18.ソルの暗躍②
太陽が西の空へと消えていく。
少年ソルは、懲りずに夜の酒場へと足を運んでいた。
「おいおい、坊主、また来たのか?」
「あ、おじさん。昨日はありがとうございます。今日はちゃんと親から許可ももらってますよ」
「はぁ?そりゃまたすげぇ親だなぁ……」
あはは、と頭をかきながらそう言うソルを、酒場の客のおじさんは呆れたような顔で見た。
昨日手に入れた手掛かりは不発だったが、今度は賊の移動ルートを割り出せるかもしれない。
ルナを見つけるためならばなんだってやろう。
「すみません、せっかく情報をもらったのに姉を見つけられませんでした……」
「……!そりゃあ、残念だったな……」
「いえ、ですが、アジトの様なものはあったみたいです。ただ、見つけた頃にはもう引き払った後で……」
「ん?お前さん、まさか森に入ったのか?」
昨日もお世話になったこのおじさんは、この村に住むガットという商人で、この酒場の常連である。
キルノト村でたくさんの商人と取引をするガットは、村に来る旅人に太いパイプがある。
彼の協力を得て、昨日はあれだけの人数から聞き込みを行なえたのである。
「あ、いえ、俺が入ったわけじゃないです。バラノ村長に頼んで捜索隊を組んでもらいまして……」
「ほうほう、なるほど、村長にねぇ……って、なにぃ!?」
ガットが突如として絶叫し、周りの注目を浴びる。
ガットは「悪い、何でもない」と周りを鎮め、小声で話し始める。
「どうやったんだよ?村長に会うなんて、この中の何人が会ったことがあるか……」
「え、普通に村に来たときも挨拶しに行きましたけど……」
「なにぃ!?」
再びの絶叫。集まる視線。
「おま、本当か?」
「はい。なんか、挨拶に来てくれる 人なんて滅多にいないから嬉しいって言ってましたけど……」
「はぁ……マジか……」
ガットは頭を抱えて苦笑する。
「あの村長、近寄りがたい、っていうか……もう規模としては町みたいなもんだから、そういうのは受け付けてねえと思ったんだが……俺らの勝手な思い込みか……?」
「なにか、あったんですか?」
「……いや、大したことじゃない。ただ、あの時村長を頼っていれば……ってことが何回かあってな」
ガットは目を覆い、昔を思い出すように、話し出す。
「3年前、俺の友達の息子が1人で森に入っちまってな……俺と数人で必死になって探したんだが、見つからなかった」
「その時、村長に相談しようって言ったやつもいたんだが、俺たちはどうせ無理だって言って結局相談しなかったんだ」
「あの時ちゃんと相談して捜索隊を出してもらっていれば……って思っちまってな……」
どうやら、近くで聞き耳を立てている数人もその話に覚えがあるのか、懐かしむような、悔いるような、そんな表情をしている。
「もしかして……それが俺に協力してくれる理由ですか?」
「……ああ。俺は友達の息子だったが、お前さんは姉ちゃんだろ?俺よりも何倍も辛いはずさ。情報提供くらいなら、いくらでもやってやるさ」
ガットはドンと胸を叩き、笑みを浮かべる。
「それで、今日はいったいどんな用なんだ?」
「今日はですね、移動した賊を見ていないかを知りたいんです。今日来た人とかっていますか?」
「ん、今日か……何人かいると思うが……あ、いたいた、あいつは今日来た奴だぜ」
ガットの紹介により、また、何人かの男たちへの事情聴取が始まる。
「悪い、知らないなあ」
「普通の商隊としかすれ違ってませんねぇ……」
「ん……怪しい場所なんて無かったぜ」
「ごめんな、ちょっと心当たりがないなぁ……」
話しているうちに、なんだなんだと人だかりができ、周りにいる他の客たちも話に参加し始めるが、全く情報がつかめない。
どうやら、盗賊たちはだいぶ秘密裏に移動していたようだ。
もしかしたら街道を通っていない可能性すらある。
盗賊の狙いはリシュカなので、この村から離れていく可能性は少ないはずだが、これだけ目撃情報が無いと、今朝の野営の跡も、実は全く関係なく、盗賊たちはとっくに遠くへ行ってしまっているのではないかという最悪の予想が頭をよぎる。
「……他に、今日来た奴ぁいないのか?」
「ここにいるのはこれで全部っぽいなぁ……」
「チッ、そうか……坊主、力になれなくて、悪かっ……」
バタン
ガットが諦めてソルへの謝罪を口にしようとしたとき、宿屋の玄関の扉が開き、閉じる音がした。
「いらっしゃいませー」
さらに、カウンターの方からシィナの声が聞こえ、口々に言い合っていた男たちが一斉に玄関の方を向く。
