13.ソルの暗躍
この辺の話、何度も書き直してたらいつの間にかストックが……
(……寝付けない)
静かな部屋の中、スース―と寝息を立てる猫耳の少女の綺麗な金髪を撫でながら、ソルは考える。
(この髪と……間違えたのか……?)
ルナの髪は、リシュカとは髪型も髪色も違うが、ほんのり黄色味がかった緑で、光の加減によっては金髪に見えなくもない。
カロンはあの時濁していたが、ルナがいなくなった理由は十中八九リシュカと間違われて攫われたからだ。
リシュカが犯人に見つからなかったのは奇跡という他ないが、その代わり帽子をかぶっていたルナが間違われたというわけだ。
さすがに年齢が離れすぎているとは思うが、そうとしか思えない。
ソルは目を開けてリシュカの寝顔と窓の外を交互に見やりながら、出もしない欠伸を噛み殺す。
思えば、あの時ルナを1人にせずに2人で両親のところに行っていれば結果は違ったかもしれない。
いくら大人びているとは言え、まだ5歳なのだ。5歳の子どもを数十秒とは言え知らない場所に1人で放置するなんてありえないことだ。
ルナをどこか自分と同列に見ていたソルは、ルナについての認識を改める。
それと同時に、ソルとして生まれてからずっと一緒にいたかけがえのない存在の欠落を感じ、どこか空虚な感覚に襲われる。
本当は、自分が一番取り乱さなくてはいけないのだ。
5歳という年齢、常に一緒にいた双子の失踪、普通なら人目もはばからず泣きじゃくるはずだ。
リシュカとソルを不安がらせないように、カロンとエリスがルナの失踪について感情の動きを見せないように振舞っていたのは見ていてわかったが、向こうはソルが冷静に動いていたのをどう見ていたのだろうか?
大人びていると感じたか、それとも薄情と感じたか、どちらにせよ、子供っぽくないとは思っているのだろう。
ソルは目を閉じ、そして開けることを繰り返す。
子供の夜は早い。現在時刻は10時といったところか。
大人であれば起きているんだろうが、長年9時就寝を心がけてきたソルにとっては、珍しく遅い時間だ。
この時間なら、ちょうど遠くからやってきてこの村に滞在している商人や護衛が、下の階の酒場で酒を飲んでいることだろう。
北のヨンドルからやってきた人間もいるかもしれない。
もしかしたら何かの異変を察知している人間がいるかもしれない。
ソルはリシュカを起こさぬようにそっと起きだし、部屋から抜け出し階段へ向かった。
♪
宿屋の看板娘、シィナは、およそ目の前の光景を受け入れられずにいた。
子供……それも、5歳の幼児が、夜中の10時に1人で酒場にやって来て、大の大人と話をしているのだ。
しかも、5歳児の言葉が与太話と吐き捨てられず、酔った男たちの間で真面目に議論されているのがさらに信じられない。
目の前で酒を飲む男たちに声をかける少年は、たしか、ソルといったか。今日の昼頃に宿を出たカロンという行商人の息子だったはずだ。
カロンは出て行ったと思ったら2時間後に帰ってきて子供を頼む、と部屋を取っていった。
泊まっていた時よくちょっかいをかけていたので子供のことなども聞いていたが、その時は、これが身内の欲目ってやつか、と妙に納得していたものだ。
しかし、目の前の光景がその考えを否定する。いや、やたら頭が切れるとは聞いていたが、これはもうおかしい。異常だ。
「おい、坊主、その賊……らしきもの、見たって奴がいるぞ」
「本当に!?誰ですか?」
「お、おう、俺だ」
「どんな奴らで、どこで何をしてたんですか?」
「ああ、ありゃあ、一昨日のことだ。俺ぁ北側から来たんだが、この村の近くまで来たとき、変な奴らがいたんだ。でけえ荷物を持つわけでもなく休憩地点の辺りでずっと森に隠れてやがる奴らが。それを見つけたからすぐに休憩を止めたんだ」
「それって、北側でここから一番近い休憩地点ですか?」
「うんにゃ、確か3つ目だったと思うぜ」
「そうですか。……となると、結構広い範囲に……場所は絞れなくても拠点は存在してる可能性は高い、か……」
シィナは、ソルがボソッと言ったこの言葉を聞き逃さなかった。
何の話をしているのか、完全に把握はできていないが、5歳児がこれだけの話を聞いて何かしらの推理をすることができるというのがまず信じられない。
「あ、それとな、道沿いに森が近い時とか、チラッとなんかが森から覗いた気がするぜ。もしかしたらこっちの様子を窺っていたのかもな」
「……!本当ですか!?詳しい場所を教えてください!」
なにやら確信を得た様子の少年。答える男も酒を片手にだが真剣に答える。
「たしか、こっから2つ目の休憩地点から少しこっちに進んだとこだったと思うぞ。まあ、よく見えたわけじゃねえから、何とも言えねえけど」
「いえ、貴重な情報です。ありがとうございます。他に、何かあった方とかいませんか?」
まだ会話が続くのか。
酒を飲んでいるとはいえ、何故ああも真剣に話を聞けるのか。
シィナは理解に苦しみながら、夢かどうかを確認するために自分にデコピンを……しようとして、目に指が入った。
「イッタァァ!!」
「ん、シィナちゃん、どうした?」
「あ、いえ、何でもないです……ちょっと目にデコピン食らっただけだから……」
「どういう状況だそれ!?パンツ見ていい!?」
「駄目。1億ゴル持ってきて」
「あ、持ってきたらいいんだ?」
常連の客と冗談を言い合いながら、ああ、夢じゃないのか、と酒場の客たちと話をする少年の姿を眺める。
いちおう、子供を頼むと頼まれたのだ。しっかり見守っておこう、と心に決めるシィナだった……




