第四十八章 アヤメ、菊子の学校を見学する
アヤメは菊太郎から菊子の事を色々と聞き、“クラブ活動しているので帰りはもう少し遅くなる。”と聞かされた。
菊太郎から、アヤメが出所して地球に来る事を菊子に伝えてないと聞いた為に、寄り道して帰りが更に遅くなる可能性があると判断した。
アヤメは学校見学も兼ねて、菊子が通っている高校を見学に行き、菊子の邪魔をしないように、意思波がテレジア星人に比べて弱い菊子に気付かれない程度に意思波を弱めて、菊子が体育館で部活している様子を見ていた。
菊太郎はアヤメが出掛けた後に、もうアヤメと離れたくなく、不審者に間違われないように顧問の松田先生に電話でアヤメが学校に行った事を伝えた。
アヤメが菊子を体育館の入り口付近からそっと見ていると背後から、「アヤメさん?」と聞き覚えのない声で呼ばれた。
アヤメは意思波を弱めていたために、背後から接近してきた人物に気付かなかった。
「誰?」と何故私の事を知っているのか確認した。
「私は女子バレーボール部顧問の松田です。」と自己紹介した。
アヤメは地球で松田長官の子孫について調べたので、直ぐに次郎の息子だと気付いたが、誰から名前を聞いたのか知りたくて気付かなかったふりをした。
アヤメは、「私は高校教師に知合いはいないわ。どこで私の名前を聞いたの?」と確認した。
松田先生は、「僕ですよ、次郎ですよ。テレジア星人は寿命が五千年というだけあり昔と全然変わりませんね。所でサクラさんは元気にしていますか?」と私が次郎ではなく、その息子であると気付くかどうか確認した。
アヤメは、“地球人の寿命から考えると、次郎はそんなに若くないわ。”と思いながら、「嘘、あなた松田長官のお孫さん?そう言えばどことなく面影が残っているわ。」と惚けた。
松田先生は笑いながら、「フジコさんのいうように、アヤメさんはどこか抜けていますね。本当に私が次郎だと思いますか?あれから何年経ちましたか?生きていてもヨボヨボのお年寄ですよ。次郎の息子ですよ。それに私がタイミング良くここに現れた事を不思議に思いませんでしたか?フジコさんから今日来ると連絡を頂いて、先程菊太郎さんからも不審者と間違わないで下さいと電話がありました。菊子さんの様子を見に来たのですよね。」と確認した。
アヤメは、“矢張り博士が喋ったのか。しかし菊太郎ちゃんも心配症ね。私が不審者と間違えられて刑務所に逆戻りするとでも思ったのかしら。”と思いながら、「もう!博士の奴、余計な事を言いやがって!しかし松田先生、何故菊子が私の娘だと知っているのですか?」と聞いた。
松田先生は、「だから、先程、フジコさんや菊太郎さんと話をしたと言ったでしょう。知っていても不思議ではないですよね?矢っ張り抜けているな。菊子さんは皆に隠しているようですが、テレジア星人の事を知っている私には直ぐに解りましたよ。解ったと言っても、テレジア星人の関係者だという事で、アヤメさんの娘さんだったとはフジコさんや菊太郎さんから連絡を頂くまで知りませんでした。学校の裏山で待っていて下さい。菊子さんを行かせますので。」と学校ではなく、外で二人っきりで会ったほうが気兼ねなくゆっくりと話ができると考えた。
アヤメは、“アネゴはしばらく地球に来られないから博士しかいないと思ったが、矢張りそうだったか。博士の奴、私がブタ箱に入っている事になっている間に、余計な事を喋りやがって!”と思いながら裏山へ行き、松田先生は菊子に、お母さんが裏山で待っている事を伝えた。
菊子は、“松田先生が何故、母ちゃんの事を知っているのだろう?でも母ちゃんは刑務所で服役中だから誰だろう?母ちゃんの名を語る奴は。誘拐目的か変質者?変な奴だったら懲らしめてやる。”と思いながら母と名乗った人に会いに裏山へ行った。
松田先生と菊子の話を聞いていたバレーボール部の先輩は、菊子が練習に手を抜いたりしていたので何か秘密があるのだと思い、菊子の事を色々と調べていたが、“母親の事が解れば謎が解けるかも知れない!”と判断して、どんな母親なのか、こっそりと後をつけて様子を見に行った。
菊子は母と名乗った人の事が気になり、待ち合わせ場所の方向ばかりを透視していた為に、背後から来ている先輩には気付きませんでした。
菊子はアヤメに気付いて、「えっ、母ちゃん?いつ出所したの?」と本当にアヤメが来ているとは思わなかった為に言葉を失った。
