第三十八章 アヤメ、秘密調査官になる
アヤメの実刑が確定して刑務所に護送されると特別室に通された。
そこでモミジも含めて、刑務所長と刑務主任と担当刑務官達と今後の対応について打ち合わせた。
打ち合わせの結果、アヤメは朝一番刑務所に出勤後、面会などの予定を確認して、面会の予約が入っていれば、その日は服役囚として面会に応じて、その他はモミジの助手として秘密調査官の任務に就く事になった。
しばらくテレジア星に帰れない時にアヤメに面会の予約が入れば、刑務所がアヤメに連絡して面会日に帰れそうにもなければ、“アヤメは刑務所で暴れて独房に入れられています。今は面会禁止です。アヤメの反省次第で、いつ独房から出られるか不明です。”と面会希望者に伝える事になった。
アヤメが、「何故独房なのだ!もっとましな断り方はないのか!」と不機嫌そうでした。
モミジが、「女神ちゃん、それが一番女神ちゃんらしい断り方だと思うわよ。それとも豆腐の角で頭を打ってクルクルパーになったとでも説明する?」と説得した。
アヤメも、「解ったわよ。」と渋々納得した。
モミジが、「女神ちゃん、その件はそれで良いわよね?所で、秘密調査官として活動する時に、ヴィツール号やスケバングループの宇宙戦艦を使用すれば女神ちゃんだとばれるから、テレジア軍秘密調査官専用宇宙戦艦を女神ちゃんに貸し出すからこれを使って。」と説明した。
アヤメは、「ヤッター、秘密調査官専用宇宙戦艦は、特別仕様なんだろう?」と喜びながら確認した。
モミジは、「女神ちゃんに貸し出す宇宙戦艦は、意思波変換装置が付いていて、この装置を稼働させれば誰も女神ちゃんだと気付かないので、テレジア軍秘密調査官を名乗れば良いわよ。テレジア軍の司令官にも報告して許可されました。心配しなくても大丈夫だからね。」と返答した。
アヤメは、「な~んだ、それだけか。秘密調査官の経験がない私に、司令官がよく許可したわね。秘密調査官は人手不足なのか?」と残念そうでした。
モミジは、「いいえ、違うわ。今回女神ちゃんに頼みたいのは、博士の対応よ。博士は女神ちゃんのスケバングループを自由に動かそうとしているわ。」とフジコを止めようとしていた。
アヤメは、「スケバングループの動きに軍が関与するのか?秘密調査官は、全宇宙の調査をしているのだろう?そんな暇があるのか?」と秘密調査官の対応が理解できない様子でした。
モミジは、「確かに女神ちゃんの指摘通りですが、問題は女神ちゃんのスケバングループは規模も大きく巨大勢力で、アンドロメダ星雲だけではなく他の星雲にも影響を及ぼす力を持っています。攻撃などの指揮権を慣れない者が持つと、その動きによってはとんでもない事になる可能性があるからよ。」とその理由を説明した。
アヤメは、「そうか。全宇宙に影響を及ぼす可能性があるから軍が動くのか。確かに私が指示すれば地球にも来るわね。」と納得していた。
モミジは、「そうよ。女神ちゃんがこのまま菊太郎さんや菊子ちゃんと地球に住めば、その間に博士が動き出しそうでしたので、今回はこのような方法にしました。こうすれば、菊子ちゃんを地球に送って行くのは博士しかいないので、博士が地球から戻って来るまでに、秘密調査官の訓練をしておいてね。女神ちゃんのスケバングループは規模も大きく組織も複雑なので、全容を掴む事は困難です。スケバングループリーダーの女神ちゃんが一番詳しいので、女神ちゃんが最適任者だと思います。司令官も、そこの所を理解してくれたので許可されました。頼むわよ。」とアヤメに期待した。
アヤメは、「解ったわ、私に任せて。博士の自由にさせないわ。ところで訓練とはなんだ?意思波を変換させるのはボタン一つでできるのだろう?何の訓練をするのだ?」と訓練の意味が理解できませんでした。
モミジは、「そうね、女神ちゃんは実戦経験豊富だから特に必要ないかもしれないわね。軍の宇宙戦艦に慣れる事と、秘密調査官の品格を疑われないように、言葉使いに注意してね。あとは意思波変換ジャケットを渡すわ。」と返答した。
