四話 闇に刺す光
すいません、諸事情でこの時間の更新となりました。
◇
「クソッ!あの時もっと早く対処していれば……!」
嫉妬の魔人と名乗った女と相対した瞬間に、嫌な予感はしていた。
ソウは最初、全く気が付かない様子だったが、あれは明らかに危険な存在だった。
それでもどこか、何も起きることは無いと言う慢心があったのだろう……
それが今、どうだ?
奴は明確な殺意を持ってソウを狙い、俺は広間に放たれた霧のせいで奴を見失うどころか、ソウの姿すら見えなくなってしまった。
「待て、焦るな。今必要なのは冷静さを欠くことじゃない……!」
視界を奪われた時の対処法は、兄さんに教わっただろう?
焦る気持ちを抑え、俺は魔力の膜を自分の周りに貼る。
そして膜の範囲を徐々に拡げて行く……
(霧のせいでわかり辛いが……右に何やらモヤが掛かったような気配とソウの気配がある……これか!!)
俺は奴の気配を捉えると、その気配を目掛け剣を抜き放つ。
とにかく早く奴をソウから引き離す、その一心で奴を狙う。
『閃穿!!』
とにかく早く!とにかく鋭く!
「あら、よく私の姿を捉えられたわね?」
だが、俺の剣は奴に届く事は無かった……
ほんの僅かに奴の立つ位置を変えるぐらいしか出来なかったが、今はそれでも良い。
俺はソウと魔人の間に立つ。
とにかく、これ以上奴をソウに近づけさせる訳にはいかない。
「あらあら、そんなに必死になっちゃって……よっぽど弟クンが大切なのね?」
「お前、その声は……」
俺に向けて魔人が話しかける。
その声は……
「ええ、そうよ。その子から声を貰ったの。本当に綺麗な声だと思わない?」
「ッッ!」
紛れもなくソウの声だった。
俺はもう理性を保て無かった。
とにかく、とにかく今は奴を殺す!
しかし、その剣もまた届く事が無い。
奴に剣が当たるイメージが沸かない。
それでも尚、怒りで剣を振り続ける……
「ダメ、駄目ね。そんな剣じゃ全然当たらないわよ?」
魔人は余裕の笑みを浮かべながら剣を避け続ける。
だが、
「はぁ、もう良いわ。邪魔よ」
「ぐっ……!」
避け続ける事に飽きたのか、魔人は魔力を収束させ俺に撃ち放つ。
闇雲に剣を振り続けていた俺は、それをまともに受け吹き飛ばされる。
「もう用事は済んだし、私は帰るわ」
「帰す訳無いでしょ!」
魔人の顔のすぐそばにアリシアの拳が振り抜かれる。
彼女もまた魔人の気配を捉える事で、この霧の中でも魔人の居場所を特定出来たのだろう。
「鬱陶しいわね、失せなさい」
「キャアッッ!」
しかしこの霧は魔人に意味を成さないのか、アリシア目掛け魔人は的確に魔弾を放つ。
アリシアもまた受け身を取る事が出来ず、魔弾を右肩に受けて吹き飛ばされた。
「これ以上抵抗されるのも面倒ね、今すぐ楽にしてあげるわ」
そう言うと魔人は俺とアリシア目掛け、先程から撃ってきた魔弾よりもさらに強力な魔法を撃ち込む。
先程の魔弾ですら大量の魔力によって放たれたため、直撃を受けた俺もアリシアもまだ動く事が出来ない……
そしてこの一撃はさらに強力。
まともに喰らえば即死……
『神聖なる光!!』
その一撃は、突如舞い込んだ光によって掻き消された。
◇
「良いかい?僕の魔法でこの扉を開ける。君たちは直ちに混乱している者たちの避難と安全確保を」
「「「「ハッ!!」」」」
大広間の異変は、とても迅速に報告された。
突如として全ての扉と窓が閉じられ、更に中から膨大な魔力が発せられると言う異変を察知した騎士たちの行動は的確だった。
自分たちの力量では対処する事は不可能と判断。
必要最低限の人間以外を連絡に割き、大広間への立ち入りを封鎖。
これ以上の被害拡大を防ぐための処置だった。
連絡に向かった者たちはそれぞれ国王、第一王子、騎士団長、護衛隊長の元へと急ぎ、最初に知らせを受け到着したのが、騎士団長であり第二王子。
ヴィルヘルム・ルイス・オルティースだった。
◇
(ソウ……フレイ……無事でいてくれ……!)
『解放』
短い詠唱と共に、一斉に中央と左右の扉にまとわりついている魔力を散らす。
中の状況を考えればここで更に助けを遅らせるような真似は出来ない……!
扉には相当量の魔力が付与されている……
当然こちらに要求される魔力量も上がるが、まだ問題ない。
開いた扉からはパニックに陥っていた客たちと、濃密な魔力を含んだ霧があふれてきた。
「我々は騎士団です!指示に従いながら避難して下さい!」
「皆様、こちらです!この階段を降りて外に出て下さい!」
それぞれの扉の前で待機していた騎士達が客を避難させる。
その時、広間の中央で高まり始めた魔力を感じる。
そしてその周辺にはソウとフレイ、そしてソウの友達のアリシアの魔力も。
(マズい!)
ソウもフレイもアリシアも動けないのか、その場から動く気配が感じられない。
『神聖なる光!!』
咄嗟に放った魔法は、放たれかけた黒い塊を散らし、広間に拡がっていた霧すらも掻き消した。
「ヴィルヘルム兄さん!」
「ヴィルヘルム様!」
どうやら二人は意識があるようだが、一人倒れているソウは少しも動く様子が無い。
そして二人もそれぞれ胸と右肩に魔法を受けた跡が見えた。
「フレイ!アリシア!ソウを連れてここから出るんだ!」
「くっ、わかった!」
「はい!」
フレイはソウを抱えて動き出し、アリシアもそれを追う様に動き始めた。
「……あなたは?」
僕に向けて話しかける魔人。
だがその前に聞きたい事がある。
「その前に一つ聞いてもよろしいですか?」
「あら、何かしら?質問しているのは私なのだけれど?」
「失礼しました、僕はヴィルヘルム・ルイス・オルティース。ソウとフレイの兄です」
魔人に向かって自己紹介をする。
でも、内心は……
「所であなたは、何故その声をしているのですか?」
「あぁこの声ね?」
魔人はわざとらしくゆっくりと答えた。
「さっきの蒼い髪の子から貰ったの。綺麗な声だと思わない?」
……魔人が答えた瞬間、僕は背に掛けていた大剣で魔人の腕を切り落とした。
「そうですか、なら……死んでもらいますよ?」
僕は腕を落とされても尚、動じぬ魔人に対して言い放った。
明日の投稿の予定はありません。
明後日18時頃に更新いたします。