プロローグ
プロローグ
異世界?への転生
『面白いことになれば良いがな・・・』
この世界を偶然通りかかった気まぐれな『存在』によって、1人の男の人生は大きく変わったのであった。
超が付く程の平凡な人生を、内藤 剛は過ごして来た。
男のばかりの理系コースを大学院まで進み、大手メーカーにエンジニアとして何とか就職し、極寒の就職活動を終える事ができた。
けれど、入社直後から残業の日々が始まり、職場の先輩達の経験そのままに、学生時代に付き合っていた彼女に振られた。それから判を押した様な仕事漬けの毎日を、6年間も過ごしていた。
ルックスはごく普通で、身長体重とも標準的、これといった特徴が無い。人に言える様な趣味は無く、たまの休日はスマホのアプリゲームで暇つぶしをしている。性格は生真面目で理屈っぽい。
男が多いメーカーのエンジニア職に、出会いの機会なんて殆ど無いのだ。
しかし、しかしだ!
今日はそんな退屈な日々とは、全く違う展開が待っていた。全然期待してなかった先輩のツテの合コンで運命の?超タイプの女性と出会いがあったのだ。
しかも、何故か良い感じに盛り上がっている。
「いやだ、内藤さんってば、可笑しいんだからっ♡」
(えっ、ハート?なんで?
この話の何処が可笑しいのか?
分からないんですが・・・)
「そう?僕は温泉饅頭が一番好きな食べ物だよ。」
(どうして、またこんな話しかできないのか・・・)
「こし餡とつぶ餡、どっちが好きなんですか?」
と、彼女は僕の腕をギュと引き寄せ、耳元で、
「わ、た、し、は、こしあんっ、ですっ♡」
(胸が当たって・・・いい匂い・・・
これって、ドッキリとか、彼女が罰ゲームを受けているとか?
あ〜あ、彼女が何考えてるか、誰か教えてくれないかなぁ〜)
そんな会話を天文学的に低い確率で聞いていた『存在』がいた。
そして、更に低く確率で、その『存在』からしたら、ほんの少しの軽微な行動を起こした。
『この後、こいつは死ぬのか。では、ここを開けて、これ付けて。ここに繋げて・・・
さて、何か面白いことになれば良いがな・・・』
楽しい時間ほど、あっという間に過ぎて行く。
「ハ~、かなり飲んだなぁ~」
「たけしさんも、二次会行くんですよねっ!」
「うん。行くよ。リエちゃんも行くよね。
おっと、携帯忘れた。先に上がってて!」
(よし!
名前で呼び合う事もクリア!)
僕はこれからの展開への期待に、胸を膨らませながら、合コン会場だった地下の居酒屋へ戻るため、クルリと振り返り、上がっていた階段を下り始めた。
(あ~、ホントに可愛いいな、リエちゃん。
この次のイベントは、メアド交換じゃ無くてラ○ン招待だよな。
彼女いない暦6年だから、そういうのに全く縁が無かったし・・・
今の内にインストールしなきゃ)
「すみませ~ん。携帯忘れてしまって!」
(えっ!地震?)
ガタッと、大きな縦揺れが僕を襲う。
一瞬の間の後、再度激しく縦揺れが始まった。
(遂に来たのか?首都直下型地震・・・
けど、きっと想定内で大丈夫なはず。
此処に居れば大丈夫だろう。)
そう、僕は冷静に考え辺りを見回した。
その時、見慣れない物が目に入った。
それは銀色の縦線だった。目の前に、細いがはっきりとした銀色の、人の背程の縦線が浮かんでいた。
(なんだこれ?蜘蛛の糸みたいだなぁ。
けど、この地震、東日本大震災より大きいな。
地下から出た方が良いかも・・・)
と、僅かばかりの間、縦線から意識を外した後、再び目に入ったそれは、大きな目の様な形をした、銀色の何かに変わっていた。
(はっ?意味分かんない・・・
何がどうなって・・・)
次の瞬間、揺れが一層激しくなり、遠くでガラスの割れる音が聞こえた。
(やばい、何処か身を守れる所に・・・)
一歩前に出ようとした瞬間、銀色の何かに触れ、眩しい銀色の光に包まれた。
内藤剛の居た場所には、居酒屋の大き過ぎる木製の看板が、大きい音を立てて落ち、床に大きなヒビ割れを作ったのであった。