アヤメは、「何だ?その意思波変換ジャケットというのは?」と確認した。
モミジは、「これは、秘密調査官専用の小道具で、このジャケットは、宇宙戦艦の意思波変換装置とリンクしています。つまり、意思波変換装置を稼働させてこのジャケットを着て、ジャケットのフードを頭に被れば、女神ちゃんの意思波が変換されて、誰か解らなくなります。このジャケットを着用している時も、秘密調査官を名乗れば良いわよ。」と返答した。
アヤメは、「秘密調査官の任務中に着用すれば良いのか?」と確認した。
モミジは、「刑務所に出勤する時もこのジャケットを着用するのよ。でないと、服役囚が刑務所の外で目撃されると問題になるからね。」と返答した。
アヤメは、「ようするに、このジャケットを着用すれば、どこの誰だか解らなくなるのか?」と確認した。
モミジは、「どこの誰だか解らなくなるって、これは地球のパトカーや警察官の制服と同じで、宇宙戦艦やジャケットで変換される意思波は秘密調査官専用だと誰でも知っているので、女神ちゃんだと解らないと思い悪戯すると、軍に問い合わせが来て女神ちゃんだと判明すれば司令官を怒らせて、本当に刑務所にぶち込まれる可能性があるので、そんな事はしないでね。」とバカな事をしないように念を押した。
アヤメは、「そうか、でも悪戯する時は堂々と悪戯するから、それについては心配しなくても大丈夫だ。」とモミジを安心させた。
モミジが、「そうね、女神ちゃんがそんな姑息な事しないわよね。」と安心していた。
アヤメは、「他に何か注意する事はないのか?」と確認した。
モミジは、「意思波は変換されるだけで、地球のドラマに出て来る透明人間とは違うので、他の事でもそこの所を注意してね。」と補足説明した。
アヤメが、「解ったわ。しかし、そんな小道具しかないのか?時間を止めるとか、もっとおもろい小道具はないのか?」と興味本位で聞いた。
モミジは、「これは玩具じゃないから、女神ちゃんが期待している様な小道具はないわよ。SF映画じゃあるまいし、どうやって時間を止めるのよ。他の小道具は、腕の力を倍増させる腕環など、どれも実戦経験豊富で喧嘩が強い女神ちゃんには必要ない物ばかりよ。」と返答した。
アヤメが、「それは残念ね。所で博士が私のスケバングループを、自由に動かそうとしているのは本当か?」と確認した。
モミジは、「女神ちゃんも知っているように、先日菊子ちゃんの教育で博士がテレジア星に来ていた時に、スケバングループの幹部と影の大ボスとして接触し、他の不良グループと小競り合いがありましたが、これは博士がスケバングループを自由に動かす練習だと考えると、今、地球へ向かっている博士がテレジア星に帰って来た頃に何かをしようとしているのは間違いないと思うわよ。」と返答した。
アヤメは、「モミジ、油断してないか?私は博士との付き合いが長いから解るけれども、スケバングループの幹部と接触したのは、スケバングループをリモートで自由に動かそうとしているのかも知れないわよ。テレジア星に帰って来るまでに、地球からリモートで動かそうとしているのかもしれないわよ。」と忠告した。
モミジは、「女神ちゃん、博士はまだスケバングループを上手く動かせないわ。遠隔地からリモートで動かすのは無理だと思うけれども、女神ちゃんは何故そう思うの?」と確認した。
アヤメは、「モミジ、昔はモミジも私のスケバングループのメンバーだっただろう。考えてみて、博士が接触した幹部は、遠隔地からリモートで指示して動かすには最適のメンバーよ。」と返答した。
モミジは、「私がスケバングループのメンバーだった頃は、女神ちゃんしか見てなかったので、そこまでは気付かなかったわ。それにスケバングループは複雑で、博士がどの幹部と接触したのかまでは特定できなかったわ。でも警察に出頭していた女神ちゃんが、博士が誰と接触したのか何故知っているの?」と不思議そうに確認した。
