魔王とその従僕
初めまして、あさはごはんと申します。
この小説はいつか実力が身につけば書き直す予定です。読みづらい箇所、誤字、熟語等の誤使用はご容赦ください。
昔々、あるところに黒いお城に住む魔王が住んでいました。魔王は名前のごとく悪い王様で、手下と共々悪さをしては人々を苦しませました。
見かねた古い魔法使いは魔王を倒すための『聖剣』を世界で一番高い山の頂上に突き刺し、『この聖剣を抜いたものこそが抜くことのできた者こそが魔王を倒すことのできる勇者だ。そのものにはきっと富と名誉と何者にも変えられないたった1つが与えられるであろう』と言いました。
しかし、何百、何千という屈強な、あるいは魔力の高い人間でさえその剣を引くことができず、やがて100年が経ったある日のことです。
なんと、屈強でもなく、魔力もない少年が剣を引き抜き、勇者となりました。
その少年は村では真っ白い風貌を馬鹿にされたいじめられっ子でした。
いじめられっ子であった勇者は戦いました。海の怪物に怯まず、山の大蛇を薙いで、魔獣を倒した勇者はついに魔王と対峙しました。
白い勇者と黒い魔王。
二人の戦いは聖剣の閃きによって、勇者の勝利という形で終わりました。
勇者は富と栄誉を与えられ、いつしか馬鹿にされていた風貌も神聖なるものの、勇気あるものの象徴として受け入れられるようなりました。
そしてお姫様と結婚した勇者は王様となり、魔王よりもずっといい政治で人々を治めました。
それから五十年、聖剣は今も、魔王城で太陽の光に包まれながら横たわっているそうです。
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カールトン地方、モンターニュ山の標高二千m前後辺り。
青年、エスタロース・セイシスは疲労困憊していた。まず、正都からカールトン地方まで汽車と馬車を乗り継いで約十五時間、そこからモンターニュ山麓の村まで歩いて三時間。そして、今いる場所まで獣道やら岸壁やらを登って五時間。
計二十三時間。途中で休憩を挟んだりはしたものの、活動しっぱなしだったのだ。
ジャボのつきのワイシャツはよれていたり破れていたり土だらけだったりとその白色のキャンパスを盛大に生かしており、また黒色の長ズボンも破れている箇所がチラチラと目につく。ただ唯一、山の中でも動きやすいようにと調達した頑丈なブーツのみ汚れが目立たなかった。まあ、その中の靴下や足は土だらけなのだろうが。
しかし、青年は正都ではよくある青い目を前に向け、山に入る前は整えられていた絹のような紫髪も振り乱しながら必死に、歩く。
(全てはそう、我が主人、魔王のため…!)
エスタロース・セイシスがこの山に来た理由は元をたどりに辿れば十年前、詳しい事情は割愛するが九歳だった彼の頭上に二、三千ページを超える分厚い本が落ちて来たことに起因する。
善良で有望な魔術師見習いであった彼はその時に全てを思い出した。
自身が魔王直属の部下であったこと、勇者の仲間である剣士に倒され、自らの目の前で主人を殺されたこと。そして、自身が『転生』などというチープでありきたりなことしているというのにも気づいた。
「ふっ、はは。ははははハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
悪にふさわしい高笑いの後、彼の精神は黒に染まった。
と、同時に決意した。
自分と同じく転生しているであろう魔王を探し出し勇者を倒す。
そしてもう一度、この世を手中に収め今度は憎悪で満たすのだ。人の心も、目に映る風景も、何もかもを。
……というわけで魔王らしき人物が暮らしているというこの山に来たわけだが。
(なんだこの体たらくは。
10年前の『覚醒』後、主人のためにと思い魔術のみに特化したのが災いしたのか?
違う、肉体を鍛えるなど頭の悪い亜流剣士のする非効率的かつ非合理的鍛錬だ。
これは主人の能力ある者のみとしか会わぬという意思の表れ。
主人から与えられた試練さえも突破できぬとは従僕失格ッ!
頑張りますよ、ご主人様!
俺は成し遂げてみせますとも…!)
よろけながらも歩き続け、この険しい山道を魔王の采配だと思い込むその姿は洗脳でもされているのかと疑いたくなるほどの、まさにカルト集団の狂信者といった具合だ。
ボロボロの青年が高山地帯にたどり着いたのは夕刻、太陽が西へ傾き山肌をオレンジに照らしはじめた時だった。
夕日に照らされた美しい花畑の中、一人たたずむ少女がこちらを見ていた。それは、ここに自分が来ることなどとうの昔に知っていた、と言いたげだ。
長い、地面に届きそうな黒髪をまたもや黒いリボンで結んでいる。白色のロングワンピースと色白の肌が神と対照的だ。黒と白で統一された少女のコントラストの中、瞳の緋のみが印象深く、人を惹きつける。
とても、美しい。
彼女にも失礼だろうが、これ以外彼女の美を言い表せなかった本人自体もとても歯がゆいのだ。いや、今はそんなことどうでもいい。
少女のまとう雰囲気を青年は知っている。
立ち込める黒雲で薄暗い王城内、玉座に鎮座し控える七従臣のうち、主人は寵愛している自分に告げる。
『貴様は我が欲を満たせるか?』
_____もちろんでございますとも、愛しき主人。
答えればふ、と鼻で笑い玉座から立ち上がる主人。
『門を開けい、者共よ!
さあ、げに醜きとも悦なる宴を始めようぞ』
嗚呼。肉の潰れる音。血の匂い。これこそ我が主人のあるべき姿。我が理想。
「七従臣が一人、アスタロス。現在の名はエスタロース・セイシスと言います。
恐れ大きくも我が主人のもとに舞い戻ってまいりました。
どうかこの命、ご自由にお使いください」
少女の、いや我が主人、魔王の足元に跪く。
「顔を上げよ、エスタロース」
は、と短く返事をして顔を上げた。もちろん姿勢はそのままだ。
長い睫毛に縁取られた大きな目。形の整った小鼻。ピンク色に艶めく薄い唇。ニキビもシミもないきめ細やかな玉肌。
やはり、我がご主人様はとても美しい。
「貴様、実に…」
ごくり。そこで引かれると緊張してしまう。不敬にもそう思った従僕。
「汚いからお風呂に入ってください」
「へ」
「いや、だからお風呂ですって。ばっちいのは嫌いです」
うへえ、気持ち悪い。と両方の二の腕を手で覆い隠す少女はまるで汚物を見るような目をこちらに向ける。
従僕、理解が追いつかない。
意表をつかれまくったエスタロースが率直に思ったことだ。
まず、敬語。次に汚物を見るような目。3番目に風呂に入れの言葉。四番目に『ばっちい』の四文字。
「魔王、ではない、のですか…?」
とっさに口に出た疑問だ。当たり前だろう。まるで思春期の純情な少女のような口ぶりそぶりは魔王を知っているものにとっては不自然でしかないのだから。
「正真正銘。50年前勇者に倒された魔王ですとも。
何ですか、七従臣のくせに本物と偽物の魔王の区別がつかないんですか」
プリプリ怒りながら腰に手を当てる魔王、やはり表記は少女に戻そう(いや、戻させて。これが魔王だと認識するには従僕ちょっと時間が必要)。を呆然と見上げるのは七従臣が一人怠惰のエスタロース
もしかしたら、ここまでの苦労は全て徒労以下だったかもしれない。
そんな考えがよぎり、彼の意識は途切れた。