22.出発!
「さあ、行くぞ!」
「ハ、ハイィ!!」
『な、なあエリス、なんでこの人までついて来てんの?』
『わからないわよ!え、このまま行くの?ねえ、本当に誰なのこの人……』
あれよあれよという間にことが進み、気づけば目標の森の前である。
ついてきてくれた村の人間に馬を任せて、4人はこれからこの森に入るのだ。
何気にこの集団の中で最年少であるカロンとエリスは、小さく縮こまりながら目の前のやり取りと、森を見比べる。
『……大丈夫なんだろうか?』
『とりあえず……2人とも腕は立つみたいだし、良いんじゃない?』
『うーん、連携ガタガタな気がするなぁ……』
「よし、それでは、森に入るぞ。役割は事前に決めたとおりだ。異論は?」
「あ、ありま、ありません!」
「無いです」
「同じく無いです」
こんなメンバーでも、一応、森につく前に話し合いくらいはしてある。
カロンとエリスも、長らく人前で握ってこなかった武器を持ち、森の魔獣に備える。
護衛なしで旅をしてきた2人は、実は戦闘もできるのだ。
「武器を確認する。俺はこの剣だ」
「や、槍です……」
「この剣です」
「えーと、この短剣です」
エリスは短剣を数本見せ、そしてベルトにしまう。
これは、投げナイフとして使ったり、普通に相手に切りかかる用途で使ったりもするため、必ず数本セットで持ち歩いている物だ。
欠けたらその都度補充することになってしまうので、できることなら必ず戦闘後に回収するようにしている。
「ふむ、準備は良いようだな。それでは、進むことにする。ガット、頼むぞ!」
「ハ、ハイィ!?」
「お前が一番詳しいんだろう?」
「あ、ああ……はい……んじゃあ、俺が先行しますんで……」
大丈夫なのだろうか……
そんな不安を抱えながら、一行は森の中へと入っていった……
数分後。
「……いるなぁ」
「……あれは、トカゲか?」
「そうですね……どうします?」
「俺が行こう」
「隊長が?大丈夫なんですか?」
「舐めるな!なんだ!?年を気にしてるのか!?」
「いや、だって隊長、そろそろ爺さんじゃないですか……」
「だれがくそ爺だ!ええい、良いから見ておけ!」
『あの二人、あんなに怒鳴ってるのに、なんで少し離れると声がスッと聞こえなくなるの?』
『さあ、そういう話し方でもあるんじゃないのか?にしても、耳の悪い爺さんだなぁ……』
「おいそこ!聞こえてるぞ!誰が地獄耳の鬼教官だ!!」
「あ、すいません」
『結局耳が良いの?それとも悪いの?』
『いや、もうこそこそ話はやめとこう。地獄耳の鬼教官殿に怒られる』
「誰が耳の悪い爺さんだぁ!!ええい、もう良い、とりあえず、あれは俺が殺る!」
「あ……」
ガットが制止しようとするが、それを振り切り、テッド兵団長は音もたてずに走り出し、前方にいたトカゲ型の魔獣を切り伏せる。
続いて、何を思ったのかその場でくるりと方向転換、あらぬ方向に向かって剣を振るうと……
「グゲェェェ!!」
「ふん、擬態なんぞに俺の目は誤魔化されんぞ!」
なんと、切り払った場所にあった緑色のツタから、突如鮮血が飛び散り、ツタがのたうち回って倒れる。
どうやら、木から垂れ下がるツタに擬態した魔獣だったようだ。
見た目からは想像できない見事な動きに、思わずパチパチと手を叩くカロンとエリス。
反対に、ガットからはため息が漏れた。
「で、それ、どうするんです?」
「ん?」
あたりを見渡すと、見えるのは、頭上にある花の蕾、蕾、蕾……
その中の1つがパッカーンと割れ、中から小さな緑色のワームが落ちてくる。
「え、なんですかあれ!?」
「あれはなぁ……この辺りじゃツボミムシとかって呼ばれててなぁ、あの種類の木に寄生して子育てをする魔獣なんだ。たしか、木の肥料になるものを作って与えることで、木が蕾の中のツボミムシの子どもの餌になる何かを放出するって話なんだが……普通、あの魔獣は、木の蕾を強引に押さえつけて開かないようにしてるらしいんだ。でも、隊長が親を倒しちゃったから……」
「蕾が開いて幼虫が飛び出てきた?」
「そうそう。ちなみに、あの魔獣、普通はでかいサイズの獲物狙わねえから、見かけてもスルーで大丈夫だ……」
「ああ、どうりで。俺たちが今まで一度も見なかったわけだ」
1つ、また1つと開く蕾から、落ちてくる無数のワームたち。
その光景と、その下でバッサバッサと落ちてくるワームを切り払うテッド兵団長の姿を見ながら、カロンとエリスは森の脅威について、また1つ知識を得るのだった。
「ゼエ、ゼエ、ひどい目にあったぞ……」
「隊長、なんでツボミムシ攻撃しちゃったんですか……っていうか、落ちてくるやつ全部切ったんですか?」
「ああ。全部、切り払った……」
辺りには、無数のツボミムシのものと思われる残骸や、血だまりが出来ていて、初めてここを訪れた者が見たら「なにごと!?」と驚くことだろう。
「というか、あんな見た目なのに赤い血なんですね」
「私も初めて見たけど、この地域限定で生息してるんですか?」
「あー、他から来た奴はみんなそう言うから、そうなんじゃないか?無害だから気づかれないだけって可能性もあるけど……あ、でも蕾からでたツボミムシの子どもは家畜にくっついてたりするから……どうなんだろうなぁ?」
「家畜に!?」
「ああ。なんでも、血を吸うんだそうだ。体内に寄生するわけじゃねえから心配する必要はねえぞ」
あからさまに怯えるカロンに、ガットは注釈を入れて安心させる。
「それで、ガット、進むか?」
「ん、ああ。そうですね。進みますか。あ、次はツボミムシ、切らないでくださいよ?」
「ああ、わかっとる……」
どうやら、ツボミムシの大群を切り払ったせいでたっぷりと血と体液を浴びたせいか、少々意気消沈気味のようだ。
が、すぐに、大丈夫だと言わんばかりに腕をぶんぶん振って剣を構えなおす。
「よおし!いつでも来い!」
「素振りしないでください。危ないですよ……」
こうして、森で最も危険度の少ない魔獣を難なく突破し、一行はさらに森の奥へと向かう。




