21.出発準備!
「それじゃあ、2人とも、待っててね」
「うぅ……2人とも頑張ってください……」
これで3回目となる出発。
リシュカも慣れてきたのか、以前のように自分も行くと大泣きすることはなくなった。
ただし、リシュカは、今回カロンとエリスが今までと比べて特段危険な場所に向かうということを知らない。
教える必要はないし、教える気もないのだが、それでも、これが今生の別れになったりしたらきっとリシュカは後悔するのだろう。
だが、それは二人が帰って来なかった場合だ。
今は、リシュカの精神を安定させるためにも、余計なことは言わず、喜ぶにしても悲しむにしても、終わった後の結果に委ねることにした。
「行っちゃいましたね……」
「うん」
「なんだか、胸騒ぎが……ソル君は何にも感じないですか?」
「別に、何も感じないよ?気を張りすぎだよ」
「そう……ですね……」
リシュカを不安にさせてはいけない。
ソルは、リシュカの不安を払拭するように、そして、自分に言い聞かせるように、呟いた。
「それに、今日は助っ人もいるしな……」
♪
キルノト村、北門。
カロンとエリスは馬の準備をし、それぞれ、出発の準備を進めている。
と、そこへ、声がかかった。
「すんません、人探しをしてるんですが、話聞いていいですかね?」
「……?いいですけど、お役に立てるかわかりませんよ?」
「いやぁ、申し訳ない。ここにいるって聞いたんですが顔がわからなくてね。困り果ててた所なんですよ……」
急いではいるが、ただ話をするだけならば断わる理由もない。
まあ、もともとここの住人というわけではないので、答えられる保証はないが……
「まあ、それは大変でしたね。でも、相手の顔がわからないって……」
「ええ。まあ、知り合いから、ここにいるって聞いただけなんで、顔はお互い知らないんですよ。たしか……カロンとエリスって言ったかな?」
カロンとエリスが、一瞬「え?」と言って顔を見合わせる。
「ち、ちなみに、いったい何の用事なんです?」
「ああ。詳しくは言えないんですが、その2人の息子さんから頼まれましてね。村の外に行くから、一緒について行ってくれないかって」
「え、ソルが、そんなことを……?」
「ん、なんであんた、坊主の名前知ってんだ?」
カロンとエリスは『どうする?』『信用していいんじゃない?』『うーん……』『ソルが頼んだってことは、良い人なんじゃない?』『うーん、あいつ、俺と同じですぐに人に話しかけるからなぁ……』『でも、あんたも人を見る目はあるじゃん』『うーん、一理あるなぁ……』と、一瞬でアイコンタクトを取り合う。
「あの、その二人って、俺らのことです」
最終的に、信用する、と決めた二人は、目の前の男に探し人が自分たちであるということを打ち明けた。
「ああ、なるほど。そりゃ知ってる訳だな。ハハハ」
「それで、あなたは、どなた何でしょう?」
若干酒が入ってるのか、笑い出した男に、エリスが訪ねる。
すると、男は真面目な顔になって、懐から紙を取り出した。
「俺はここで商売をやってるガットってもんだ。昨日、一昨日と、あんたらのとこの坊主からはたっぷり情報を搾り取られたよ。聞いてないかい?」
「ああ。あなたが……でも、そんな、急について来るだなんて……俺たちは危険なとこに……」
「あーあー、それは知ってる。というか、その場所に当たりをつけたのは俺だからな。一番わかってる」
「……そうですか。でも、やっぱり、巻き込むわけにはいきません。俺たちは2人で大丈夫です」
「そうなると、俺が坊主に顔向けできなくなるんだよなぁ……いいから、連れてってくれ。一応、商売人だが腕は立つ」
ガットは腕に力を入れ、力こぶを作る。
「ですが……」
「いやいや、そういうのはいいから。とりあえず、断られても、勝手についてく。いいな?」
ガットの勢いに押され、二人は渋々首を縦に振ってしまう。
「よっし、んじゃあ、よろしく頼むぜ。カロン、エリスさん」
「ああ。まあ。はい。よろしくお願いします。ガットさん」
「えっと、よろしくお願いします」
こうして、ガットを加え、カロンとエリスは準備を進める。
この地域のことをよく知るガットから出される指示に従って不要なものを置いて、逆に必要なものを準備する。
「ところで、ガットさん、聞いていいですか?」
「ん、なんだ?」
「俺たち、ソルからその話を一切聞かされてないんですけど、それはどうしてなんですかね?」
「ん、ああ。そりゃあ、俺が急に出て行った方が断りづらいからだろ。事前に伝えて対策されたら、俺がついて行きづらくなるからな」
「は、はあ……」
つまり、自分は息子から、勢いで押せば押し切れる、と思われたのだろうか?
そんなことを悶々と考えながら、準備を進めていると、あっという間に準備が整った。
「よし、あと必要なものは……なさそうだな。うん。煙玉は持ったな?音響玉も……あるな」
「音響玉……こんなの使ったら、魔獣はともかく、盗賊団に見つかっちゃうんじゃないですか?」
「ああ。だから、魔獣には使わねえ。盗賊団用だ。見つかってから使う分には問題ねえし、それは魔獣が嫌がる音じゃなくて寄せる方だ。うまくいけば盗賊団を一網打尽にできる」
「なるほど……」
「まあ、できることなら使わないのが一番だが」
ガットはそう言うと、自分の荷物も確認し始める。
「ところで、ガットさんは昔、旅でもしてたんですか?」
「ん?なんでだ?」
「あ、いや、一か所に定住してる商人にしては、やけに筋肉がついてるなぁ、と」
「ああ。それか……」
ガットは苦笑いをしながら昔を思い出すように話し出す。
「昔、ここの兵団に所属してたせいかな。抜けてからもトレーニングは欠かしたことが無くて」
「ああ。それで……」
「ああ。まあ、抜けた理由は、俺らの隊の隊長が馬鹿みたいに厳しいオッサンで……」
と、ガットが昔を思い出しながら話し始め……そして急に冷や汗を流しながら手を止める。
恐る恐る顔を上げると……
「誰が馬鹿みたいなオッサンだぁ!?」
「ヒイィ!?テッド隊長!?」
「今はテッド、兵、団、長、だ!馬鹿もん!」
カロンたちはポカーンとしている。
周りの通行人たちもポカーンとしている。
ガットは、相当のトラウマがあるのか、ヒイィと言いながら手で顔を覆っている。
そして……騒ぎの中心であるテッド兵団長は、ガットの前で仁王立ちになり、ガットを睨みつけていた。
とりあえず、会話が聞こえる位置にいた人たちの心は一つである。
(テッド兵団長、耳、悪いのかな……?)




