表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Requiem of The TAMASYI!! ~転生双子の大冒険~  作者: 平行線R
第0章 プロローグ
5/22

5.行商の始まり②

本日2本目、そしてラストです。

 2台の馬車が、街道を行く。

 前を行く馬車の御者席に座るのはカロン、そして、後ろを行く馬車の御者はエリスだ。子ども達は2人ともカロンの馬車に、荷物と一緒に乗っていて、ソルがそっと外の様子をうかがうと、後ろから自分たちの安全を見守る母親の姿が目に映る。

 パルミコの町から出発してすでに2日、普通の子どもであればどれだけ我慢強い子供であろうと、代わり映えのしない外の景色に飽きて駄々をこね始める頃だろうが、ソルは全くそのような感情を抱くことはなかった。

 旅に出るという行為に感動を得ていたし、もとより一人遊びが好きな性格なのもあって、暇になったら色々なことを想像していれば事足りたのである。

 むしろ、ソルにはルナが何故この退屈な旅に耐えられるのかが不思議でたまらなかった。

 確かに、ルナも年の割には大人びていると思うことはあるが、それでも子供の大人っぽさというものにも限界がある。ルナのその姿はソルには少し異様に映ったのだ。

「ルナ、暇じゃないの?」

 耐えかねて、こう聞いてみた時に返ってきた答えはこうだ。

「ん?あんた退屈なの?遊んであげようか?」

 自分も少しは退屈しているから少しくらいなら付き合ってあげてもいいわよ、と言わんばかりの口調に、思わず頭を抱えたくなる。

 ルナはいつもこうだ。3歳の時、ある程度無理に動いても問題がない年齢に達したと判断したソルが、秘密裏に腹筋運動や走り込み、握力を鍛えるトレーニングなどを始めた時も、隣で見ていたルナは平然とした顔つきで自分もやってみたいなどと言い出した。それから毎日、少しづつトレーニング量を増やしながら続けてきていたが、ルナは何が楽しいのか1日も休まずにトレーニングについてきている。最近ではルナが言い出した練習メニューも追加されており、それがまた実に効果的なトレーニングだったりして、いったいどこでそんな知識を覚えてきたのかと戦慄することもしばしばだ。

 ちなみに、流石に5歳同士で遊んでもつまらないだろうと思い、この時は、聞いてみただけ、と断った。

 パルミコの隣の都市、ラルクスが見えてきたのは、その3時間後のことである。


   ♪


 パルミコ市、ラルクス市、ヨンドル市、そしてイセナ市は、イセナを首都とするイセナリア連邦に所属する4つの都市で、互いの間には定期的に整備される街道、旅の休憩地となる村などが多数存在している。

 イセナリア4都市と呼ばれるその都市の中でも、パルミコとラルクスは連邦結成以前から国交を結び、協力関係にあった都市だ。その結びつきは強く、現在でも昔の名残として2つの都市の混成軍が存在している。

 最近では4都市における産業の分布は偏りが少なくなってきてはいるが、特産品と呼べるような品物はほかの都市では作ることができないため、行商人が存在する意義は失われてはいない。

 ラルクスでは美しく刺繍が施されたラルクス織や、製法が特殊なため出回ることが少ないラルク酢という伝統のお酢が仕入れの対象とされる。

「止まれ。どこから来た?」

 どこの町でも高圧的な役人が、ルナ達の乗る馬車を呼び止める。

「ああ、パルミコから来ました。後ろの馬車は女房です」

「では、2台一緒に手続きをする。まず……」

 パルミコから出たことがないルナとソルにとっては当然初めてのことだ。普通の子どもならばこんな態度を取られたら怖くて泣き出してしまうかもしれない。だと言うのに、泣き出すどころか平然としている弟の姿に、ルナは戦慄を覚える。

