忘れてた
遅くなりました。
年内ラスト更新です。
「っててて……。本当凄いねー、ここまで楽しめそうなのは久しぶりだよっ」
そう言ってぴょんっと跳ね起きたのは先程綺麗に吹き飛ばした言葉だ。
本気で殴った訳では無いが、それでも気絶させる程度の威力で殴打を打ち込んだはずなんだが……。
「どんだけタフなんだよ」
パキパキと身体の関節を鳴らして調子を確認している辺りまだまだ元気そうだ。
「あは、でも残念だけどここまでかなー。諺二つ出した上に最後、身体強化も使わされちゃったし」
手首をプラプラさせながら何でもないことのように言い放つ。
これだけやっといて【征拳】を当てる前まで身体能力が素だったなんて笑い話にもならない。
「それにそろそろ天継に止められそうだしね」
チラリとそちらに目線をやると、言葉に何かを視線で訴えかけていた。
それを見た言葉は名残惜しそうにため息を一つ。その直後に言葉から魔力が軽く霧散し赤い隈が消えた。
恐らく魔術を解除したのだろう。
そこで初めて俺も緊張を解いた。念のために【強化】は出力を下げるだけで解除はしないが。
「もう十分楽しんだだろ? これ以上は本当に殺し合いになるぞ」
「十分殺し合いだったと思うんだが」
「――それにしても、言葉をゴリ押しの強化魔術でよく凌いだもんだ。入学後が楽しみだな」
……まぁ流石に気づかれるか。あんな魔力量任せの術式、魔法でも論外だ。
「生憎、アレしか手が無かったんでな」
他の手は打ちたくても打てなかった。
というかこのペンダント。
今更ながら魔力放出を利用した体術が満足に使えないから改良をしてもらう必要があるな。
後で持って行こう。
「魔力量は申し分なし、体術も上々だ。魔術は今後の努力に期待ってところだが、この分なら中級魔術師の仮階級を得られるだろう」
「仮階級?」
「知らないのか? うちには実力や成績に応じて生徒に仮階級を与える制度があってソレがそのまま卒業時の魔術階級になるんだ。勿論簡単に上げることはできないし特級ともなれば校内では一握りしかいないが」
図書館の閲覧許可に階級がどうこうって話はコレか。
説明不足……いや、大事な事なのに詳しく訊かなかった俺も同罪か。
「中級魔術師は入学時に得られる階級では最大だ、よかったな」
「因みに私は上級だよ。で、天継は特級」
凄いでしょ。っと胸を張る言葉。
お前が威張るな。
「まぁ言葉は近接戦闘の腕だけなら特級顔負けだから、仮階級というのもあまり当てには出来ないんだけどな。現に俺は言葉より弱いし」
まともに戦えば。っとでも顔に書いてそうな顔で笑う。
こういう手合いは意外と油断ならないのは異世界も同じか。
「天継」
短く呼ぶ声。声の方を見やれば茶髪に短髪の少女が此方に歩いて来ていた。
「ヒナか。そっちはどうだった?」
「あぁ。わざわざ支部長が出張ってきただけあってそれなりの話と圧力を掛けられてきたぞ」
辟易とした様子で答える彼女を適当に労うと、最後に写真を撮らせて貰うと言って顔写真を何枚か撮られた後で三人は去っていった。
去り際に言葉が「またやろーねー」と言っていたが魔法無しでは二度とやりたくないものだ。
◇
魔術協会を出た三人――天継、言葉、陽南子――は帰りのタクシーの中で今日の報告を行っていた。
勿論タクシーは一般企業の物で、魔術とは一切の関係なく学園に帰るための地点までの移動の脚の一つとして使っているだけだ。
運転手が話を聞いてもゲームか何かの話としか思わないだろうが念のために防音の魔術で音を聞こえなくして報告を行っている。
「――以上だよ。天継は一緒にいたから確認になっちゃうけどこんなところかな」
言葉がレッドについて報告を終え、陽南子へと番が移った。
「次は私だな。まず、レッド・アルキスの身元についてだが、詮索するな、元老院の要人と関わりがあるというところまでしか開示されなかった」
学園に送られてきた書類には身元等が一切書かれておらず、学園を守る役目もある生徒会としてはそれも調べておきたい事だった。今回陽南子は支部長にそれを聞く役目を担っていた。
「思った以上に上が出てきたな……。まぁ此方でも少し調べてみるとして、もう一人の佐倉奏はどうだった?」
「そちらはレッド・アルキスのお目付け役だそうだ。協会所属の特級魔術師。少し特異な固有魔術を有していて正に神出鬼没。着いた異名が――」
「――『瞬信』……だろ?」
「知っていたのか?」
「あぁ。もしやと思ってたが、まさかあの協会の『脚』が絡んでるとはな」
「なっ、あの『五体』のメンバーだったのかっ!? ……『腕』じゃないだけマシと考えるべきか……」
「それは俺たちが考えることじゃない、学長に任せよう。問題はそんなのが護衛に就くってところだな。……直に確認出来て一つ不安要素は消えたがどうにも今回の転校がキナ臭い気がする。注意しておいて損はないだろう」
「まぁとりあえず現状出来ることは無いということか」
「そういうことだ。そろそろ真面目な話ばっかで疲れたし、言葉も寝てるし報告は此処等で終わりだ。帰りに旨いものでも食って帰ろう」
ぐぐっと大きく伸びをすると、隣で船を漕いでいる言葉をつついた。
「帰ったら一仕事待ってるしな」
そう言いながら陽南子が自分のスマホを取りだし何度か画面をタップすると、そこには死にかけた冬弥とそれを背景にピースしているジト目の少女の姿が写し出されていた。
その画像が添付されていたらしいメールの本文には、「屍なう」とだけ書かれていた。
「あっ。忘れてた」
取りあえず年内に書けて良かった……
よいお年を!!