アヤメは、「お父さんには、私が逮捕直前に渡した通信機で連絡しておいたけど、菊子には伝えてないと言っていたわね。部活ばかりして、お父さんとあまり話をしてないんじゃないの?出所したばかりよ。今日は戦闘艦の艦長ライセンスを届けに来ました。」と戦闘艦の艦長ライセンスを、菊子の右腕に溶け込ませた。
菊子は、「年頃の娘と父親とはそんなものよ。」と地球人の事を教えた。
その後、何故菊子の母の事を松田先生が知っているのかを説明して、「菊子、私は先にお父さんの所へ帰っているので、学校が終わったら早く帰って来るのよ。お父さんと一緒に家で待っていますから。」と伝えて帰った。
その様子を見ていた先輩は菊子に声を掛けた。
菊子は、“えっ?待ち合わせ場所ばかり透視で確認していたので、背後から来ていた先輩に気付かなかったわ。やばい。今の話、聞かれたかな?”とどう誤魔化すか考えていた。
先輩は、「猪熊、今確か出所だとか、逮捕だとか戦闘艦の艦長ライセンスだとかって聞こえたけれども、私の聞き違いか?それに今、猪熊のお母さんが歩いて行った方向は崖で行き止まりだぞ。何故教えてあげなかったのだ?もう引き返して来てもいい頃だが来ないな?どこへ行ったのだ?」と疑問でした。
菊子は、“矢張り聞かれていたか。戦闘艦だなんて、どう説明しようかしら?それに、まさか母ちゃんが空を飛んで帰ったとも言えないし。”と困っていると、前方に謎のUFOが飛来して、ゆっくりと菊子達の方へと近付いて来た。
そのUFOが通った後の建物は全て溶けていた。
その様子を見て先輩は逃げようとしたが、菊子が左手で先輩の腕を掴んで、「そっちは駄目!こっちへ来て!」と先輩を連れて行った。
先輩が、「猪熊!どこへ行くのだ!そっちは崖だぞ!」と抵抗したが、菊子の力には全く敵いませんでした。
菊子が右手を高く上げると、戦闘艦が飛来して、菊子と先輩の体が宙に浮き戦闘艦に吸い込まれた。
先輩は何が起こっているのか理解できませんでしたが、菊子がコックピットへ向かって急いでいた為に、「待ちなさい!猪熊。どこへ行くのだ!あなたが変な所へ連れて来るから、別の大型UFOに拉致されたじゃないの!どうするのよ!」と怒りながら後を追った。
菊子は右腕を捲くりながら、コックピットの艦長席に座り、「別に拉致した訳じゃないわよ。殺されるとでも思ったの?」と、右腕を操作盤の上に乗せた。
その様子を見て先輩は、「猪熊!こんな時に、あなたは一体何をしているのよ!」と怒った次の瞬間、コンピューターから、「艦長ライセンス確認、所属とライセンス番号を告げよ。」と音声が流れた。
先輩が、“えっ!?”と思うと菊子は、「宇宙戦艦ヴィツール号所属戦闘艦艦長猪熊菊子、ライセンス番号XXXXXX。」と応答した。
再びコンピューターから、「艦長ライセンス確認、DNA一致、指示をどうぞ。」と音声が流れた。
先輩は驚いて、「猪熊、これは一体どういう事だ?猪熊がこのUFOの艦長なのか?」とどうなっているのか理解不可能でした。
菊子は、「今、そんな事はどうでも良いでしょう!それよりも、あのUFOを何とかしなきゃ!」と戦闘艦の艦長ライセンス取得後、初めて一人で戦闘艦を操るので慌てていた。
先輩は、「そうね。今は猪熊しか頼る人はいないから頼んだわよ。」とここは菊子に任せるしか方法はないと思った。
菊子は、「スクリーン最大、警戒警報!自動翻訳機ON、全チャンネルオープン。」と指示した。
コンピューターから、「艦長!あのUFOは無人探査機です。通信は無意味です。」と音声が流れた。
菊子は、「砲撃手、レーザー砲発射!」と指示を出し、謎のUFOを撃墜後、「同様の探査機が地球近辺にいないか探査!」と指示し周囲を探査した所、同型の探査機を地球の周回軌道で発見した。
菊子は直ぐに、「立体レーダーON、光速の0.八倍で大気圏離脱!」と指示すると一秒程で人工衛星の高度にまで上昇した。
先輩の体が宙に浮き、「わわわ!」と初めての無重力体験に慌てた。
コンピューターから、「艦長!ミサイル確認。」と音声が流れた。
菊子は、「砲撃手、レーザー砲で迎撃!」と迎撃の指示を出して、その後、謎のUFOを撃墜した。
その後、菊子は付近を探査して、母船がいないかどうか確認したが、発見できなかった。
母船が、今、地球とは太陽を挟んで反対側にいる火星に着陸している事を、経験の浅い菊子は気付きませんでした。
