鬼に金棒
鬼に金棒。
その諺の意味は強い者がより強くなるという意味だ。
それを端的に表したかのように、言葉から溢れる魔力は嵐となって彼女を取り巻き、その手には黒塗りの身の丈程の金棒が握られている。
集中していなかった訳ではない、
踏み込みの瞬間を見逃した訳でもない、
――ただ純粋に目で追えなかったのだ。
眼前に迫る漆黒。意識した時にはもう遅い。
後ろに跳びながら咄嗟に顔をガードする。
「……っ!!」
両腕の上から容赦なく叩き付けられた衝撃に呻きながら凄まじい勢いで後退する。
……踏ん張れなかったとはいえ、数mは後退させられた。
「言ったでしょ? ここからが本番だって」
軽々と金棒を担ぐ。まるで何も持っていないかのような立ち振る舞いだ。
「なるほど、確かに別格だ。ってかこの戦いってそんなにガチでやる必要性あんのか?」
両腕の痺れに顔をしかめながら問いかける。痺れが取れるまでの時間稼ぎだがこれでこの面倒事から解放されるならそれはそれで御の字だ。
……手が無いとは言わないが、彼女は相当の手練れだ。少なくとも魔法無しのハンデを背負って相手するような力量ではない。
「勿論。クラス分けに関わってくるからねー。それにその方が楽しいでしょ?」
「んな余裕あるか。……こっちは魔法無しで結構キツいってのに」
苦虫を噛み潰したような顔で後半を濁す。案の定聞こえなかったのか首を傾げていた。
「楽しむのは程ほどにしろよ、言葉」
不意に聞こえた声。それはいつの間にか部屋にいた黒髪の少年から放たれていた。
「誰だアンタ」
「紀里谷天継だ。一応戦いを見て評価をつけさせてもらってる」
「……もう十分分かったんじゃないか?」
「剣術と脚運びはまぁそれなりだが……アンタの固有魔術をまだ見てないからな。何とも言えん」
「それ、まだ持ってないって言ったらどうなるんだ?」
「……冗談だろ?」
間があって、恐る恐る返された。
奏と秋の話によれば魔術師と言う者は固有魔術を持ち、それの研究を義務づけられている。つまり、固有魔術を持たない魔術師は半人前とか以前の問題なのだ。
その点に関しては奏から既に聞いていたが、未だ【強化】に少し手を出しているだけなのだ、どのような魔術にしようか決めようにも定まるわけがないし術式を自分で考えて組むなんて到底出来ない。
「事実だ。因みに魔術も【強化】しか使えないぞ」
ふむと顎に手を当て少しの間思考する。
先の身のこなしと戦い方から戦いなれているのは一目瞭然だ。この世界であれほど戦える人間など魔術師以外に存在しない。
ならばまだまだ実力を隠している可能性は十分にある。それをここで出さずにいるのは何か狙いがあるのか、あるいは出せないのか。
少し気にならないことは無いが、まぁ学校に入学してくる以上はそのうち分かってくるだろう。ならば、ここで打ち止めにしてもいいかもしれない。
「それが本当ならここで終わりに――」
「――私がまだ満足してない」
――してもいいか。と天継が言い終わるよりも早く言葉が遮る。
その眼には好戦的な光が爛々と輝いていた。
こうなった言葉は無理やり止めると後々死ぬほど不機嫌になる。
……なら、言葉が満足するまでやらせて彼の実力を見る方が上か。
「ちゃんと約束は守れよ?」
「分かってるよ、二つまででしょ? 大丈夫」
「なら、よし」
「おいまて、俺が納得してな――」
「――じゃあ第二ラウンドといこっか!!」
「聞いちゃいねぇ!」
幸い既に両腕の痺れは取れている。ならばこのまま戦うだけだ。
身体能力の差は歴然で、相手の方が完全に上だ。ならば、無理矢理にでも同じ土俵に立つしかない。
肉薄してくる言葉から全速力で距離を取りながら全身に通した【強化】の術式を意識する。
魔力によって形成した――というイメージ――筋肉に魔力を無理矢理流し込む。すると、余剰分の魔力が湯水のように全身から溢れ始めるが一切気にも止めない。消費魔力量は最早先程までの比では無く、常人では数分と持っていられない状態だ。が、そこは異世界で最も多く魔力を保有し、あの魔王ですら凌ぐ量の魔力を持っているレッドだ。大した問題ではない。
魔力量に任せた強引なブースト行為によってその動体視力は圧倒的に向上し、言葉を捉える。
同時に迫る言葉に向かって疾駆する。
剣を腰だめに構え、姿勢は低く。
眼前で言葉が金棒を振り下ろしてきた瞬間に回転しながら横合いから思い切り金棒をぶっ叩く。
振り下ろされる金棒は真横からの衝撃により容易く軌道を変え、それにつられる様に言葉の体勢が崩れた。
「ちっ」
そう、思った瞬間に言葉はそのままの流れで身体を捻り金棒を叩き付けてくる。床が砕け破片が散るが、そんな物はお構いなしと言った様子でガンガン床を削りながら追撃してくる。
二m近い金棒を片手で鉄剣とほぼ同じ速さで振りまわされ、堪らず剣で流す様に受けながら下がった。
あれをどうにかしないと近づけないな。
いや、敢えて無手になって金棒を振れない距離まで入り込むか。
そこまで考えたところで、言葉が俺に向けて素早く何かを投擲してきた。
咄嗟の判断で鉄剣で防御しようとした瞬間――
「――【ペンは剣よりも強し】。ってね」
「んだと……!?」
――パァン。と甲高い音を鳴らしながら何の抵抗もなく鉄剣が粉々に砕け散った。
だが、レッドが驚いたのはそんな事ではない。
強化された動体視力は、言葉が投擲した物が鉄剣に衝突する瞬間、ソレが何であるかをキチンと視認していた。
それは、どこにでもあるような市販のボールペン。レッドもこの数日で何度か見たし使ったこともある現代の日用品の一つだ。当然それは武器ではない。が、事実として言葉はペン一本を使って事も無げにレッドの振るう鉄剣を粉々に砕いた。
獲物は無くなった。ならばもう迷う理由はない。
投擲と同時に追撃に来ていた言葉の一撃を躱し、懐へ。
入ると同時に飛んできた膝蹴りを肘で相殺すると、そのまま腹へ掌を放つ。
金棒を持ってない左手で弾きにくるが、これはただの布石だ。
俺はパッと拳を開くとそのまま弾きにきた手に添え、自身に向かう力の流れを逸らすと同時に流れに引き込む。
「【転掌】」
敵の力を操り跳ね返す七聖騎士が一人、シエンの技だ。【流水】と違い、逸らすだけではなくその力を利用しカウンターを叩き込むことができる。【流水】は全方位に対しての防御を可能にするが、【転掌】は一対一でしかまともに機能しない。だが、その利点がここで活きる。
俺はカウンターの拳を顎に打ち放つと、今度は両手の拳を握り込み構えを変えた。
「【征拳】!!」
これも同じくシエンの技。
一瞬で打ち放たれる拳の壁。数十という数の拳を一瞬で全身に叩き込む。
独特の構えから放たれる高速の殴打。それによる拳の圧力によって敵を制圧する。
ノーガードとなっていた言葉を嵐のような拳が蹂躙すると、盛大に吹き飛ばし壁に叩き付けた。
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