鬼
どうしてこうなった。
遅れて演習場へと辿り着いた天継は頭を抱える。
確かにクラス分けをする上で実力を見る必要はある。そのために言葉が手合せをするのも了承済みだし魔術の使用に関して協会の許可も取った。
だから手合せすること自体には文句は無い。文句は無いが――
――信条言葉は戦闘狂である。
戦いを遊びの延長戦としか思っていないのと、その生まれ故にそうなってしまったのだろう。
彼女の両親は既に他界しており、父は人間で母は鬼族という身体の半分が妖魔である亜人と呼ばれる種族だった。
人間と亜人のハーフである言葉は当然半分が鬼族であり、身体の四分の一は妖魔である。そのため身体に秘めた魔力は常人を逸脱し、力も強かったのだ。大抵の者に勝ち、固有魔術を使えば大よそ敵はいない。こうなるのは必然だったのかもしれない。
彼女の両親は早くに妖魔との戦闘で命を落としてしまい、引き取り手もなかった彼女を引き取り育てたのが紀里谷家、つまりは天継の家だった。
当時荒れていた彼女を律し、妹の様に――実際は同い年だが――世話をし、助けてきた天継に言葉は頭が上がらないのか、彼女は文句を言いながらも大抵言う事を聞く(天継も言葉に甘いのでその限りではないが)。
それに、自分の固有魔術を使えばこの場を収めるのは可能だ。
ならばもう、いいか。――とレッドが聞いていれば一瞬で止めさせてきそうな事を考えながら祈るように
「ほどほどにしろよ、言葉……」
呟いた。
◇
眼前に迫る拳。
それを俺は半ば反射的に身体をズラして紙一重で躱した。
ヒュンっという風切り音と共に通り過ぎた拳と頬を掠ったのか僅かに散る血。そこまで目視した瞬間に言葉がそのままの姿勢で肘打ちを顔面に叩き込もうとして来る。
それを手の甲で受けるとそのまま後退して間合いを整える。こっちは鉄剣を持ってるのに懐に入られたままではやり辛い。
――っと言うか。
「イキナリ何しやがる」
「あはは、実は君の実力がどんなものなのかちょっと見なくちゃいけないんだよね。
だから、さっきの仕返しも込めて不意打ちさせてもらったんだけど……、その強化の度合いにしてはよく見てるね。強化が下手すぎて期待して損したかと思ったけど、楽しめそうでよかったよ」
「そりゃよかったな。で、この戦いは拒否できるのか?」
「一方的に張り倒されたいなら止めないよ?」
「ちっ」
強化が上手くできない以上、手加減抜きで行くしかない。
速攻で終わらせてやる。
俺は剣を構えると、全力で踏み込んだ。
仕掛けるは袈裟切り。だが、ただの袈裟切りではない。
殺気を剣が当たる場所に全力で叩き付ける。それとほぼ同時に構えを僅かにズラし、そのまま斬り込む。
当然それだけ露骨に狙ったのだ。殺気を感じた部位へと魔力を十分に込めて強度を上げているであろう手刀が向かう。だが、更に言葉は俺がズラした剣筋にもキッチリ反応して合わせるように素早く手刀を振るってきた。
「なっ!?」
驚愕の声を上げたのは俺ではない。言葉の方だ。
完璧に受け止めた、もしくは鉄剣ごと行く気だったのかも知れないが、彼女の手刀は完全に空振りした。
そして俺の剣は水平切りで彼女の腹を――ギリギリ左手で守られた、が関係ない。そのまま振り切り遠くへ吹っ飛ばした。
透過剣、【陽炎】
殺気とフェイントを高速で操り、相手に剣筋を誤認させて斬る技だ。
相手が手練れであればあるほど本物の剣が見えなくなるのが特徴だ。元は師匠の技で、俺は一つしか残像を見せれないが師匠は三つまで同時に見せる。
俺では遠く及ばないがそれでも初見で破るのは難しいレベルには到達している。
「痛ったー……。まさかあれ全部フェイントとはねー、油断した」
「二度目は喰らわないと思うなら、試してみるか?」
「いやいや、私そういう駆け引き苦手だからさ。
今の剣技だけでしょ? なら、正面から叩き潰させてもらう」
言葉の身に纏う魔力が僅かに荒れる。
何か、来る。
「【鬼に金棒】」
ゴウッと魔力の渦が彼女を中心にして巻き起こる。
それと同時に彼女の眼の下に紅い隈が現れ、横に突き出された手の中には、黒塗りの彼女の身の丈程の金棒が現れる。
「これが私の固有魔術。さ、こっからが本番だよ」
魔力の奔流が収まると、その中心で
鬼が、嗤っていた。
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