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五話 騒乱の爪跡

 広間の中央、相対するのは魔人と騎士。


「やはり腕を落としたぐらいでは動じませんか。流石に魔人は格が違いますね」


 魔族と魔人。双方ともに人に近い姿形をしているが、その強さは比べ物にはならない程の差がある。

 魔族の保有魔力量は人間より少し多いほどに留まるが、魔人の()()は数十倍とも数百倍ともいわれている。


 そして、魔力の制御能力も人間や魔族とは比べるまでも無く高い。


 何より特筆すべきが、その異常なまでの再生能力。

 多少の傷程度なら瞬時に回復し、流石に部位欠損は時間がかかる物の、それでも放っておけば完治してしまう程に強靭な生命力を持ち合わせていた。


 かつて英雄ルイスと戦った魔王サタナエルも魔人であったとされ、『憤怒』の魔人と言う名でも知られていた。


「大罪の力を背負うとされる魔人が、一体ソウをどうするつもりだったのですか?」


 僕は疑問に思っていた事を口にする。


「……特にどうということでもないわ。ただあの子の声が欲しかっただけ」


 本当にどうでもいい事のように魔人は言い放った。

 腕を切られてもなお、余裕の表情を浮かべている。


「なるほど。ではその声、返して頂きますよ?」


 まぁ、とにかく今はこの魔人を止める。

 僕はそのことに集中するだけだ。


 先ほどの様子だと、魔人はソウ以外には全く興味を示していない。

 だがいつ、その暴威が他の人々に危害を加えないとも限らない。


 そして、恐らく奪われたソウの声を取り返すのなら、この魔人を倒すことは必須だろう。


「あら、腕一本落としたぐらいで良い気にならないでもらえるかしら?」

「えぇ、一本では大して問題ないでしょう――――」




 だから、僕は残っていたもう一本の腕も切り飛ばした。




「―――――これで両腕、使えませんよね?」

「―――――!?」


 立て続けに両腕を切り落とされたのには驚いたのか、魔人の表情が一変する。

 ですが、ここで攻撃の手を緩めれば落とした両腕は次第に再生されるのは確実。


閃刃(せんじん)


 先ほどから魔人を刻んでいる技をもう一度発動させる。


 速度をそのまま威力に変換するこの技は、相手に防がれると同時に効果を失い無駄に終わってしまう。


 ならば、魔人が動揺している今が好機。

 そう思い一気に距離を詰め、今度は右足を狙う。


「クッ……!」

「……避けられましたか」


 しかし魔人の右足を狙った刃は、ギリギリの所で回避されてしまった。


「……今あなたの相手をするのは確かに無理ね。憎たらしいけれど油断した私の失態……。まぁ、目的は果たさせてもらった訳だし、逃げさせて貰うわ」

「そんなことさせ――――ッ!」


 逃げようとする魔人を目掛けもう一度「閃刃」を放とうとするも、先ほど切り落とした両腕が魔力で重さを増して僕の両足に掴みかかった。


 まさか切り落とした腕に足を取られるとは予想していなかった為に、咄嗟の判断が遅れてしまった。

 この状態で「閃刃」を放ったとしても、速度が足りずに威力が出せない……


 そうしている内に魔人は背から翼を広げ、扉から出ていこうとする。


「さようなら……きっとまた来るわ」

「せめてこれだけでも……。『閃電(せんでん)』!」


 何とか逃げる魔人を狙い、最も速度のある魔法で追撃する。

 翼に直撃はしたものの威力が足りず、そのまま魔人を逃がしてしまった。


「翼があることは知ってたけど……まさか切り落とした腕が動けるとはね……。やられた」


 魔人が去ったその後、僕は知らせを受け駆け付けた父さん、兄さん、護衛隊長に魔人が襲撃してきたこと、ソウが魔人に声を奪われたこと、魔人を取り逃がしてしまった事を説明した。


 結局その日はパーティを中止し、午後は魔人への対策、事件の後片付けに追われる事になった。


 ◇


「迂闊だったわね……」


 まさか腕を切り落とされるとは思ってもみなかった。

 それでもあの時落ちている腕を駆使すれば、あの青年を殺すことは出来たかもしれない。


 しかし、それでは自分の命も危うかった。


 少なくともあの青年以上の力を持った人間が三人はこちらに向かっていた。

 油断し、両腕を切り落とされた自分ではその三人を相手するのは不可能だっただろう。


 いくら魔人の魔力量が膨大とはいえ、その三人相手に腕を再生する暇なくたて続けに戦い切るのは難しい。


 全ては相手の力量を見誤った自分の失態だ。


「でも……目的の声は手に入った」


 だが、それでも成果はあった。


 『音精』と名高い少年の美しい声を奪えた。

 それだけで私の心は高鳴った。


 あらゆる美しい物を奪う。ただそれだけが存在する理由。

 人の才を妬み、その才を奪う……。


 才を奪われた人間の顔を見るのはとてつもなく楽しい。


 その折れた心を見れるのなら……両腕ぐらいなら代償の内になど入らない。


 既に再生が終わった両腕の感覚を確かめると、嫉妬の魔人は再び動き出した。


「それにしてもあの騎士君の電撃……とっても痺れたわね……」


 魔人はそう言って、攻撃を食らった翼をさする。

 すると傷は、徐々に回復していった。


「剣の腕だけでなく、魔人の装甲とも言える翼に傷を付けるほどの魔法……。良いわね、とっても羨ましいわ」


 回復し終えた翼を背にしまい、魔人はふと呟く。


「でも、今はまだ奪えない……しばらくは誰かの嫉妬を煽って力を蓄えようかしら」


 城から離れた森の奥。

 悪意はまだ止まることはなかった。

明日もこの時間帯に投稿予定

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