 思えば、ルナが毎日続けているトレーニングも、ソルに付き合うという口実で始めたものだ。どこで聞いてきたのか知らないが、3歳の弟が急にトレーニングを、それも楽しむためのものでなく純粋に筋力を高めるためのトレーニングを始めた時は、さすがに驚愕を隠せなかった。しかし、自分がトレーニングをする口実ができたのと、大人に不審がられてもソルの真似をして遊んでいると言うことができるようになったので、あまり大人に見つからないようにソルを誘導しながら一緒にトレーニングを続けている。

 そんなことを考えていると、カロンとエリスが手続きを終えたようで、ルナとソルが乗る馬車へと戻ってくる。

「通ってよし」

 役人の声が響き、2台の馬車はラルクスの門を通り抜けて市内に入る。

 ルナが後ろを振り向くと、エリスの馬車の後ろで役人がまた同じ言葉を繰り返しているのが見えた。

 市内に入るために旅人がする必要がある手続きには、通行手形を提示することと都市への滞在税を払うことがある。通行手形にもいろいろあるので町や都市によってはほかの税金が免除される場合もあるが、カロンたちがラルクスに来るのは5年ぶりになるのでどちらにしても通行手形の再発行の時にお金を払う必要がある。その他にも、商人が扱う商品や芸術品にはその都市が設定した関税が掛けられるが、カロンたちは今回はパルミコから自分たちの荷物しか持ってこなかったので、対象とはならなかった。

 ルナがラルクスの街並みをキョロキョロと見まわしていると、ソルがツンツンとルナの肩を突き、可笑しそうに声を出した。

「ルナもこういう新しい場所は珍しいんだな。田舎もんみたいだぞ?」

「ははは、そう言ってやるなよソル。ほら、後ろで母さんも似たようにキョロキョロしてるぜ?」

 ルナが反論のために口を開こうとするより前にそう言ったカロンの言う通り、後ろを見るとエリスが同じようにキョロキョロと周りを見回していた。

 近所の人から、ルナはエリスによく似ていると言われていたが、どうやらそれは仕草にまで現れていたらしい。エリスもルナも、初めての場所や久しぶりの場所では周りが気になってしょうがないのだ。

「じゃあ、ソル、ルナ、町に入ってまず最初にすることはなんだか、覚えてるか?」

 将来有望な行商人の卵である子供たちを育てるため、カロンが子供たちに問題を出す。

 当然、ルナは答えられるが、それならむしろ弟の成長のために、と思い、すぐに答えることは控える。が、ソルもなかなか答えようとしないので、仕方なく答えることにした。

「馬車を―――」

「馬―――あ!」

 ソルとタイミングが被ってしまったので、2人とも黙り込む。

 カロンはそんな双子を可笑しそうに見ていたが、さすがにずっと後ろを向いているわけにもいかないので前を向いて馬車の操作に戻った。

 ちなみに、正解は馬車を停めるである。

 馬車は大きいので、市内に入ったら馬と馬車を馬小屋に預ける必要がある。なので、馬小屋は都市に入ってすぐのところにあるか、馬車が通れる大通りの近くにあることが多い。

 ちなみに、馬のような使い方をするのであれば、どんな生き物だろうと預けるところは馬小屋である。

 数時間後。

 ルナとソルは宿の部屋で筋トレをしていた。

「ルナ、まだ50回?遅くね?2日トレーニングしなかったせいで鈍ってるんじゃねぇの?」

「ふん、ソルこそ、もう疲れたの?まだ腹筋71回目じゃない?」

「ただいまー」

 ガチャリと音を立ててエリスがドアから顔を出した瞬間、2人はうーんと伸びをしたような態勢になって床に寝転がる。

「2人とも、何してるの?」

「芋虫ごっこー」

「蛇ごっこー」

「そ、そう。でも、そういう遊びはベッドの上でしなさい?それと、夕飯の時間だから降りてきて」

「はーい」

「わかったー」

 2人の返事を聞いて若干引いた様子のエリスは、それだけ言うとドアの向こうに体を引っ込めていった。

(芋虫ごっことか、言うんじゃなかった……)

 などと、内心で自分の言ったことに落ち込みながら、ルナはソルを立たせてエリスの待っている宿の食堂へと降りて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