始まり、出会い、
「こねぇなぁ」
「ですね……」
田が広がる道端で、さっきからこの会話しかしていない。
隣の人は、俺と同じように【仮】奪権渡法人の女性である。
名前は知らない。
無言が続き、
「まだかよ、ちくしょー」
「きませんね……」
の、繰り返し。
さて、暇なので俺たちは何をしているのか話しておこう。
俺はついこないだまで地獄にいた。
試験を受けている俺は、今、やっとの思いで最終試験までたどりついた。
一次試験は、精神力を見る試験だった。
これは自分で気がおかしくなるかと思った。
暗い部屋の真ん中に連れて行かれて、周りを囲まれる。
俺は手足に手錠をかけられる。
取り囲んでいる人たちはみな、銃を構えて俺を見下ろしている。
そして上官は言う。
「お前は弱い。もろい。助けてくれといえば助けてやる。いわなければ今から24時間後に殺す」
そして出て行く。
それからは一言も喋らない、喋ってはならない空気が流れる。
そして、23時間59分が経過したところで、試験が終了した。
生きているのか、死んでいるのかわからなかった。
思い出すだけで身の毛がよだつ。
二次試験は限界を知る試験だった。
ある部屋に閉じ込められ、食料も、水も与えられなかった。
閉じ込められる前に、上官は言った。
「3日だ。3日耐え切ったら合格だ」
そういい残し、無線機と俺をおいていった。
俺は、5日耐えた。
それは間違いではなかった。
閉じ込められたのは俺だけではなく、数十人とともに入れられた。
そして、3日経過したとわかり、すぐに部屋から出たものは一人残らず死んだ。
気持ちが悪くなる。
三次試験は運だった。
「サイコロを振り、5以上の目が出たものは合格とする」
この上官の言葉には、俺を含め、ともに試験を受けた皆が絶句した。
この試験まで、どれだけの思いをしてきたか――
それが、打ち砕かれた気がした。
しかし、振らざるを得ない。
銃を構えた警備員の隣で、振ったサイコロの目は5だった。
喜びを隠せずにいると、上官は言った。
不運にも、俺がサイコロをふったのは最初だった。
「この男は5を出した。この男は死なない。しかしお前らは死ぬかもしれない。この男が憎いだろ、ぇ?」
皆の妬みが、俺をねじりつぶすかと思った。
喜びが、絶望にかわった。
あのときの気持ちははっきりと覚えている。
四次試験は……
「二人だけか」
はっと気づくと、目の前に男の上官がいた。
「奥田明義です」
軽く頭を下げた。
「管野そらです」
そらという子も、同じように頭を下げた。
上官は、どうやら目が悪いようで、片目に眼帯をしていた。
まだまだせみは鳴きやまない、暑さを感じさせる日々が続いているが、彼はきっちりと紺のスーツを着込んでいる。
が、汗一つ流れない。
「まず、最終試験までこれたことに心から祝福しよう」
祝福の気持ちがまるで伝わってこない低い声で言った。
「私はこれからお前たちの監督となる赤城だ。これから2ヶ月間、この田舎町であることをやってもらう」
「あることとは?」
「発言は認めん」
低く、威厳のある声と、ライオンよりも恐ろしい目でにらみつけられる。
そのとき、今までの上官とは何もかもが違うと悟った。
「今、第37次試験の続きで疲れがたまっているだろう」
休ませてはくれないだろう。
「休んでもかまわない。しかし、するべきことを見つけ出すのも、大切だ」
余韻を残すように、語尾を少し伸ばしたあと、一時の沈黙。
冷や汗が背中を伝っていくのがわかる。
「何をしている。二人には一分、一秒もおしいとおもうのだが?」
口早に、そういった。
「失礼します」
立ち去ろうとしたときだった。
「だれが、行っていいと言った――?」
(矛盾しすぎだぜ……)
「っ……!?」
振り向くと、銃口が目の前にあった。
思わず息を呑んだ。
「お前は、間違っている。自分より上のものと接するにあたり、どうすれば相手に不快感をあたえずに済むか、指導されているはずだな?」
「はい」
見開いた片目は殺気だけで、一般人を殺せてしまうと思われる。
その目を決してそらさないように、気をつけながら、一言一言言う。
「私が不快感を与えたなら、謝ります。しかし、先生の先ほどの述べた言葉では、私には立ち去れ、といわれたように感じました」
「それで?」
「先生のお言葉は不十分でした」
しまった、と思った。
もう遅い。
赤城の口元がつりあがり、不気味な歯が姿を現す。
「面白い。この目から逸らさなかったこともそうだが、反抗してくるとはなぁ……命知らずなものよ」
死を覚悟したが、銃口は地へと向いていった。
「今回は見逃そう。行け」
「失礼します」
「失礼します」
死ぬかと思った。
背を向け、歩き出す。
管野が隣にいることさえ忘れていた。
赤城から数百メートルはなれたところで、やっと緊張の糸が切れた。
「死ぬかと思った……」
肩の力をふっと抜いたときだった。
ヒュンッ
頬を何かがかすった。
少し遅れて、痛みが走る。
「ぅ……」
出血し、血が滴り落ちる。
「気を抜くな!!」
そう、聞こえた。
たかがハンドガンで、これほどの距離で正確に撃ってくるとは……
赤城に、恐怖すら覚えた。




