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6.プロローグ
目の前に広がるのは、炎の赤、血しぶきの赤、赤、赤、赤――真っ赤に染まる視界に戸惑いを覚えながら、少女は目の前に倒れる人影を揺り起こす。
「リシュカ様!早くお逃げになってください!」
「え?あ、この人が、倒れ……て……!?」
揺り起こした人物には、あるべき場所にあるべきものが――頭がなかった。
「ひぃ!?」
少女、リシュカは、血にまみれた己の手を見て後ずさる。
「あ、いや……」
「逃げ……グゥッ!?」
「あ……」
幼少の時から面倒を見ていてくれた侍女の顔が、目の前で苦痛に歪む。
「逃げ……て……」
「う、あぁ……」
突然、後ろから手をつかまれ、引っ張られる。
直後、寸前までリシュカのいた場所に、死をまき散らす凶刃が振り下ろされる。
「……!」
誰ともわからない人物に背中を押される勢いに任せて、リシュカは走り出す。
血と炎の狂宴を背後に置き去りにしながら、運命を狂わされた少女はまだ見えぬ道の先を目指す。
その先に待つのは希望か絶望か、急に曲調の変わった少女の人生は、楽譜の続きを失い、即興演奏へと突入する……