君は、大丈夫?
今年も参戦します。
夏のホラー企画参加作品。
今年は短編として合計7作品上げる予定です。
こちらは1作品目。
猟奇的描写がありますので、お読みの際は自己責任にて宜しくお願い致します。
7月11日 誤字修正 ご指摘ありがとうございます!
7月14日 ルビ振りました。一般的にはカタカナ表記ですよね。
わかりにくくて申し訳ありませんでした。
ご指摘助かります。
え?
田中君、帰っていないんですか?
近藤さんも?
森君、中野さんも、ですか。
最後に一緒に居たのが僕なので話が聞きたい……はい、わかりました。
僕は、肝試しするから来いよっ! て、ドリームランドに無理矢理連れて行かれて……置いていかれたので……一人で帰宅しました。
一人残されるいじめは今までもあったので、今回もそうかなって、思って。
特別疑問も持ちませんでした。
一応、ドリームキャッスルの地上へ向かう出口で一時間は待ちました。
でも、誰も来なかったんです。
最後に別れた時の様子、ですか?
ドリームキャッスルの隠された拷問部屋を探すぞって、先を歩かされて、地下へ行ったんです。
ここから先は関係者以外立ち入り禁止! と書いた札があって、ロープも張ってあったんですけど、ここが怪しいからお前行けよって、田中君に突き飛ばされたので、仕方なくロープをくぐって奥へ向かいました。
他の人?
たぶん田中君の後ろにいたんじゃないかと思います。
声がしたから。
いちいち振り返って確認したくても、森君が早くしろよ、屑! って蹴り飛ばすんで、こういう時は、前を向いて目的地へ黙々と向かうことにしているんです。
まだかよー! とか罵られながら、辿り着いた所は倉庫でした。
マジックショーなんかに使われたんでしょうかね?
埃を被った白いボールとか、人体切断マジックで使うような大きな箱に錆びた剣とか、大きな盥と同じサイズのシャボン玉を作る器具とか、すっかり曇って映りのよくない等身大の鏡とか、造花に鳩の模型などがあったのは、覚えています。
しばらく人が入っていなかったみたいに埃っぽかったです。
部屋の中を一通り見てみましたが、隠し部屋は見つけられなかったので、まだ探すの? って後ろを振り返ったら、誰も居ませんでした。
倉庫に足を踏み入れるまでは、確かに声がしていたんですけどね。
色々と確認している間に置いていかれたんだと思います。
埃が酷いし、明かりはついていたんですけど奇妙に仄暗くて。
あと、放置されていた物がなんだか不気味にも見え始めちゃったので。
一人で居るのが怖くなってきて、早足で地上への出口まで行きました。
途中に部屋はありませんでしたし、一本道だったので、部屋に居ないわけですから、そこで待っても意味がなかった気もしますけどね。
それでも、万が一。
誰かが、僕を探しに来た時、そこにいなかったら。
全員に罵声を浴びせられて、殴る蹴るされるのは嫌でしたから、待ちました。
参考になりましたか?
それなら良かったです。
え?
皆無事で居て欲しいよね、です、か。
いいえ、そうは思いません。
僕としては、このまま行方不明になってくれたら、嬉しいです。
彼彼女らを殺して、将来を棒に振るつもりはありませんでしたけど、僕の手を汚さずにいなくなってくれたらいいなぁって。
ずっと、願っていましたから。
でも、きっと戻ってくるんだろうなぁ。
遊園地でまだ遊んでいるか、何かしでかして怒られるから隠れているか。
そんな理由で帰宅しないんだと思いますよ。
夜の遊園地。
それも廃遊園地は、下手なお化け屋敷よりずっと怖くて楽しそうだって、皆、口を揃えていっていましたから。
探す時は、怒らないから出てきなさい! 心配で仕方ないのよ! って。
そんな風に声をかけると、安心して出てくると思いますよ。
広くて大変でしょうけど、頑張って下さい。
僕は一緒にいかなくてもいいですよね?