アヤメは、「スケバングループの動きを確認するには、数人の幹部と宇宙戦艦の記録を確認すれば簡単に解るわよ。私なら数分で全容を掴めるわ。刑務所は意思波が遮断されていますが、この特別室は意思波が遮断されてない為に、今打ち合わせ中に博士が接触した幹部を特定したのよ。」と返答した。
モミジは、「さすがね。矢張りこの役を女神ちゃんに頼んだのは正解だったわ。スケバングループを上手く動かせない博士が、遠隔地から指示して無理に動かそうとすれば、予想外の動きになり、とんでもない事になる可能性があるわ。訓練だとか言っている場合じゃないわね。女神ちゃんのスケバングループも暗黒星雲の不良グループも巨大組織で勢力も強いから、まともにぶつかれば一般人に被害が及ぶ恐れがあり、宇宙空間で交戦状態になれば、他の星に影響を及ぼす可能性もあります。直ぐに出撃して、そのような事にならないようにして!私も暗黒星雲の不良グループに向けて出撃します。」と慌てた。
アヤメがスケバングループの様子を窺っていると、主力艦隊が暗黒星雲に向けて出撃した。
途中でアヤメが、「こちらテレジア軍秘密調査官です。武装してどこに向かっているのですか?」と秘密調査官として職務質問した。
スケバングループのメンバーは、「軍隊が出て来た!」と焦って影の大ボスに相談した。
「皆、落ち着いて考えてみて。以前表のボスのアヤメが、数隻の秘密調査官艦隊を一人で一網打尽にした事があったでしょう?たった一隻なら、撃破しても問題ないわよ。突破しろ!」と指示した。
アヤメとスケバングループの主力艦隊が、交戦状態になった。
スケバングループの主力艦隊は、「挟み撃ちにしよう!」と秘密回線で打ち合わせを行っていたが、アヤメは秘密回線の事は知っているので、上手く抜けて、近くを流れていた流星群に隠れて、「どこを見ているの?向かえ合わせで撃てば同士討ちになるわよ。」と主力艦隊の弱点を熟知しているアヤメが攻撃すれば、主力艦隊はものの数分で航行不能になった。
その報告を、「周囲を包囲していたのに、いつの間に、その包囲網から抜けて、どこから攻撃されたのか解らない。」とスケバングループのメンバーが報告した。
影の大ボスは、「秘密調査官が、これほど実戦慣れしているとは思えない!」と驚いていた。
アヤメはモミジに現状報告して、モミジを通じて軍に救助隊を要請した。
アヤメはスケバングループに、「今、救助隊を呼んだから、しばらくそこで大人しく待っていろ。お前達が何をしようとしているのかぐらい調査済みだ。そんな戦力で暗黒星雲の不良グループと戦ったら全員死ぬぞ!」と忠告してその場を去った。
スケバングループのメンバーは影の大ボスに、「矢張り表のボスのアヤメさんがいないと、強敵と戦うのは無理だ!主力艦隊が全力で立ち向かっても、秘密調査官の宇宙戦艦一隻も撃破できずに手も足も出なかった。」と進言した。
アヤメはスケバングループと影の大ボスとの周波数を知っている為に、その通信を聞いてモミジに伝え、「これで、影の大ボスの指示で、他の不良グループと争う事はないと思うわ。」と報告した。
モミジも、「暗黒星雲の不良グループは動く気配はないので、しばらくは大丈夫だと思うけれども、博士の事だから女神ちゃんのいない、このチャンスを逃すとは思えないわ。他の不良グループと争うとかして実戦経験を積んで、再度挑戦する可能性は否定できないわ。今後とも、博士とスケバングループの動きに注意して。」と依頼した。
アヤメは、「解ったわ。スケバングループの秘密回線の事など色々と知っているので私に任せて。でも今まででも、地球にしばらく滞在していた事はあるけれども、博士は動かなかったわよ。」と不思議そうでした。
モミジは、「呪縛の時は、博士が女神ちゃんより数十年早く呪縛から解放されたとはいえ、その後、後遺症に苦しみ、後遺症が落ち着いても、いつ猪熊さんが亡くなるかわからなかったし、単身猪熊さんの子孫の事を調べに行った時も、いつ帰って来るか解らなかったからよ。今回は刑期がはっきりしているからよ。」と返答した。
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