動き出す歯車
「ん……」
眠い目をうっすらと開け、天窓から差し込んでくる朝の日差しに目を眩ませながら俺は目覚めた。
あの日――この世界に来た日から既に三日、俺はこのベッドとトイレ、洗面台しかない部屋に放り込まれて閉じ込められていた。まぁつまりは牢屋である。
「拘置所がないからしょうがないね」と放り込まれた次第だ。罪状がなんともグレーな俺は協会的にも処分しかねているらしい。
――ならば自由にしてくれればいいのに。
師匠を探したい俺としてはこんなところさっさと出たいんだがな……。
それにしても今朝見た夢で誰かに重大なことを言われたような気がするが、一体どんな夢だったのか。イマイチはっきりと思い出せないが……まぁ夢なんてそんな物だろう。
どこかから凄まじい目で睨まれているような感覚に身を震わせながらレッドの頭には「?」しか浮かばなかった。
「まぁ、どうでもいいか」
俺は早々に考えるのをやめて今解決するべき事に思考を巡らせた。
◇
あの時師匠が行方不明になった、そう聞かされた時に直ぐ動こうとしたが俺は動くことが出来なかった。なぜなら
――チャラ
俺は右手を軽く動かす。それだけで俺の右手に填まっている2つの金色の腕輪が動き金属同士が当たる高い音が鳴った。
魔力の放出を制限する魔法具――魔力によって特定の動作を行う道具の総称――を二個併用して極端に魔力を制限されている状態だ。
俺が席を立とうと腰を浮かせた瞬間にカナデと名乗った少女につけられてしまったのだ。
これでは師匠を探すどころかここから出ることすら叶わない。
「どうしたもんかね……」
返事など返ってくるわけがない。そんなことは分かっている。だがただの独り言でもボヤいてなければやっていられない。
そんな折、気配が一つ近づいてきた。
顔を上げれば丁度そこには件の少女が来た所だった。
「おはよー、レッド。調子どぉー?」
手をひらひらと振りながら親しげに話しかけてくる少女、奏だ。今のところ毎日顔を合わせているが彼女が来るときは取り調べの呼び出しと……朝に全く何の用
もない時だ。
「毎日暇なのか?」
「うーん、最近妖魔の発生も目に見えて減ってるし、出ても雑魚だしで私ら特級は特に暇だねー」
普段どうやって生計を立ててるのか凄まじく気になるところだ。
「あ、そう言えば今日は報告があったんだよねー」
報告?
「君の処分についての判断は支部長に任せる事になったよ。まぁ帰ってくるのは早くても明日くらいかな? あぁそうそう、無免許は罪が重いから最悪の事を考えていた方がいいよ?」
人の悪い笑みを浮かべながらいう奏にレッドは内心ゾッとする。事外に死ぬこともあり得ると言われているのだ、どうにかする手段が無い以上は
「――――」
これは……マズイな、どうにかして脱獄しないと。無理矢理魔力を通して腕輪を壊して後は最大限身体を強化して――
「あはは、冗談だよ。多分悪いようにはならないんじゃないかな?だって――」
――だって、無免許魔術師なんて何処の組織の者かも分からない奴は大抵精神汚染されて洗いざらい脳を探られて廃人になり殺されるのだから。
その言葉をあえて奏は口にしなかった。ただレッドに笑いかけながら、
「やっぱ、なんでもない」
そう言ってまた何処かへと行ってしまった。
◇
時はレッドとアイギスが異世界へ来る前まで遡る。
「漸くか、長かったな」
長年待ち望んだ計画の一歩が漸く踏み出されたことに男は笑みを浮かべながらつい呟いた。
男は右手を軽く上げると魔力を通し魔術を発動させる。場所は当初の計画通り支部から程々に近い山中にしておいた。後のことは元老院の老害共がいいようにしてくれるだろう。
さて、と男が一息吐くと腰かけていた座椅子から立ち上がりポケットからスマホを取りだし何処かへと電話をかけ始めた。すると、相手が待っていたかのようにワンコール以内でその電話は取られた。
「一足先に日本支部に帰ることになりそうだ」
『……そう、それは残念ね。私はどうすれば?』
「取り敢えずは予定通り、仕込みを起動させてくれればいい頃合いに発動するだろう」
『あら? 直ぐに確保に動かないのかしら』
「信号は一つだが魔力を二つ感じた。恐らく二人だ。あれを使える人材二人なら片方をどさくさ紛れに回収してもう一人は泳がしておくのが最善だろう。仕込みの方は残った一人に当てるだけだ」
『保険に捕らえておいた方がいいんじゃないの?』
「保険というならこちらの手の届く範囲で泳がしておいた方が良い。何よりあのレベルの人材を二人相手にするとなると隠密など出来るわけがない」
『成る程、その時が来るまでは放っておくわけね。……相変わらず性格悪いわね、貴方』
「なんとでも言え。これは私の悲願その物なのだから、万全は期すし誰にも邪魔などさせん」
愉しそうに男が笑う声だけが部屋に響き渡っていた。
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