異世界剣士と現代魔術師
加筆修正しました。
奏と優が森に到着すると二手に別れて調査を開始した。
奏が観測地点を調査し、優が森全体の索敵行っている。
そして時間はレッドとアイギスが森に引き返したところまで特に調査の進展はなく進んだ。
そんな中、息を潜めて木の上に立つ優は森に戻ってきたレッドとアイギスを見つめていた。
『奏、受信機は立て終わったか?』
優は念話の魔術を発動させると奏に連絡を取った。
『まぁこれだけ配置しとけば問題ないかなー。そっちは?』
『怪しい二人組を発見した。二人組の男女がこんな時間に森の中、しかもコスプレか? ……まぁとにかく変わった服装をしている』
『凄く怪しいけど……民間人の可能性は?』
『あるだろうな、暫く見張っているから合流してくれ。座標は――』
優は伝えることを伝えるとまた監視に集中し始めた。
――この二人に既に気づかれているとは知らずに。
◇
「とりあえず今後の行動についての方針を決めよう」
戻ってくるなり師匠は切り株に座って切り出した。
「そうですね。この世界で行動する以上この世界での常識や通貨は必要になってきますから、それを把握し手に入れるのを優先にするべきじゃないですか?」
「そうだな。それに先んじてとりあえず今分かっていることを改めて整理しよう」
そう言って師匠はポケットから先ほど街で手に入れた物――ポケットティッシュ――を取り出すと、そこから一枚抜き取った。
「この世界はこんなものを作って無料配布できるほどに文明が発達している。いや、もしかしたらマジュツというものがこれを生み出せるほどの技術なのかもしれんが……。まぁそれは分からないことだ今は置いておこう。そして――」
ポケットティシュを裏返すと裏側に書いてある絵と文字を指先に光を灯して照らして見せた。
「文字が理解できない、これは当然だ。だが言語は通じる。不思議なものだな、これも要調査だ。……しかし恐るべき印刷技術だなこれは……。まぁこれも今は置いておこう。そしてこれが一番重要だな」
師匠が僅かに視線を上へと上げると同時に俺は無言で人差し指を立て、上を指した。
それに師匠も無言で頷く。
先程この場所を発つまでは無かった魔法を行使していた痕跡があるのだ。そして何より、ついさっきまた周辺の魔素の濃度が僅かに変化した。
魔法の発動した瞬間が分からなかった所から相手の力量が相当な物であることは分かるが、場所が悪かったな。
ここは元の世界に比べればかなり魔素が薄い。こんな環境で魔法を行使すればどんなに注意を払っても周辺に及ぼす空気への影響で感知されてしまうだろうに。
魔法の主がこの世界の人間であるが故に掘った墓穴だろうと当たりをつけた俺と師匠は、僅かなアイコンタクトで会話を済ませると頷きを以て行動を開始した。
師匠は不意に魔力を解放すると腰の直剣を振り向き様に抜き打ちながら身体強化の魔法を発動した。
後ろにあった木は建築資材にも出来そうなほどしっかりとしていたが、まるで紙を相手にしてるかの如く背後の大木を切り倒した。
剣の切れ味や強化の技術だけでは無く本人の高い技量が無ければこうもあっさりとは断ち切れない。相変わらずの技量に感心しながらも、それに見惚れることなく俺も一瞬で戦闘態勢を整え身体強化の魔法を発動した。
俺は衝撃と共に目の前の木が倒れるのを確認しながら砂埃の中に立つ男に注意を払いながら背中の両手剣を抜く。
見れば師匠も同様に男を警戒しながら正面に剣を突き付けていた。
「こそこそと隠れて何をしている? 魔法まで行使して……貴様は何者だ?」
◇
木の上から身体強化魔術を発動して自身の肉体を強化すると難なく地面に着地する。
対処としては完璧だったが腑に落ちない点が幾つかあった。
――どうしてバレた?
念話の魔術は完璧に隠ぺいして発動させていたし気配も完璧に絶っていた。
その上でバレたのであれば最早野性や直感に近い次元では無いのかと思考していると、凛とした女声が響いた。
「こそこそと隠れて何をしている? 魔法まで行使して……貴様は何者だ?」
魔法……正しい表現ではないが、こちらの魔術を感知して察知したことはこれで明らかになった。
化け物レベルだな。と優は静かにため息を吐く。
今回の件の原因は間違いなくこの二人だろう。正面から相手するのは面倒だが、場合によってはあり得ることだ。
今の物音で奏が直ぐにかけつけてくるだろう。
ならば自分が一先ずすることは時間稼ぎだ。
「俺の名前は神代優だ。協会に所属している人間だが……、お前たちは協会の魔術師では無いな?」
「協会? 悪いが何の事か分からないな」
「ふん、名乗られたら名乗り返すのが礼儀じゃないのか?」
面白くなさそうに優が鼻を鳴らす。明らかに此方の情報を探っている様子だがはっきり言ってこの世界に来たばかりの身としては名前ぐらい知れたところでどうということは無いだろう。と、そこまで思考してアイギスは口を開いた。
「これは失礼したな。私の名前はアイギス・フォン・エリスタニア、こっちの男は」
「レッド・アルキスだ」
聞いたことのない名前だ。確実にこの辺りのフリーの魔術師でも協会の人間でもないだろう。
ならば彼女らは何者だろうか。
いや、それよりも――
「――お前、アイギスと言ったか。協会を知らないのか?」
「ここに来たばかりでな、悪いが知らない」
魔術師が協会を知らないということは通常ありえない。
何故なら魔術師として活動するためには魔術免許が必要でそれを取得するには協会に一定以上の実力を認められなければならないからだ。
協会を知らないということはつまり無免許である可能性が高い。
そしてアイギスは先ほど光源の確保のために魔法を行使していた所を優に見られていた。
優は腰の刀に手を伸ばすと姿勢を低くした。
「無免許による魔術行使、悪いが今回の件で話もある。強制的に拘束して協会に連れ帰らせて貰うぞ」
「ほぅ……何を言ってるか皆目分からんが、やるというなら来るがいい」
アイギスも剣先を相手に向けるように構え、腕を引き絞る。
レッドがよく知るアイギスの構えの一つだ。
攻防一体。主に間合いを重視した構えで様子を見ながら迎え撃つつもりなのだろう。
さて自分はどうした物かとレッドが考え出したと同時に、新たな気配が森の奥からやってきた。
見れば小柄な少女、殺伐とした魔力が迸る空間には似合わないように感じたが少女――奏は状況を察すると短く優に問いかけた。
「私はこっちを拘束すればおっけーかな?」
「あぁ、俺はこの女をやる。奥の奴は任せた。無免許魔術師の可能性が高い、確実に拘束しろ」
「りょーかい」
間の抜けた声だが少女が身体強化の魔術を行使した段階でレッドの目の色が変わった。
この二人の魔法の行使には恐ろしく無駄がない。
それは即ち強者であることを表している。
レッドが構えると同時に優がアイギスに向かって踏み込み、高い金属音によって戦いの火蓋が切られた。
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