捕縛
今更ですがレッドたちは魔術のことを魔法、優たちは魔法のことを魔術と認識しています。
そのため地の文でも統一されていません。
話が進んで認識が共通になったら全部統一されるんであしからず。
加筆修正しました。
全身にしっかりと魔力を行き渡らせて全身に施した強化術式の出力を上げる。ただそれだけで優は身体能力を数段引き上げた。
何ということは無い、魔術師なら質はともかく誰にでもできることだ。
勿論それは異世界の魔法使いとて例外ではない。
そんな戦いにおいて常識ともいえる魔術を行使しただけの優は、腰の刀にゆっくりと指先を触れさせた。
「【居合 徒花】」
――――瞬間砂埃が舞う。一瞬のうちに間合いを詰めると優は音速にも迫る勢いで斬撃を放った。
凄まじい速さと鋭さを持った一撃。
優の持つ技の中でも一対一、更に初見であれば必殺を誇る一刀だ。そうでなくとも容易には防げない迅速の居合。
一瞬遅れて高い金属音が鳴り響く。
必殺した自信があった。だから一拍遅れて、彼は目の前の状況に驚愕した。
普通に防ぐならば、それでも驚きだが納得できないこともない。だが、目の前で起きていることは違う。
彼の居合は音速に迫る不可視の一撃。
当然ながら踏み込みすら認識させない速度だ。並みの魔術師では間合いに入った瞬間には必殺する。
だが、アイギスはその居合を完全に防いだのだ。文字通り、完全に。
優はもう一度アイギスの剣先を見やる。
剣先はしっかりと腰に差してある鞘に収まったままの刀の鍔に添えられていた。
振り抜こうとした手の真横を綺麗に剣先が捉え、今なおギチギチとお互いの力が拮抗している音が鳴っている。
「おいどうした、剣を抜かないのか?」
フッと笑いながらも鍔を剣先で押さえ続けながら煽るようにアイギスは言った。
「抜く事すら出来ないとはな……驚いた」
「大したことじゃない、剣の長さと姿勢から位置を予想して合わせただけだ。
踏み込みの速さは大した物だったぞ? まぁ次は完全に視認するが」
そう言ってアイギスは身体強化の魔法を上書きして出力を上げた。
まだまだ本気じゃない様子のアイギスにうんざりした様子で小さく息を吐くと刀の角度を変え、鍔から剣先をずらす。
その一瞬を利用して後ろに下がると刀を抜いて構え直した。
「悪いが本気でいかせてもらう。生かして捕縛しなくては駄目なんだが……死んでも恨むなよ」
「フン、かかってくるがいい」
綺麗な顔に似合わない好戦的な笑みを浮かべるアイギスに悪態をついた。
それと同時に再び優が仕掛けるとまた高い金属音が辺りに鳴り響き始めた。
◇
「へー、あの人強いねぇ……」
奏はアイギスが優の一撃を防いだのを感心した目で見つめながら呟く。
その様子に俺のことは眼中に無いのかとレッドは思いながらも先手必勝と素早く踏み込む。
相手は異世界の魔法使いだ。油断しているならばそれに越したことは無いし、相手を待つ必要も無いと容赦なく攻撃に行った。
「おっと」
優程では無いがそれなりに素早く踏み込んで放たれた唐竹を後ろに下がって容易く回避される。
だがレッドは振り下ろした力を利用してそのままもう一歩踏み込んで回転切りを放ち追撃する。
それをバク天しながら回避するとレッドから五メートル程離れた位置まで飛んで距離を取った。
「危ないなぁー。少しくらい構えるまで待ってくれたりとかしてもいいんじゃない?」
頬を膨らませながら言っているのに対して本気で言ってるのかといった顔を浮かべながらレッドは構え直すと、彼女は不意に足元の小石を一つ手に取った。
「【同調】」
小さく呟くと小石を握った右手に雷が走る。僅かにバチッと音が鳴ると直ぐに放電は止んだ。
――何か来る。
レッドが警戒を強め、身構えたと同時に雷は止み拍子抜けするレッドだが、奏は気にせず思いっきり振りかぶった。
「くら……えっ!!」
身体強化によって上昇した腕力による投石。確かに速くはあるが銃弾とは比べるまでもない。
せいぜいプロ野球選手の球速くらいの速度で投げられた石は直ぐに3mという間隔を詰めるが、一般人相手以外に当てるには些か遅すぎる。
「……は?」
何をやっているのかとレッドは剣を使うまでもなく身体を横に僅かにズラしただけで避けた。
何がしたかったのかと奏に視線を戻そうとした瞬間
――――バチッ
腹に強い衝撃。
見れば奏がレッドの真横で回し蹴りを放ち、それが綺麗に鳩尾に入っていた。
「かはっ……!」
いつの間に接近していたのか。肺の空気が押し出される感覚に呻きながら身体を浮遊感が支配する。
数m飛ばされると木に当たって勢いが止まった。凄まじい威力だったが立てない程じゃない。レッドは腹を押さえながら何とか立ち上がると、そこで初めて自身の手から剣が消えていることに気づいた。
「落し物だよー」
「ちっ……!!」
ヒュンッと高い風切り音と同時に飛来する剣を紙一重で避けると後ろの木に深々と突き刺さる。
――――バチッ
またあの音。レッドの意識が音に向き、ソコに視線を向けた時には既に高々と脚を掲げる奏の姿があった。
拙いと思うと同時に頭に強い衝撃を受け強制的に地面に顔面を叩き付けられる。
僅かに抉れた地面に転がったレッドの後頭部をダメ押しとばかりにもう一度踏みつけると地面が深くもう一段抉れた。
「こんなもんか」
つまらなさそうに呟くと奏の足首をレッドが掴んだ。
「ってーな……くそ……」
弱弱しく掴まれた手を軽く払うとレッドの前にしゃがんで手を翳した。
「【縛式 鎖縛】」
掌から光る鎖が凄まじい速度で生成され、レッドに巻き付くと強く縛り上げた。
「ぐっ……なんだこれ……」
「下手に動くとどんどん締まるからやめといた方がいいよ」
そう言いながら今度はレッドの頭に手を置く。
「【調整】」
手から雷が発生するとレッドの身体全体を包む。
数秒で手を放すとそこには先程と何も変わってないレッドが転がっているままだった。
「……何をした?」
「んー? ……内緒ー」
クスッと笑うと奏は魔術を行使した。
――――バチッ
鳴り響く放電音。
その場からレッドは姿を消していた。
「捕縛完了っと。あっちはもう片付いたかなー?」
奏は鼻歌交じりにアイギスと優が戦っている位置まで歩き出した。
誤字脱字、感想等があればよろしくおねがいします。




