ある少女の日常
ちょこちょこ更新します。
時間は少し戻ってレッドと言葉が食堂で出会った頃。
魔術学園での一幕。
◇
趣味は特にない。
特別仲のいい友達もいない。
クラスでの立ち位置は真ん中の方で、特にいじめられてるわけでも敬われているわけでも無い。居るようで居ないが確かに存在している。そんな感じ。
ただ無駄に過ぎていく毎日の中で、他人の魔術を見て写す術ばかりが上達していく。
別にそのことに不満がある訳では無い。ただ、尊敬していた兄の技量をいつの間にか超えてしまったと確信した時、私は努力することを止めた。
自分のようなただ兄の背中に縋ってきただけの女が兄の悲願を達成してしまえば、それは彼に対してのこの上ない侮辱であると思ったからだ。
これは別に誰が悪いと言う話では無い。
ただ両親は兄に期待を掛けすぎているだけなのだ。そして応えなくてもいい私が力を持っているだけ。
……あれ、ひょっとして悪いのは私か?
「何を難しい顔をしている」
そこまで考えたところで、不意に目の前に狐の面が現れた。
「うわぁ!?」
ボーっと頬杖をついていた体勢から思わずガバッと跳ね起きてしまった。
……よく見るとクラスの皆が此方をジーっと見ている。普段出さないような素っ頓狂な声で叫んだから余計に注目を浴びているようだ。
咳ばらいを一つして何でもないと周りにアピールして席に着くと、周りもまた各々の事に夢中になり始める。
……って、いつ授業が終わったのか知らないが今は昼休みか。
「悩み事か? らしくないな」
「……急に驚かしてきて他に言う事あるんじゃねーっすかね」
「ふむ? オレは普通に声をかけただけなんだが……。まぁいいか、すまない」
狐の面を被ったやや小柄の人物。足下に擦りそうな長い薄ピンクのマフラーを常に着用している変わり者だ。その声色や容姿から性別を知ることは難しい。クラスでも私くらいしか知らないんじゃないだろうか。
この見た目でいつもクラスの空気に溶け込んでいるというのだから不思議だ。個性に個性を足したような奴が隠形出来る程にこのクラスは個性の塊ばっかりだっただろうか。
「で、何か用っすか?」
「別段用事があった訳じゃない。ただ、友人が瞬きもせずに小一時間呆けていたら気にもなる」
そんなに長い時間考えていただろうか。というか瞬きもしてなかったのか。確かに言われてみれば目がしばしばするけど……。
何となくムカつくからアイアンクローを喰らわせておこう。
「誰が間抜けヅラっすか」
「そこまで言ってない」
ところで、と割りとギチギチ音を立てながらアイアンクローを絶賛喰らっている狐が口を開いた。私の悩み事について詮索してこないのは狐の良いところだ。私が話を逸らそうとしているのを察してくれたのだろう。
「近いうちに新入生が来るらしい」
「そうなんすか? 特ににぃからは聞いてないっすけど」
「オレが直接聞いてきた情報だ、間違いない。それで今生徒会役員の殆どが協会の方へ行っているらしい」
「ふーん。ちょっと気になるっすね、放課後にでも生徒会に顔出して見ようかな」
「そういえば、兄貴が忙しそうにしてたから手伝って来た方がいいんじゃないか?」
丁度言い終わったタイミングで昼休みが終わるチャイムが鳴った。会話の切れ目でもあったし丁度いい。
「じゃあ放課後にでも顔を出して見るっす。ありがとー、もっちー」
アイアンクローを解いて手を降ると、目の前からシュンっと姿を消した。
直ぐにちらりと斜め後ろの奥を見ると、何でもないように普通に席に座っていた。……毎度の事だから突っ込まないでおこう。
「あっ、お昼食べ損ねた」
◇
さて放課後だ。
かったるい授業は全て寝て、起こしに来た教師の魔術をレジストするのに今日も疲れたがこれからが本番だ。
生徒会室の前に立つと妙に緊張する。いや、正確には生徒会室の中に兄がいるからだろう。家でもあまり顔を会わせることがないため学校でしか会えない最愛の兄が。
まぁ残念なことに生徒会室で会う時は、大概事務仕事をしていてその度にほぼ毎回大量の書類に埋もれて干からびているが。
「ゴクッ……失礼します」
ノックを三回して少し待つ。返事が無かったが別に鍵が掛かってる訳ではない。恐らく手が離せないのだろうとドアノブに手をかけ普通に開けた。
「……にぃ?」
兄の姿は見当たらない。名前を呼んでも返事はなく、目に写ったのは紙やファイルの山に埋もれながら呻いている屍だけだった。
「あぁ、手遅れっすね」
スマホを取りだし自撮りをしながらフレームの中に屍(兄)を入れるとそのまま撮影し、メールに添付して天継へ送信。そして直ぐに屍を蘇生する作業に移るのだった。
「今日は帰るのが遅くなりそうっすねー……」
ついでに手伝う用のパソコンの電源を入れながら。
誤字脱字、感想等があればよろしくおねがいします。




