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魔王系少女はやはり勇者が救った世界でも自由人を貫く  作者: あさはごはん
カールトン地方
2/10

少女と魔王の従僕

二話目です。

ラリアットってかっこいいですよね。

栄華を極めたるわは王のための国。王の城。そして、我らが王。

烏の濡れ羽を連想させる漆黒の鎧を纏い、魔王になるまで、あるいはなってから斬り続けてきた人々の血で染まったと呼ばれる紅のマントを翻しながら王の凱旋は始まる。

此度の戦で滅ぼされたのは隣国の軍事国家だった。敗将の首を飾った旗には血がこびりついており、魔王の紋章を隠しているように見えた。それはまるで最後の抵抗のようで、ひどく滑稽だ。

遠くから聞こえる叫びはきっと生首への恐怖。近く反響する歓声は魔王への嫌悪、憎悪、そしてわずかばかりの祝福。

王は深淵に沈む。

自分には、それを遠くから眺めることしかできない。



___

こぷこぷこぷ。


液体を器に注ぐ音で、従僕の意識は戻った。

首をわずかに動かすとアンティークのサイドテーブルの上に可愛いマグカップが置かれている。ぐるりと辺りを見渡すと、どうやら山小屋の中にいると分かった。


「飲まないでくださいよ。それ、私のココアなんですから」

この声は、

「ご主人さ…」

「絶対安静ッ!」


勢いよく起き上がるとそれの三倍ほどの力でラリアットをくらい、またもやベッドの上に仰向けになる。


「全身筋肉痛でしょうし、疲労も溜まっているでしょう。

今日は動かない方がいいです」


ココアをふうふう冷まして飲む何の変哲も無い美少女。しかし従僕にはわかるのだ。彼女が魔王であること、魔王の転生した姿であることが。


「探しておりました。

さあ、正都に下りましょう。そしてもう一度王として我らが王に…」


「七従臣が一人、エスタロース。

私はもう二度と悪になりません。生きるために最低限の殺生しか行いません。

力は、もう二度と人を傷つけるために使わない」


目を伏せ、諭すよう語る少女。しかしこの程度のことで諦める従僕ではない。


「勇者に傷つけられた侮辱、そのような無力な体に高価な魂を詰め込まれた屈辱。

許せましょうか。いいえ。神が許しても貴方も、私も許せないでしょう!」

「これは、私の負った罰です。神が許さなくても私は許しています」


説得の言葉も無視してサイドテーブルに置かれているお盆を指差し、ご飯を作ったので食べておいてくださいと言い少女は部屋から出た。

勇者に敗れたことにより魔王には大きな心の変化が生じてしまったのだ。

とてもどうしようもなく、大きな変化。

深淵から脱してしまった魔王は果たして魔王なのか?

いや、魔王だ。

一度魔王になればその魂も身体も精神も魔王なのだ。

ならば自分が、従僕が行うことは一つ。

もう一度、少女を魔王へ。

思い立ってすぐに筋肉痛で軋む身体に鞭打って立ち上がり、部屋を出る。

山小屋の二階には二部屋しかないらしく、一つは自分が使っていた部屋だったので隣の部屋を開けたがそこには誰もいない。階段で一階に降りると大きな本棚が唯一特徴的なリビングと料理本や調味料が所狭しと並べられたキッチンが目に入った。そしてリビングから唯一他部屋へと繋がる扉を見つけた。


「ご主人様!どうか私めを御邸宅に置いていただきたく存じ上げ……ま、……す…?」

「……」


お風呂場という文字が書かれたプレートが上あたりにあることに微塵も気づかずに扉を開けると、白色のバスタオルのみを身に纏った少女。

じっとりとした目でこちらを見つめる少女のさらりと長く、しかし程よく肉付いている艶かしい足。タオルで見えないことが悔やまれる(私は悔やんでなんていないが)胸元はわずかに隆起しており、リボンで二つに括られていた髪が頭の高い位置で一つにまとめあげられているおかげで頸が見えてこれまた妙な色気を感じる…いやそんなの感じてないし!


「言い残したいことは、何かありますか?」


ズゴゴゴゴゴなんて禍々しいオーラと文字が見えます、ご主人様。これは多分弁明の余地はないだろう。だが、一応まだチャンスはあると思い言い訳しておく。


「ご主人様、私は決して貴方の体が見たかったわけではないなのです。むしろ見たくないの部類にあたりますから、」

「スパークリティカルラリアットッッ!!」


ドゴォ

壁に人の埋まる音が山中に響いた。


__


「はっ!

一体何が…」


またもや起きるとベッドに仰向けになっていた。先ほどまでとは違い所々に包帯が巻いてあったりしているのだが、怪我した記憶が曖昧だ。

確か、ご主人様を説得しようとして、扉をあけたら、


「何もなかったのです。忘れましょう、エスタロース」

「うーん、何もなかったことはなかったようなあったような」

「ラリアット(ぼそっ)」

「何もなかったですね、ご主人様」


冷め切ってしまったご飯は温めなおしてくれたのかスープには湯気が立っていて、一口飲むと深い風味が口に広がる。とても心落ち着く味だ。


「ご主人様、その、私めを御邸宅に置いていただいてもよろしいでしょうか?」

おずおずと聞くと、あっけらかんにいいですよ、と答える少女。


(まあ、扶養者が一人二人増えたってあまり負担にはなりませんし大丈夫でしょう。それに、私がいないことで随分寂しい想いや苦悩を与えてしまったでしょうし)


と、思う少女に対して


(よし。これでご主人様を説得できる!

我らが王よ、今目覚めたもう…!)

と虎視眈々思案する従僕。

何か盛大なすれ違いが生じたまま、共同生活は始まった。

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