海賊
なにか焼け焦げたような匂いがして意識がだんだんと回復し。
みやこはふと父に言われた事を思い出す。
「あ!火!消してない!寝落ちしちゃった!」
自分が火事でも起こしてしまったのかと思い起き抜けとは思えない勢いで飛び上がりテーブルの上のキャンドルを確認する。
が、そこにはキャンドルは無く、さらに言うとテーブルも、部屋に敷いてあったラグも、なんなら壁が…
みやこの部屋が消えた。
「え、なにこれ、どういうこと?」
みやこは1人パニックになり数瞬頭を巡らせ納得する。
(あ、夢か、火消さないで寝落ちしちゃったから不安で変な夢見てんのか。)
そう思う事にしてからはすーっと頭に掛かってたモヤの様な物が晴れ思考が回復し、身体の感覚も戻って来た、夢のはずなのに。
途端に遠くから悲鳴、怒号、なにかが壊れるような物音が聞こえ始め、みやこは驚き音のする方へ目をやる。
そこには漫画や映画で見た様な海賊の衣装を着た男達が大勢で街を襲っていた。
みやこは口を開けたまま、映画の様なその光景にただただ驚くばかりで何か行動を取ろうにも腰が抜けて動けないし呆然と観る事しか出来ない。
やがてみやこは嫌な予感がしてきた、今みやこがいるのは街外れの森の入り口あたり、そこから一直線に伸びた街道が港まで続いている。
海賊達は海からやって来ている、それはきっと間違いない、彼等がどこまでこの街を侵略する気なのかはさっぱりだが、今みやこがいる場所の両脇にはまだしっかり民家があるし、右手の小道の奥には少し小高い丘の上にある立派な家が見える、恐らくだがこの町で一番大きい。
奴らはきっとその家を見逃さないだろう、きっとここまでやってくる。
そう予想した途端に恐怖が急激にやってきて身体中が震えだした。
みやこは涙をすすり鼻水を飲み込みもう恐怖で美少女の影も形もなかった、そうこうしている間にどんどんと彼等が持つ松明の明かりが近付いてくる。
「だめ、逃げなきゃ!這ってでも、逃げなきゃ!」
みやこは必死に自分の身体に言い聞かせ、無理やり腕を伸ばして土を掴み草を掴み身体を引きずってやっとの思いで植え込みの陰までやってきたところで海賊達がタイミング良く到着したようだった。
みやこは息を潜め身体の震えを必死に抑えつけて植え込みから身体が見えないように丸く縮こまっていた。
やがて彼等の声が聞こえ始めてみやこは戦慄する
「いいか!この街のすべての家、倉庫、地下室から金品をすべて回収したあと全てを焼き払え!それが終わったら子供や大人は奴隷にするから手枷を付けて引きずって船に戻れ!」
「任せとけ!船長!」
「あとそれから街の女は全て広場に集めておけ、後で品定めしたあと余ったのをおまえらにくれてやる!」
「本当かい?船長!」
「俺が嘘をついたことがあるか?」
「やったぜー!いったい何ヶ月ぶりだぁ女がだけるのは!」
「さぁ、わかったらとっとと行って準備をしてこい!この家が最後だから俺様が直々に焼き払う!」
そう言って船長と呼ばれた男とその手下と思われる男はみやこのすぐ後ろ、植え込みを隔てた辺りで立ち止まり会話をした後 手下は今も轟々と燃え続ける街の方へ、船長は小高い丘の上のあの大きな家へ、気配は二手に分かれ、離れていった。
みやこは安堵した、ほっとした、気づかれなかった、きっと助かった、そう思うと足にも力が戻って来た、そして立ち上がり森の中へ逃げようと走り始めた。