夢
セリフの位置を変えて少し増やしました。
大筋は変わってませんのであしからず。
――――気が付けばどこかの一室に居た。
なぜここに居るのか、自問してもその答えは全く浮かばない。
俺はいつの間にか椅子に座っており、その対面には一人の少女が座っていた。
まだどこかあどけなさを残した幼い顔立ちに、深い緑色の長髪を持った少女だ。
「――ねぇ、レッド。占いは好きかい?」
不意に目の前に座る少女が言った。
前にも同じことを言われた気がするが、あれはいつの事だっただろう? まぁなんであれ俺が返す言葉は決まっている。俺はいつか誰かに返した気がする言葉を少女に返した。
「信じるかどうかは別として、嫌いではないな」
「なんだよ、それ」
彼女は小さく笑うと少し不満そうな声を出す。
「占いはあくまでも道しるべだよ。それを辿るも背くも君次第だ」
そう言いながら少女は腰につけたケースから一組のカードの束を取りだしシャッフルしていく。
「こうして君を占うのも久しぶりだね」
「――――」
彼女がそう言ったとたん、急に意識が鮮明になるのを感じた。何処か寝惚けたような視界や頭が急にハッキリしていく。
――あぁ、思い出した。これは彼女に初めて占ってもらった時の記憶だ。誰かに言われた気がする? 誰かどころか目の前に居るのはその時言った張本人ではないか。
「よかった、驚いてくれなかったらどうやって一矢報いてやろうと思ってたんだ。狙い通りでなによりだよ」
「メア……なのか? ここは――」
「――どこなのか? なんて。お決まりな台詞だね」
俺は目の前にいるかつての仲間である少女――メアリーに問おうとして、言い終わる前に彼女と言葉が重なる。
女は待っていたと言わんばかりに小さく笑うと俺が最初に感じたことを肯定し、新たに生まれた懸念を否定した。
「ここは君の夢の中だよ。――あぁ、夢と言っても君の記憶の世界じゃない。確かに舞台は借りたがワタシは紛れもなくワタシ自身だ、安心していいよ」
「凄いな、一体どうやって夢の中なんかに……」
俺が率直に疑問を口にすると同時にメアはカードを机の上に置く、すると少し頬を膨らませていた。
「……久しぶりの再会よりも大事なのはそんなことか、君という奴は」
「久しぶりって……最後に会ったのはこっちに来た日だったから――三日か? それくらいぶりだろ」
指を折りながら数えるがやはりその程度だ。この世界に来た時点で、あっちとこっちで時間差があるのは分かっていたが、それでも大して日数が経っているとは思えない。
「行ける場所が限られている君が四日も居なくなったんだ、しかもアイギスさんも。……心配しないと思ってるのかい?」
「……スマン」
真っ直ぐ見据えられ、俺はたまらず顔を背けた。
「いや、ワタシにはこんなことを言う資格は無い。君をそこへ追いやったのはワタシも同じなのだから」
「なっ、それは違う。誰も悪くないだろ、あれは俺さえいなければよかっただけの話なんだ。俺みたいな異端さえいなければ――」
――ダァン!
言葉を言い終わる前にメアが強く机を叩いた。
力を込めすぎて彼女の手が小さく震えている。顔を見れば精一杯歯を食い縛って何かを必死に押さえ込んでいた。
「ワタシには……君を怒る資格はない。でも、どれだけ探しても……アルカナですらも見つけられなかったんだ。その事実がワタシをどれだけ苦しめたか、後悔させたか考えてほしい」
白い綺麗な肌を小さな滴が流れ落ちていく。
「……泣くなよ、お前は悪くないだろ」
人類の敵を屠ったのが殆ど個人の力によるものだとしたら、人々が恐怖するのは当然のことだ。
結局のところ人類は、魔王に脅かされてはいたが突き詰めれば力を持った個人に脅かされていたのだ。一度その脅威を知った民衆がその眼を俺に向けたことは何も不思議な事ではない。
どうしようもない力を持った個人は取り除かれていないのだ。これが当然の帰結ではないのか。
そう言うと、メアは小さく首を横に振って否定する。
「いいや、あんなのはあんまりだ……。あれはワタシの、ワタシ達の罪でもある。ワタシには絶望に打ちのめされていく君の姿を見ていられなかった、本当にすまない……」
「――――」
「世界中が君の敵となったあの時、立ち向かえたのはアイギスさんだけだった。あの人が居てダメだったのなら、ワタシが居ても変わらなかったかもしれない。――それでも、これはワタシの後悔だ」
だから、と彼女は涙を拭いてカードを1枚引く。
「あれが魔王が残した最後の呪いだと言うのなら、その尽くを今度こそ払いのけよう。そのためにワタシはここまで来た。今度こそ君を守れるように」
ニコリと笑う彼女の眼には、確かに強い意志が宿っていた。
◇
「アルカナは、運命に干渉できる魔法具っていうのは知っているよね?」
カードを淡々と裏向きで並べながら彼女は問う。
『魔法具 アルカナ』
七十八枚一組のカードの束でそれぞれに意味と力があり、七十八枚あって初めてアルカナとして起動できる。一枚では大した魔法具ではないが、七十八枚全て揃っていれば魔法具として最高の格を持つ七星武具にも並ぶ逸品だ。
限定解放させれば限り無く高い精度の未来を占いによって暗示できるが、メアはそれはつまらないだろうと気まぐれでしか占わない。
「あぁ、でもそれは凄いだけの占いの道具じゃなかったのか?」
どうやってここに来たのか。その解答にはならないだろう? と暗に告げる。
「いいや。限定解放はただの占いのカードだけど、完全解放させれば一人につき一度だけ、限定的ではあるけどその人の運命に干渉できる。流石にワタシも君が異世界にいるとは思ってなかったからね……、通じてよかったよ」
カードを並べ終えるとメアは人差し指をクイっと上に上げる。すると一斉にカードが裏返えり、そこには占いの結果があった。
「なんて出てるんだ?」
「ちょっと待って。――君は今悪意ある大きな運命の流れに飲まれかけているね。まだ流れはゆっくりだけど、段々それは強くなって行くだろう。でも、それに逆らっちゃいけない。順応して躱すんだ」
「躱すって一体どうしろって……」
漠然としたアドバイスに困惑しながら俺が返すと、メアは小さく笑った。
「大丈夫、君がその運命を飲み込む暗示も出ている。君次第なのは否めないが、大丈夫だ。すぐにワタシもそちらに向かう」
「……え?」
「異世界渡航の手段はまだ不明だし、君に聞いても教えてくれないだろう? なら、ワタシはワタシの方法でそちらに向かう。こうして夢で君と会うのはこれが最後だがまた会えることを祈ってるよ」
「ちょっと待て、お前まで来る必要は――」
言い終わる前に視界が眩み始める。
なんだ? これは。
「ごめんね、そろそろ魔力切れだ。完全解放をこれだけ維持したんだ、アルカナにも無理をさせたかな……」
「待て、まだ言いたいことが――!!」
そこで俺は意識を手放した。
最後に彼女がアルカナの内の1枚を俺に向かって投げていたような気がした。
誤字脱字、感想等があればよろしくおねがいします。