菊子は、“初めて戦闘艦を一人で操り、重力発生装置が搭載されてない事を説明する余裕がなかったわ。”と思いながら、「御免なさい、先輩。正体不明のUFOが攻撃してきた為に説明している時間がなかったので。掴まって。」と腕を伸ばした。
菊子は、「先輩、汗かいていませんか?私の戦闘艦に乗ったのも何かの縁ね。帰る前に、シャワー浴びて帰りましょうか。その間に服を洗濯して乾かすから。」とシャワー室へ行った。
先輩は、「そんなに早く乾くのか?乾燥機なんて嫌だぞ。しばらく暖かいから。それに無重力の状態で、どうやってシャワーを浴びるのだ?」と不思議そうでした。
菊子は、「乾くわよ。科学力の差よ。それに先輩、無重力にしては歩いているのは何故?月に着陸しています。重力が小さいので無重力だと思いましたか?」と二人でシャワーを浴びた。
先輩はシャワーを浴びながら、「どうやって短時間で乾燥機も使わずに乾かすのだ?」と聞いた。
菊子は、「温度ではなく気圧で乾かすのよ。気圧を下げれば、温度を上げなくても短時間で水分も蒸発するわよ。」と返答した。
先輩は、「えっ?そうなのか。初めて知ったわ。」と半信半疑で首を傾げた。
菊子は先輩が半信半疑のようでしたので、「気圧の力、つまり服の周囲から空気で押さえて水分が蒸発しないようにしているのよ。温度で乾かすのは、服の水分、つまり水の分子の活動を活発にして、空気の力を押しのけて、服の外に出しているのよ。気圧で乾かすのは、服の周囲から押さえている空気の力を小さくして、水の分子を服の外に出しているのよ。」と説明した。
先輩は、「解ったような、解らないような、難しい説明だな。」と考えていた。
菊子は、「兎に角、乾くから、あまり気にしない事ね。」と説明を諦めた。
先輩は、「解ったわ。しかしUFOに拉致された時は、どうなる事かと思ったわよ。殺すつもりだったら拉致せずに殺すだろうから、何かの実験台にされたり、裸にさせられて、地球人の身体を色々と調べられたりするのかな?と思い、少しHな事を考えたわ。」と笑った。
菊子は、「先輩にそんな趣味があったとは思わなかったわ。ご希望とあれば、設備も整っているので調べてあげましょうか?」と返答した。
先輩は、「そんないやらしい事は辞めてよ。」と怒った。
菊子は、「先輩は何を考えているの?裸にはなるけれども只の健康診断よ。」と笑っていた。
先輩は、「学校の健康診断と同じか?」と確認した。
菊子は、「服を来た状態で、レントゲンよりも鮮明に、立体映像で体内を確認できるわよ。息は止めなくても良いし、動いても大丈夫よ。ここには医療関係者はいないから、先輩、自分の体の中を見て自分で健康診断しますか?」と聞いた。
先輩は、「それって透けて見えるって事か?やっぱりHだ。しかしそれも良いかもしれないわね。」と返答した。
シャワーが終わると先輩は、自分の身体を立体映像に映して、「そうか。腕を動かすのは、筋肉がこのように収縮するからか。これって健康診断というより、生物の勉強になるわね。また見たくなればお願いしても良いかしら?」と確認した。
菊子は、「ええ、いつでも良いわよ。それと、トイレはそこにあります。」とトイレを指差した。
先輩は、「何故トイレの話が出てくるのだ?」とその理由が理解できませんでした。
菊子は、「便意は、便がS字結腸から直腸に移動する時にします。丁度そこに便があるから先輩、便意つまり、うんこがしたいのではないですか?膀胱にも尿が溜っているから、ついでに、おしっこもしてくれば良いわよ。尿の量からして、相当我慢しているのではないですか?早く行かないと漏れるわよ。」と笑った。
先輩は恥ずかしそうに、「猪熊!変な所を見るな!矢張りHだ!敵UFOとの交戦中だったのでトイレに行けなかったのよ。」と怒りながらトイレに行った。
その後、地球に戻ると、先輩から菊子の事を再度確認されたので、菊子はテレジア星人の事や、菊子が何故、試合を断り練習も手抜きしているのかなどを簡単に説明しながら帰っていた。
先輩は、もう少し詳しい話を聞きたいと要求した。
菊子は、「今、テレジア星から私の母が来ています。私のようなハーフではなく、純粋のテレジア星人なので百聞は一見にしかずと言います。一緒に来て下さい。そこでゆっくりと話をしましょう。」と先輩と一緒に帰った。
次回投稿予定日は9月30日です。




