1.プロローグ
読み方は、『レクイエム・オブ・ザ・タマシィ!!』です。
タマシイではなく、タマシィ!!です。特に意味はございません。
今日はこの後に、22時、23時に1話ずつ、これも含めて計3話投稿します。
気分転換に都市を囲む壁の上に上った衛兵が欠伸を噛み殺しながら街道を見下ろすと、ちょうど2台の馬車が門に併設された関所へとたどり着くのが見えた。
こういった大きな都市には、定期的に商人がやって来たり、旅人がやって来たりと、なんだかんだで毎日何人かの来訪者が訪れる。
今来た旅人も、どうやら関所で止められたようで、馬車を停めて馬車から降りていくのが見える。
衛兵は大きく伸びをすると、自分の持ち場へと戻っていった。
「止まれ、通行手形は持っているか?」
門で検問をしている役人が、馬車に声をかける。
御者はその指示に従い、馬車を止めて御者台から降りた。後ろに続くもう1台もそれに続く。
「はい、持っていますよ。5年前のになりますが」
「5年前?残念ながら通行手形は1年で期限が切れることになる。あそこで発行手続きができるから、手続きを完了してこい。馬車は見ておいてやる」
「そうですか。じゃあ俺の馬車をよろしくお願いします」
そう言って御者をしていた男は頭を下げる。
「じゃあ、エリス、行くぞ」
「うん。役人さん、馬車をよろしくお願いしますね」
「まて、お前達2人だけか?他に同行人は?」
2人だけにしか見えないが、役人は念のため2人で手形の発行手続きをしに行こうとする御者を呼び止め、そう聞く。
通行手形は人数分必要で、町に入る時も人数分の税金を納める必要があるからだ。
「ああ。2人だけ……ですよ」
「なんだ?なぜ言い淀んだ?」
一瞬、言葉に変な間があったことを怪訝に思い、役人は男に問いかける。
「いやぁ、女房の腹に赤ん坊がいるもんでして、一瞬それを考えちまったんですよ」
御者はエリスと呼んだ女の腹をさすり、ほらね?と役人に見せる。
確かに、女性の腹はいくらか膨らんでいて、そう言われれば妊婦に見える。
「本当は故郷まで帰りたいんですが、無理そうなんで思い出のあるパルミコまで行ってそこで産ませるつもりなんです。なんで、この町もしばらくしたら去ることになります」
「ほう、それはおめでとう。そう言うことなら、腹の赤ん坊の分はサービスで無料にしておいてやろう」
「それはありがたい。産まれてきたら親切な役人さんのことを聞かせてやることにしますよ」
元々腹の中にいる赤ん坊は、町の中で産まなければ金を払うことは無いのだが、御者も役人が冗談を言っているとわかったうえで冗談めかして返しているので、それがわかって役人は少し安堵する。
嘘をついて恩を着せたと思われれば、詐欺になってしまうし、変に感謝されても気持ちが悪い。
こうやって冗談を理解してくれる旅人は、役人としては非常にありがたかった。
「カロン!あんたの分も手続しちゃうよ?」
「あのー、奥さん。手続きは基本、本人でないと出来ない決まりになっていますので……」
「やだなあ、旦那に冗談言っただけですよ。そんなことはわかってます」
どうやら、夫婦が向かった先の同僚は冗談に対応する器量は無かったようだ。
ともあれ、この夫婦が問題を起こすようにも見えないので、役人は肩の力を抜く。
数分後、手続きを終えて帰ってきたであろう夫婦に、役人はよく響く声でこう言った。
「よし、通行手形を確認した。税金も一緒に払ってきたんだな?なら後はここを素通りしてよし。通れ!」