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Requiem of The TAMASYI!! ~転生双子の大冒険~  作者: 平行線R
第0章 プロローグ
4/22

4.行商の始まり①

本日はこの後にもう1話、22時に投稿します。

 ガラガラと、目の前を荷馬車が通り過ぎていく。

 きっと、どこかの商人の荷馬車だろう。

 パルミコに住む5歳の少年、ソル=リクセルは、それを目線で見送ると、待ちきれないといった様子で自分たちの前で止まる荷馬車がやってくるのを待っていた。

「ソル、そんなにソワソワすることでもないでしょ?」

「何言ってんだよルナ!今日から俺たちは行商に出るんだぞ?これが興奮せずにいられるか?」

「行商は、あんたみたいな子供には大変よ。それに私たちはただついていくだけで、仕入れとか、交渉は全部お父さんとお母さんがやるんだから」

 隣に立つ双子の姉のルナはそう言うが、ソルは聞く耳を持たない。

 ソルとルナの父親のカロンと母親のエリスは、25歳でこの町、パルミコでソルとルナの2人を出産すると、それまでやってきた行商の仕事を休止してこの町に腰を落ち着けた。生まれたばかりの赤ん坊を連れての旅は危険すぎるし、子供には同年代の友達が必要だと考えていたからだ。

 実際、普通に生活しているだけでも赤ん坊への危険というものは付きまとっていたので、カロンもエリスも自分たちの判断が間違っていたとは思っていないだろう。

 だと言うのに、5歳という幼さの2人を連れて再び旅に出ようとしているのは、ソルとルナの性格に原因がある。

 カロンとエリスは2人に安全な生活を提供することはできたが、2人は同年代の友達を作ることはできなかった――否、作らなかったのだ。ソルは周りの子どもたちの幼稚な言動に付き合うことができず、自分の世界に没頭した。同じくルナも、何故かはわからないが周りとそりが合わないようで、自分の世界に籠っていった。

 だから、ソルはカロンにこう提案した。

 行商を再開したら、自分もついていく。だから行商を再開してほしい、と。

 最初は渋っていた両親だったが、その後に話し合いに加わったルナもソルに賛成し、さらにソルが一家の財産のことを話題にすると、カロンとエリスも渋々ながら了承してくれた。ソルは現在の仕事が赤字で、5年前までに稼いだ財産が減っていく一方だということを、敏感に察知していたのだ。

「ソル、わくわくするだろうし、旅がとても魅力的なものに感じるのはわかるわ。お母さんも最初は不安よりも旅への期待の方が大きかったもの。けど、ひとつだけ覚えておいてね?旅をすることは、楽しいこともあるけれど苦しいことも……」

「苦しいこともたくさんあって、常に危険と隣り合わせ、でしょ?毎日さんざん耳にタコができるくらい聞かされたよ」

 傍らにいるエリスが、ソルの様子を見て、家族での話し合い以来口癖のように言っている言葉を言う。

「そう。夢を邪魔するようなことを言うけれど、これからの旅は絶対にソルの思い描いていた旅とは違ったものになるわ」

「母さんが言っていることはわかるよ。けど、わくわくするのは俺の勝手でしょ?俺が勝手にわくわくして、勝手に絶望するだけなんだから」

「……そう、確かにそうね。でも、できれば絶望はして欲しくないわ。たとえそれがあなたの勝手でも」

 一瞬言葉に詰まったエリスは、このまま会話を続けても言い負かされるだけだと悟ったのか、口を閉じた。言っていることは子供っぽい屁理屈に近いものなのだが、妙に言い回しが大人っぽいので、初めて会った人には少し驚かれる。が、すでに日々の生活で慣れているエリスは呆れながらもいつものことだ、と受け流した。


   ♪


 5歳児、ルナ=リクセルは、双子の弟のソルを戒めながらも、自分もそれ以上にわくわくしながら、父親であるカロンが馬車を連れてくるのを待っていた。

 家族4人で5年間暮らしたこの宿は、やがて来る旅立ちの時を想定してか、馬車で乗り入れて荷物の出し入れができる商人用の宿なのだ。宿の店主はカロンとエリスの友人なので、ルナも良くしてもらっていた。

 ルナは、隣でエリスとソルがいつものやり取りを始めたので、2人をぼんやりと見つめながら複雑な気持ちを抱いていた。ソルのことはルナも心配で、おとなしく親の言うことに従えばいいのにと思うが、いざカロンやエリスから同じようなことを言われると、自分もソルと同じような反応をしてしまう。仮に自分が親の立場になったら子供に対して過保護になってしまうだろうとは思うが、自分はそんなことを言われるほど子供じゃないと思う心が、親への反発心を生んでしまうのだ。

 ルナがそんなことを考えていると、ガラガラガラと、荷馬車がやってきた。

「遅くなったな。なんか馬車を預けてた店が混んでてさ。店主に会うのに手間取っちまった」

 御者台に座る男、カロンは、ルナとソルを見てニカッと笑うと、そう言った。

 以前聞いたところによると、カロンはちょっと大きな店を持っている知り合いに荷馬車を預けていたのだという。

 見ると、後ろからはその店の人間だと思われる人が操る、もう1台の荷馬車が続いている。ルナはその男の顔をジィッと見てみたが、ルナが知っている人間にこんな人はいなかった。

「お帰り!親父!後ろの人は?」

「ああ。こいつを預けてた店の従業員さんだ」

「あら、でもそんな人いたかしら?」

「去年から務めてるらしいからな。俺も今日初めて会った」

 ルナの疑問は、帰ってくるなり投げかけられたソルの質問によって解消された。その後、カロンは引き留めたがその男はそのまま歩いて帰っていったので、パルミコから去るルナ達と関わることは、もうないだろう。

 御者台に座るカロンが、行き場の失った苦笑を向けてくる。

「わざわざ手伝ってもらったからお茶でもと思ったんだけどな」

「家族だけのところにいきなり放り込まれても、安心してお茶なんてできないわよ」

 考えの足りないカロンを笑ってたしなめたエリスは、さて、と手を叩いた。

「じゃあ、2人とも、荷物の確認はできてる?今日、荷物を積み込んで、明日、出発するわよ」

 いよいよ現実のものになろうとしている旅の気配を感じながら、リクセル一家は、旅の準備の最終確認へと移っていった。

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