。何があっても僕たちがソウを支えれば良いんだ」

「リーネの言う通りだな。私も、呪いが解けない事を知って動揺し過ぎていた。私たちがしっかりと支えてやれば、きっと……」


 先ほどまで重苦しかった雰囲気は、ソウに何があっても支え続けると言うリーネの言葉でガラリと変わりました。


「じゃあ明日からも、普段と変わりなくソウと接するように」


 ルイスの言葉で締められた場から、それぞれの思いを胸に立ち去る全員。

 本人には知られぬ所で、各々の物語は動き始めた。


 ◇


「リーネのおかげで助かったね、兄さん?」

「あぁ、怒った時のメリッサは私には手が付けられない」


 自分たちの部屋に向かう双子の長男(ヤーコプ)次男(ヴィルヘルム)


 二人とも蒼く澄んだ瞳を持っているが、髪はヤーコプが蒼。

 ヴィルヘルムは金と、とても似つかない色をしていた。


「あはは……。まさか()()()()()()見ても治らないとしか解らないなんてね」

「治らない訳では無いが……。まぁ、期待できないだろうな……」


 代々国王の一家で蒼い髪、蒼い瞳を持って生まれたものは、何らかの加護(ちから)を持って生まれる。


 アメリア、ヤーコプ、リーネ、ソウもその例に漏れず特殊な力を持って生まれた。

 ヤーコプの場合はその()


 見た対象の状態や能力、魔力の流れや動き。文字や古文書などの場合は描かれているその意味。

 それらの真理を()()事が出来る瞳。


 普段はそれを抑える為に、自らが作り出した魔道具である眼鏡を掛けている。

 眼鏡を掛けている間はそれらの情報が入るのを防ぐことが出来るが、ソウの容態を()()為、その眼鏡を外していた。


「声……か。ソウにとって、これを取られるのはどれほどの苦痛なのか。私にはとても推し量れない……」

「……それで命を絶とうとしても、僕達が止めるんだ。まだ、治る可能性はあるんでしょう?」


 問いかけるヴィルヘルム。


「……とても、あるとは言えないが、無い訳では無い」

「なら、その可能性を試すだけ。そうだろう?兄さん」

「あぁ……そうだな」


 やがて一つの部屋の前に着く。


「じゃあまた明日、兄さん。ソウの事はいつも通りだからね?」

「あぁ、お前も。お休み」


 そう言って部屋に入るヤーコプ。


「可能性……か」


 部屋で一人、誰にと言う訳でも無く呟く。


「人に出来る事は無い物が可能性と言えるのか……私には解らないな」


 そう呟くと部屋の中で一人、いつも皆の中心で楽しく歌を歌っていた弟の姿を思う。


 公務で傍に居てやれない。その事を兄として申し訳ないと思っていた。


 それでも夜、疲れている中でも共にいる時間を作ろうとソウに勉強を教えていた。


 ソウはそんな自分を励ますために静かに歌を歌ってくれた。

 一緒に居る時間が少なく、面倒を見てやれない。


 そんな兄でも好きだと励ましてくれた。

 兄として、誇らしい弟を持ったと思った。


 そんな弟が十五歳になり大人となった。

 今日もそのパーティの準備で忙しく、晴れ姿を見ることは叶わなかったが、それでもそれが終わったら精一杯の祝いの言葉を掛けてやろうと、そう思っていた。


 だが魔人が現れたと言う報告を聞き駆け付けた時には、最愛の弟は声を奪われた後だった。


 それでも尚、縋る思いでいつもは外す事の無い眼鏡を外して、それを知った時は言葉を失った。


『奪われた声に、天が慈悲を与える。人はそれをただ祈るのみ』


 自分達に残されている手段は、何の捻りも無く、天に祈る。

 もはや手段と呼べるような物ではなかった。


 (こんな曖昧な物が真理とは……笑わせてくれる)


 自分に何も出来ないと知った時には、己を呪った。

 そして天に救いを求めろと見せるこの目にも嫌気がさした。


 (それでも、もし治るのなら……)


 例え、天に祈ることしか出来なくとも……


 (あの子がまた、笑って歌える日が来るように……)


 弟を思う兄は一人、その部屋の窓辺で静かに弟の為に涙し、静かに佇む夜空の星々に祈った。

明日も更新します。

時間帯は少々ずれるかもしれません。

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