第三十七章 偽装逮捕
アヤメ達は、ヴィーナスが菊太郎を説得している間に、宇宙戦艦ヴィツール号で移動中、テレジア星で留守番をしているサクラと連絡を取っていた。
サクラはモミジの姿が見えなかった為に、「あれっ?モミジはどうしたの?先ほどから姿が見えないけれども、トイレにしては長いわね。」と疑問に感じた。
フジコが、「また宇宙へフラフラと出て行ったわよ。あんなの当てにならないわよ。女神ちゃん、あんなのと友達付き合いするのは辞めた方が良いわよ。」と忠告した。
アヤメは、「まあまあ、そう言わずに。あれでも結構良い所もあるのよ。」とモミジをフォローして、“モミジが、いやに早く帰ろうとしていたので問い詰めると、地球人との間に生まれた子供を、まさかハリアット号に残して来て心配で帰ったとは驚いたわ。まさかそんな事は言えないわね。地球人とテレジア星人とのハーフを育てた経験のあるモミジが一番頼りになるんだから・・・”と思っていた。
サクラは、「モミジは、本当にどうしようもないわね。所で医者に確認しましたが、菊子ちゃんも小学生になり、少しは体力もついたでしょう。医者がヴィツール号で菊子ちゃんの健康診断を行い、その結果次第では、少しの間でしたらテレジア星に滞在可能です。但し菊子ちゃんの体調は常時医者と連絡して監視します。異常があれば、テレジア星から設備の整った衛星に出られるように手配していますので安心して下さい。医者との連絡は博士に任せるわね。博士のお母様にお願いしていますのでね。」と説明した。
菊子が、「そんなに地球とテレジア星とは違うの?」と心配そうな様子でした。
サクラは、「そんなに心配しなくても、菊子ちゃんにはテレジア星人の血も流れているので多分大丈夫だと思います。しかし重力などの環境は確かに地球とは異なるので、万が一の時に慌てないように手を打っておいただけです。保険のようなものだと思ってね。詳しくは健康診断の時に、博士のお母さんに聞いてね。」と不安そうな菊子を心配させないように落ち着かせようとして説明した。
菊子は少し落ち着いたようでしたのでフジコが、「菊子ちゃんの教育スケジュールを、先日アネゴに依頼しましたが準備はできましたか?」と確認した。
サクラは、「教育スケジュールですが、地球で生きて行く菊子ちゃんに何が必要なのかは難しかったので、教育関係はUFOや各種訓練や意思波がどの程度使用可能かなど色々と手配しています。全て受ける必要はないのよ。菊子ちゃんが地球で必要だと感じた事や、興味のある事だけ受ければ良いのよ。私は只、その選択肢を多くしただけです。皆と相談して決めてね。」と説明した。
その連絡を受けてアヤメが感激して、「さすがアネゴ、頼りになるわね。矢張りアネゴに留守番を頼んで正解でした。菊子の為に色々と有難う。感謝します。」と喜んでいたが、サクラはあまり嬉しそうではありませんでした。
サクラは、「菊子ちゃん、確か先程クラスメートの写真を持って来たって言っていたわよね?今、見たいのだけれども取って来てくれる?」と菊子に頼んだ。
菊子が取りに行くとサクラは、「女神ちゃんには少し辛い話があります。菊子ちゃんには聞かせたくないので。実は、菊子ちゃんをテレジア星で出産した時に警察に通報されていて、呪縛の血縁関係者の子供を出産した事が警察にばれていました。呪縛の血縁関係者に会っただけでしたら私の力でなんとか抑えられたと思いますが、その子供を出産したとあっては私もどうにもなりませんでした。」とアヤメに現状を伝えた。
アヤメは呪縛ではなかった事がフジコにばれないように、慌てている芝居をして、「どうにもならないって、ヤバイ!どうしよう。おい!博士、じゃなかった、フジコさま、何とかしろ!いや、して下さい。なんでこんな事になったんだ。」と慌てていた。
サクラは、「私との約束を破ったからでしょう。出産する時は、スケバングループの影の大ボスが何か言ったようですが、何故博士のお母様に相談しなかったの?博士のお母様とは知らない仲ではないのでしょう?少なくとも警察には通報しなかったと思いますよ。」とアヤメの行動の疑問点を指摘した。