「え、えと……」
視線の先にいたのは、見知らぬ男。
昨日の話し合いにも参加していない男だ。
「あー、えー、いらっしゃいませ。えと、泊まります?それとも、酒場?」
「あー、止まろうと思ってるんですけど……ここ、よそ者に厳しかったりする感じなんでしょうか……なんだか、凄く、視線が……」
周囲からの視線が突き刺さっているせいか、なんだか男だけでなくシィナまでしどろもどろだ。
「あ、はは、気にしないでください。ここのお客さん、常連で来てる人が多いんで、何かあると妙な団結力が発揮されるんですよ」
「あぁ……そうですか……いえ、今日初めて来たもので、ほら、初めて行くところとかだと……」
「確保おぉぉぉ!!!」
『おおおぉぉぉ!!!』
「え!?え!?えぇぇぇぇぇ!?」
哀れな旅人は、酒場で飲んでいた男たちのほぼ全員に囲まれ、悲鳴を上げながら酒場の方に連れてこられたのであった。
「よし、連れてきたぞ、坊主」
「あ、ああ、どうも。ありがとうございます……」
遠くの方から、「ちょっと!営業妨害!」というシィナの声が聞こえてくる気がするが、聞こえないふりをする。
ソル自身、ガットとその知り合いたちの行動力に若干引き気味なのだが、自分のためにやってくれていることなので、目を瞑ることにする。
「ひ、ひぃ、なんなんだ、あんたら!?」
「あ、あの、落ち着いてください……」
「ひっ!?まさか、こんな子供がこの男たちを統率しているのか!?」
「あー、あのー」
「く、来るなぁ!?どこの子どもだぁ!?」
とりあえず、うるさいので机をバンと叩いて黙らせる。
「手荒だったのは悪いと思っています!あなたに危害を加える気はありません!」
いったん静かにさせ、カロンから預かった金で適当に食事を奢ってやり、落ち着いてきてから事情を説明することにしよう。
♪
「モグモグ……ん、そういうことなら、俺、心当たりがあるよ」
男は、しっかりと事情を説明したら笑って許してくれた。
「俺、ヨンドルから来たんだけどさ、途中でなんか変な奴に会ったんだよ」
「変な奴?」
「そうそう。なんか、急に森から出てきてさ。だから俺、どうしたんだ?って聞いたんだよ。そしたら、そいつ、荷物を隠して用を足しに行くんだって答えたんだ」
「それは……おかしいですね」
ソルが男の話に相槌をつくと、隣からガットが割り込んでくる。
「おい、なにがおかしいんだ?」
「確かに、荷物から離れるときは、荷物を仲間に見ててもらうか、隠すかするとは思いますけど、そもそもおしっこをするだけなら荷物のそばでもできるじゃないですか」
「ん……確かに」
「しかも、わざわざ荷物を隠した後に街道を横切って反対側でおしっこをする意味が分かりません」
「ああ。なるほどな」
ガットは納得したのか、ポンと手を叩く。
「つまり、本当は小便じゃなくて、しかも誤魔化したってことはなんか後ろめたいことがあるってことだな」
ガットが納得したのを見て、男がさらに話を続ける。
「ああ。それに、1人だけだったけど、やけに軽装だったから、たぶん別ルートで仲間が荷物を運んでるんじゃないかな」
「つまり、バラバラに違うルートで新しい拠点を目指しているってこと……かな?その人って、徒歩だったんですよね?」
「ああ。あと、なんか大きな荷物を一つ背負ってたなぁ。布が巻いてあって何なのかは見えなかったけど」
「大きな荷物?」
男はあまり気にしていないようだが、ソルにはその言葉が引っかかった。
「1人だけ、別行動してたのは、見つかったらマズイ何かを移送してたからかも……」
「見つかったらマズイ何か?」
「例えば、仲間は普通に商人の格好をして堂々と街道を通るとします。でも、もしも見つかったら一発で盗賊だってバレるようなものを持っていたら、何かの拍子にバレてしまうかもしれない」
「だから、そういうものは別行動で移動させるってか?トカゲの尻尾切りができるように?けど、そんなのいくらでもあるだろ。いちいち別行動でなんて……」
「そう。だから、バレやすいもの、それに、最悪なくなってもいいものがそういう運ばれ方をすると思うんです」
「……?」
何を言いたいのかがわからないガットは、首を傾げている。
「もしかしたら、その男が運んでたのが、ルナなのかもしれない……」
よく考えたら、許可もらってる時点で暗躍でも何でもないってことに気づいてしまったんですが……
深く考えないでおきましょう。




