来客
遅れました(いつも)
「おお……」
時刻は昼十二時。場所は食堂。
茶碗にはホカホカと湯気を立てる白米。一粒一粒が艶と存在感を放っており、米が立っているのが一目で見てとれる。その横に鎮座するはサバ。味噌と呼ばれるこの世界特有の調味料を用いて煮られており、刻んだ生姜が少し乗せられている。所謂サバの味噌煮と呼ばれる料理だ。その脇には同じく味噌を用いて作られたスープ、味噌汁とほうれん草のお浸しが控えており、典型的な日本のサバ味噌定食がレッドの前に置かれていた。
それを前に思わず感嘆の息を漏らす。
この世界に来て早一週間。
ペンダントを受け取ったあの日から俺は奏の指導で魔術を予習したりこの世界の勉強に時間を費やしていた。
魔術に関しては汎用魔術と呼ばれる一般的に使用される魔術の中でも基礎中の基礎である【強化】がかなり拙いが一応発動できる程度にはなった。たった二日で発動できるようになったのだから、よくやってる方だと自分を誉めてやりたい。
この世界については主に文化について教わっていたが、何よりも興味深かったのは『食』だ。
俺は目の前に置かれた味噌汁を手に取ると、一口啜る。
瞬間口に広がる出汁の風味と味噌。本にはカツオや昆布と言った魚や海藻で出汁を取ると言うが、あっちの世界には無い文化でかなり興味深い。
思わずほぅ……と息を吐いてしまうその味に俺は絞り出すように呟いた。
「……うめぇ」
さて、次はいよいよ本命のサバといこう。この日本と言う国の代表的な調味料の一つとされる味噌がふんだんに使用された料理。どんな味……ってまぁ味噌の味なんだろうが気になる。
俺はフォーク――箸とか言う二本の棒で飯を食うなんて曲芸は俺にはできない――を手に取ると、サバの身にその側面を押し当てて身を切り分けた。
固すぎず柔らかすぎず、そんな感触を手に伝えながら切れた身を掬い上げるように取ると口の中へ――
「っ!!」
煮てもなお、その身に秘めた脂がじゅわっと確かに溢れるのを舌の上で感じながら咀嚼すれば、味噌と相まって凄まじい旨味が口の中に広がる。
これは、ヤバい。
俺は直ぐに茶碗を掴むと米をかき込んだ。
これは恐ろしく米に合う。計算し尽くされているとしか思えないほどに。
「恐ろしいな異世界……」
「外人さん……かな? さっきから滅茶苦茶美味しそうに食べてるね」
いつの間にか、目の前に見慣れない少女が居た。
「!! ……げほっ!!げほっ!!ごほっ!!」
「大丈夫? ほれお水」
「んぐ……ぷは、ビックリした。ってか誰だお前」
いつの間にか向かい側に座っていた少女。黒髪サイドテールにローブといった服装で、隙間から見える服には赤いリボンと金のボタンが見て取れた。
「あはは、ごめんごめん。私は信条 言葉、レッド・アルキスって人と佐倉奏って人を探してるんだけどさ、知らない?」
「奏なら分かるぞ。さっき出かけた」
嘘は言ってない。先程演習場で魔術の指導を受けていた時に優に首根っこを掴まれて引き摺られて言った。因みに遺言は『えー、めんどk……ちょ、痛い痛い! 首締まるー!! 優なのに優しくない!』である。
「うへぇ……まぁしょうがないか。レッド・アルキスは?」
「……知らないな」
意味なく嘘を吐くことに抵抗があるがまぁ面倒事の予感しかしないから良いだろう。多分。
「そっかー、ありがと。またねー」
「ん、おう」
それだけ言うとパタパタと走って行ってしまった。
何だったんだアイツ……。
「まぁいいか。今はこっちが大事だしな」
さっきの少女などさっさと忘れて飯の続きだと向き直る。
この時は全く気にならなかったのだ。あの時少女の言った、『またね』という言葉が。
◇
第一魔術演習場。
訓練や魔術の試し打ちなどに使われる広い演習場で、的を用意して魔術を行使するブースと広い区域に魔術を行使するブース、そして組手などを行うブースに区域分けされておりかなり広い。第一というのが付く時点でお察しだが、第五魔術演習場まで存在している。
その中で、組手などを行う広いスペースで俺は鉄剣を振り回していた。何でもこの床の下に巨大な魔術の陣が敷かれていて、致命傷を負った瞬間に回復するそうだ。回復速度を上回る勢いで消し飛ばせば別だが、この中でならどんなに無茶な組手をしても死なないそうだ。
練習用として支給されているのは主に刃を潰した武器。
今俺が使っている鉄剣も練習用の得物で、重さは丁度良いのだが何とも愛剣が恋しくなってくる。
奏に聞いてみたところ『保管庫にあると思うけどー、多分まだ返せないだろうね。今のところは一応罪人なわけだし』とのことだ。つまり帰ってくるのは卒業後となる。……いつになるのか分からないが早く帰ってきて欲しいものだ。
「すぅー……はぁー……【強化】術式起動」
全身に魔力を通しながら術式を形成し、魔術と成す。
基礎にして初歩であるこの作業が中々に難しい。魔法とはまた違った感覚でとても掴みずらいのだ。
魔法で強化するのが全身を魔力で包んで骨や筋肉の力や強度を底上げするイメージなら、魔術は魔力を使って骨や筋肉のそもそもを作り変えて一時的に置き換えているようなイメージと言えば分かるだろうか。
「――ふぅ。どうにか、六割だな」
自分の手を握ったり開いたりしながら呟く。かなりの魔力を込めて漸く身体強化魔法であるフォースの六割程度の強化だ。これではまだまだ足りない。
「修行かな、精が出るね」
「――ッ!!」
不意に聞こえた声と殺気。俺は声の方へ振り向きながら跳ねるように後ろへ下がった。
すると、そこに居たのは――
「さっきぶりだねー」
食堂で会った少女。信条言葉だった。
「お前……」
「そんな睨まないで欲しいなぁー、袖振り合うも他生の縁でしょ? 仲良くしようよ」
「袖ふ……まぁいい。いきなり背後から殺気向けてくる奴とか?」
「あー、まぁそれはしょうがないかなぁ。君にちょっとイジワルしたくなっちゃったしねー」
「何を言っt――」
「――君が、レッド・アルキス君だよね」
遮るように言うと、まるで玩具を見つけた子供かの様に、しかし何処か悪そうな顔でにぃっと笑った。
「何が知らないだよ、本人じゃない。天継に聞いてびっくりしたんだからね、もう」
口を膨らませる少女。なんだか奏に似てるなと思うがコイツの目的が全く読めない。
「で、俺に何の用なんだ」
「んー、入学についての書類で必要な物があってね。それが本人の協力なしでは取れないからさ」
なんだ、それだけか。俺はホッと一息吐こうとした瞬間――
「本気できてね?」
――眼前に拳が迫っているのが見えた。
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