アヤメは、「博士のお母様は産婦人科でなかったから行かなかっただけよ。」とその理由を説明した。
フジコは笑いながら、「女神ちゃんにしては珍しく、しどろもどろになっていますね。私の母は産婦人科医の資格も持っていますよ。呪縛解放後、母が迎えに来なかったのは高年齢出産の難しい患者を抱えているからだと言っていたじゃないの。産婦人科の看板を掲げていないので内緒で出産するには最適でしたのにね。影の大ボスに唆されちゃって。」と笑っていた。
アヤメは、「今後私はどうなるのだ?」と心配そうに確認した。
サクラは、「テレジア星に帰れば、警察の事情聴取があると思いますが、悪くすれば女神ちゃんはそのまま刑務所行きよ。今の間に博士と相談して対策を考えておいてね。という事で博士、お願いね。女神ちゃんの相談に乗ってやってね。今アヤメが頼れるのはフジコだけだから。」と依頼した。
フジコは、「何よ!博士と言って人を馬鹿にしたかと思えば、今度はフジコってちゃんと呼んだりして、冷静なアネゴもちょっと焦っている?で、どこまで助けてあげられるか解らないけれどもタイムリミットはいつ?」と確認した。
サクラは、「博士という呼び方は、決してフジコの事を馬鹿にしていませんよ。秀才だと尊敬しているのよ。ですから、お願い。タイムリミットは、ヴィツール号がテレジア星に到着する迄です。それとお願いついでに、菊子ちゃんの生活も博士の家で見てやってね。医者の家のほうが、菊子ちゃんの健康管理に便利だと思いますし、女神ちゃんの家は、恐らく誰もいなくなると思いますのでね。」と返答した。
フジコは、「菊子ちゃんの事は私が引き受けるわ。でも女神ちゃんの事は無理ね。数時間ではどうにもなりません。あの時あれだけ止めたのに、私の助言を聞かないからよ。自業自得ね。刑務所でゆっくりと反省しなさい。出産の時は別の医者に行ったって事は、私の母を信用してないのよね?勝手にすれば?」と冷たく突き放した。
アヤメは、「だから、博士のお母さんを信用していなかったのではなく、産婦人科に行ったと説明したじゃないか。そんなに冷たくせずに何とかしろ!」と怒った。
フジコは、「私にもできる事とできない事があるわよ。それに女神ちゃんが刑務所に服役しても、菊太郎さんという立派な父親がいるので大丈夫よ。」と問題ないと返答した。
アヤメは、「菊太郎ちゃんにテレジア星人の事は解らないだろう。どうするのだ?」と確認した。
フジコは、「大丈夫よ。その点はヴィーナス小母様にフォローして頂けます。兎に角、警察と連絡をとって現状を確認してみます。警察も私には、ある程度話をしてくれると思いますが、そんなに期待しないでね。」と警察と連絡を取っていた。
この間にアヤメは、「どうせ、私は警察から睨まれているわよ!」と拗ねて、“モミジが秘密調査官として、警察に私が呪縛ではなかったと説明してくれたから、恐らく血液検査だけだろう。”と思っていた。
警察との打合せが終わったフジコが、「女神ちゃんが刑務所行きになるかどうかは微妙な所ですね。事情聴取で最終的に判断されるようです。対策は、刑事さんの心象を悪くしない事です。と言っても短気の女神ちゃんには無理か。落ち着いて刑事さんの質問に答えるのよ。女神ちゃんはテレジア星で、何度も警察の厄介になっていますが、地球と違ってテレジア星では高校を卒業すると裁判はなく、刑事の取り調べで全てが決まるのよ。だから取り調べがクローズにならないように、知合いや関係者が問い合わせても、今のように、ある程度話をしてくれるのよ。地球では、弁護士でないと話はしてくれないようですけれどもね。どうせ女神ちゃんの事だから、呑気に裁判までに何とかすれば良いだなんて考えているのではないの?短気になれば、間違いなく刑務所行きよ!できる?」と問い詰めた。
アヤメは、「何故裁判がないのだ?」と確認した。