「きゃああああああ!」
近藤が絶叫を上げる。
森と中野は腰を抜かしてた。
「おい、佐藤っ!」
しかし、先に部屋へ足を踏み入れた佐藤は、まるで極々普通の倉庫でも見るように気軽な感じで中を探索している。
埃を被った髑髏を手に取ってみたり、立てかけられた棺桶の中に、鋭い針が無数に植え付けられている様子を興味深げに覗き込んでみたり。
何人切ったのか血脂がべっとりとついた剣の素通りし、盥の中に大量の鮮血と共に入っていた巨大な丸い刃の柄を握り締めてみたり。
残虐な方法で拷問されて、苦しげに呻く無数の人間が映り込んでいる等身大の鏡を布で拭こうとしてみたり。
普段の佐藤からしたら信じられない大胆な行動をする都度、足下に無数転がっている人骨らしき物が、ポキポキポキポキと音を立てた。
『まだ、探すの?』
って言いながら振り返って、深々と溜息を吐いた様子を見て。
「何余裕ぶっこいてんだよ!」
怖さよりも怒りが先立って、佐藤に殴りかかった。
けれど。
「うわあああああっ」
渾身のパンチは佐藤の身体をすり抜けてしまった。
『はぁ……また置いていかれたのか。こんな……気味の悪いところに』
「はぁ? ちょ! 佐藤、お前何言ってんだよっ!」
今度は森が佐藤の肩を掴んだはずなのに、やはり佐藤に触れることができず、勢いのまま転がった挙げ句、血の盥に頭からか突っ込んでいる。
『殴られるのも蹴られるのも嫌だし……地上の出口で待っていればいいよな……』
「佐藤君! 何言っているのよ、ねぇ!」
話しかければ、必ず返事をした。
しなければ、殴られ、蹴られ、罵声を浴びせられると、解っていたから。
しかし佐藤は、何の反応もせず。
一人佐藤を置き去りにした時、隠れて見ていた時と同じように、疲れを振り払うように大きく頭を振って、倉庫を出て行った。
地上の出口で待つつもりなのだろう。
置いていった者達が満足する時間を。
何時もの通りに。
「待ってよ! 佐藤君! 置いていかないで! 私も連れて行って!」
四つん這いの中野が佐藤の足首を掴む。
けれどやはり、佐藤の足は掴めなかった。
佐藤が出て行ったのを見計らったように勢いよく扉が閉まる。
「ぎぃやああああああ!」
盥に頭を突っ込んでいた森が痛そうな声を上げる。
持ち上げられた血塗れの首が、皮一枚で繋がって、ぶらんぶらんと揺れていた。
あれで、声が出るんだ?
「いひぃいいい! ひ? ひぎぃいいいい!」
今度は近藤が漫画のような苦叫を放った。
森の様子に後ずさっていたら、無数の針が植わった棺桶の中に入ってしまったらしい。
棺桶の扉は硬く閉まっており、中の様子は伺えない。
隙間から鮮血が滴り落ちているところから、近藤がどうなったのかと、想像はできたけれど。
「助けて! 田中君! ぼさっとしてないで! 早く助けなさいよぉおおおおお!」
中野の足が、鏡から出てきた無数の手によって、鏡の中へと引きずり込まれている。
引きずり込まれた足は既に、ミンチ状態にされていた。
「たながぁ! きさまっ! かわりに! ちくしょ! さとうは、どこだよ!」
佐藤は逃げた。
佐藤だけが逃げられた。
本人はきっと、逃げたなんて思ってもいないだろう。
今までのように俺達に置いていかれたと、信じて疑わない。
確かにここは、拷問部屋なのだ。
恐らく、田中が聞いて馬鹿にした、もう一つの噂通りの。
足下に転がった埃塗れの髑髏がげらげらと笑う。
皮がついに切れて、転がった森の首は微笑を浮かべている。
棺桶の中からは、近藤のすすり泣くような笑い声がした。
鏡の中では、首以外ミンチにされた中野が狂ったように哄笑する。
仲間が残虐に殺されるのを見続けながら餓死するのが、己の最後なのだと。
何故か悟った田中は、喉から鮮血が溢れても笑い続けた。
あのね、高橋さん。
本当に、田中君達を探しに行くの?
心配だから当たり前でしょ、か。
それなら、さ。
あの、拷問部屋の噂って、まだあるんだけど、知ってる?
知らない?
そう、じゃあ、教えておくね。
君は、知っておいた方がいいと思うよ。
……上から目線で言った覚えはないけど。
そう聞こえたら、ごめんね。
あの拷問部屋はね。
いじめっ子しか辿り着けない部屋なんだって。
いじめをした人間が、反省するまで拷問されるらしいんだけど、ほとんどの人が他人のせいにして全然反省しないから、結局全員殺されちゃうって、そういう噂があるんだよ。
助けに行くのは、良いことなんだと思うよ。
それが、どれほど酷いいじめをしている屑だったとしても。
友達だから心配だって言うのなら、ね。
当たり前の行動なんだろうね。
だけどさ。
君は、大丈夫?
そんないじめっ子ほいほいの拷問部屋でした。
反省すると、いじめに対する物凄い忌避感を覚えた状態で、あったことはすっかり忘れて解放されます。
が。
過去に解放された人は、今のところ皆無のようです。