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異世界で美少女が拉致される話  作者:
〈第2幕〉 物語の始まり
9/56

森の中、川沿いの小道をややしばらく談笑しながら3人は歩き、その後ろを奴隷の3人が俯き加減で元気なく着いて歩く、そんなちょっと見た目がアレな6人がようやく少し開けた場所にたどり着いた。


そこは絵本に出てくるような針葉樹に囲まれた静かな湖、マイナスイオンでも溢れているのか酷く落ち着いた雰囲気でここで休憩しなさいと言わんばかりだ。


みやことヒルダは何を言うでもなく湖近くの休憩小屋のベンチに座りテーブルの上にヒルダが用意したティーセットを広げる。


「やっと休憩だぁ、私も普段から運動はしてるけどさすがになんの整備もされてない道を長時間歩くのは結構きついものなのね!」


みやこは気持ちよさそうにうっすらと汗ばんだ額を腕で拭いながらベンチに腰掛け安堵する。


「みやこ、下品だわ、ハンカチを使いなさい!」


ヒルダはプリプリしながらみやこの汗をハンカチで拭ってやる、それをギルは遠くから鼻の下を伸ばしながら眺めていた。


「船長さん、俺たちはいったい、これからどうなるんです?奴隷、奴隷って呼ばれちゃいるがとくに仕事を与えられる訳でもなく船の中でずっと檻の中だ、いったいなにが目的なんですか?」


奴隷の1人がもう我慢出来ないという面持ちでギルに質問してきた。


「あんたたちは人に売るための奴隷なんだ、だからまぁ大事な商品てところさ、だから怪我も病気もホントはさせたくないんだよ。」


ギルは悪びれもせず、さも当然の事をしていると、そんな風に優しく言ってみせ、それに腹を立てた奴隷の1人が立ち上がり。


「させたくないって、俺たちの街であんなに暴れて置いてよくも…っ!」


奴隷の1人がギルに抗議しようとしてその途中で胸ぐらを掴まれ地面に組み伏せられた。


「だから、怪我も病気もホントはさせたくないんだよ。」


今度は静かな声で、ヒシヒシと圧力を加えるようにギルは生意気な奴隷に対して優しく呟いた、組み伏せられた奴隷は恐怖を感じ人形のように黙り込んでしまった。


最初に質問した勇気ある奴隷がそれを見てなにかを決心したようにもう一度ギルに質問してみる。


「あの、船長さん、売るためって言ってた、ましたけど、あの、その、売る先とかってもう決まってたりするのかな、ですか?」


いつもにこやかで親しみやすそうなギルと、時折見せる怒り狂った鬼のような顔のギルと、どちらに話せば良いのかわからなくなり辿々しく変な言葉遣いになる。


ギルはまた笑顔に戻り男の質問に返事をする。


「あぁ、もちろん、俺たちは頼まれなきゃ人攫いはしないんだ、お前たちはもう売約済みなんだよ、そしてついでに言うとその客がね、結構遠い所のお客さんでね?お前たちの病気さえ見つからなければ正直陸になんてあがらない予定だったんだよ、だからお前たちの街の全てを略奪したんだ、こんな事なら家まで焼いてやる必要は無かったかもしれない。」


ギルはすこし拗ねたような顔をしてチクチクした言い方で奴隷の男を責めるように答える。


「それは、申し訳なかった。」


謝る必要はこれっぽっちもないのだが何故か奴隷の男はギルに頭を下げてしまう、カリスマに当てられたのかもしれない。


「ところで、もう少し聞いてもいいかな?船長さん!」


「あぁ、構わないとも、今はお前たちの休憩時間でもあるのだし、なにより俺の奴隷って訳でもないし、なにも遠慮することはないよ。」


ギルはもともと話好きだし海賊船で育った、過激な常識を持ってはいるが、基本的には気のいい奴らに囲まれて育ったのだ、根は良いやつなんだ。


「そうか、ありがたい。じゃあ早速なんだが俺たちは何処の誰に売り飛ばされるんだ?」


それを聞いてギルは少し怪訝な顔をして答える。


「休憩中だと言ったろ?なぜそんな暗い話を聞きたがるんだ?お前たちは心まで奴隷になってしまったのか?」


攫った本人が勝手な事を言っているが確かに休憩中に仕事の話をするなんて人としてどうかと思う、きっとそう言う事だろう、そう思ったがそれでも気になるものは気になる。


「一応知っておきたいんだよ、ほら、気持ちの持ちようって言うのかな?知ってるのと知らないのとじゃまるで不安感が違うだろ?」


「そういうものかねぇ。」


顎に手をついてギルは不思議そうな目を奴隷達に向けると、彼等は必死にうんうんと頷いていた。


そしてギルは答えてやる事に決めた。


「お前達が売られるのはね、ここからまたさらに西に行った所に大きな砂漠があるんだが、そこにちょっと変わった帝国があってだね、そこの王手奴隷商人なんだが、名前を言ったところで分かるかね?」


「いや、正直俺たちは砂漠なんてものも見た事がないし、きっとそれ以上聞いても無駄だろうな。」


そう言って男は質問する事を諦めたようだった、奴隷として働くだけじゃなく、見た事も聞いた事もない、陸すら故郷と続いていない、そんなところへ連れて行かれる、そう思っただけで男達の顔にはより一層深く悲壮感が刻み込まれた。


「ギルバート様、お食事の準備が出来てますわ、その方々も一緒にどうですか?」


ちょうど会話が終わるタイミングで、見計らってなのか偶然なのか、出来る女ヒルダが割り込んで来た。


「あぁ、すまない、すぐ行くよ!」


ギルは彼らの肩をポンと叩いて、あまり気にするなと呟いてから肩を抱き引きずるようにみやことヒルダのいるテーブルへと向かった。


「元気だせってば!人の人生なんていろいろなんだからさ!」


「「お前が俺らを励ましてんじゃねぇよ!」」


爽やかなギルの笑顔に奴隷達は皆心の中でそう叫んだ。




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