フジコは、「取り調べがクローズにならないようにすると言いましたが、問い合わせだけではなく取り調べも撮影されていて関係者が見る事ができます。ただ、子供は撮影すれば精神的に不安定になる事がある為に、撮影せずに、取り調べで事実関係をはっきりさせて裁判を行うのよ。高校を卒業すれば大人だと見なされるのよ。地球の裁判と警察の取り調べを足して二で割ったようなものね。高校を卒業すれば、他にも色々と変わってくるわよ。」と説明した。
アヤメは、「撮影するって丸で見世物じゃないか!何故そんな事をするのだ?」と不満そうでした。
フジコは、「撮影を見て異議のある人は警察に連絡するのよ。地球では裁判所で判決を下しますが、テレジア星では関係者全員で判決を下すと言っても過言じゃないわ。」と説明した。
アヤメは、「全然知らなかった。コース変更して、逃げよう!」と進行方向を変えようとしていた。
フジコが、「私を巻き込まないでよ。菊子ちゃんを連れて親子で逃亡生活?警察は恐いわよ~。地獄の果てまで追い駆けて来るわよ。」と睨んだ。
アヤメは、“モミジは、私が菊子ちゃんを地球に送って行って、地球にいる間に博士が何かをしようとしているようだから、私が警察に逮捕されて刑務所送りになれば、菊子ちゃんを地球に送って行くのは博士しかいなくなるので、警察には軍から依頼して私が警察に逮捕され刑務所送りになった事にして、秘密調査官の助手をしてほしいと言っていたわね。”と思いながら、「解ったわよ。自信はないけども努力します。」とモミジの協力でフジコに対抗しようとしていた。
やがて、ヴィツール号がテレジア星の周回軌道に到着して、フジコの母が医者としてヴィツール号に乗り込み菊子の健康診断を実施した。
健康診断終了後フジコの母は、「テレジア星に滞在しても、日に数回テレジア星の衛星で休憩すれば大丈夫です。食事をテレジア星の衛星で摂りましょう。それで問題ないです。」と診断した。
アヤメは菊子に、「良かったな、菊子。今回は教育・訓練関係の相談ですので、博士とアネゴが付き添います。お母さんは別の用事があるので一緒にいられないけれども大丈夫よね。頑張ってね。」と言い残して警察へ出頭した。
結局教育は、将来菊子がテレジア星に帰っても困らない最低限度の教育と、地球で何者かに襲われた時や宇宙人の襲撃があった時の事を考慮して、武器やUFOの操縦等の教育を受けた。
その結果、武器は残念ながら使用が許可されませんでしたが、UFOは近距離用小型UFOの副機長ライセンスが取得できた。副機長は単独飛行ができません。所謂仮免許のようなものです。地球で言えば、補助輪を着けた自転車のようなものです。
一方アヤメは、モミジと警察と予め打ち合わせた通り、事情聴取で短気を起こして刑事と喧嘩してその場で逮捕されて、しばらくの間、刑務所で刑に服する事が決まった。
フジコとサクラは交替で菊子の様子とアヤメの取り調べの様子を見に行っていた。
サクラがフジコに、「今日の取り調べで、あの馬鹿、刑事と喧嘩したわ。刑事と喧嘩したものだから、誰も女神ちゃんの有罪に意義を唱える人がいなくてブタ箱決定になったわよ。」と伝えた。
フジコは、「もう、女神ちゃんには、あれだけ短気になるなと忠告したのに。菊子ちゃんは、私が地球に送って行き、地球にいるヴィーナス小母様と様子を見て、頃合を見計らってテレジア星に帰って来ます。」と伝えて、“予定が狂ったわ。女神ちゃんと菊子ちゃんを地球に向かわせようとしていたのに、女神ちゃんが逮捕されれば菊子ちゃんを地球に送っていくのは私しかいなくなるじゃないの。”と思っていた。
菊子にはフジコが付き添い地球に帰り、菊太郎に事情を説明して、「しばらくの間、私達が傍にいます。」と説明する事にした。
菊太郎は、まだテレジア星人の説明を信用していない為に、アヤメが来られない理由をヴィーナスから聞いても、“菊子はアヤメの子供ではないので来ないのかな?矢張り菊子は俺の子供じゃないのかな?”と益々不信の念を募らせた。
それを察知したヴィーナスは、地球に到着したフジコに理由を説明して、同居する事を避けて、説得に協力して貰う事にした。
ヴィーナスとフジコが今迄の部屋で、菊子は菊太郎と二人で生活する事になった。
次回投稿予定日は8月20日です。