仮部屋
俺の問いに対しての答えなど無く、気が付けば目の前に秋の姿は無かった。
それどころか部屋自体が変わっている。タンスと何かよく分からない大きな箱、それに藁か何かで作られたものを床に敷き詰めた部屋だ。シエンの部屋に雰囲気がよく似ているのが気になる。
キョロキョロと辺りを見渡せば部屋の真ん中には仏頂面で此方を睨んでいる男が一人。
「……“ソレ”で人の部屋に来るなと何度言えば分かるんだ?」
怒り半分呆れ半分と言った雰囲気だが奏は全く気にしない。
「優、アッキーが偶には顔見せに来いってさ。百花の調子も気になってるみたいだよ」
「はぁ……聞いちゃいねぇ……。分かった、後で送ってくれ。所で何でソイツをここに連れてきた」
「優の部屋が近かったからで意味は特にないよ。この辺りで私が送れるのここだけだし」
「気になってたんだがこれは何の魔術なんだ? 見たところ転移魔法に似てるけどそれにしてはやたらと踏んでる手間が少ないように見えるんだが。詠唱もないし」
「んー……まぁ企業秘密かな。私の固有魔術と体質ってだけ教えてあげる」
「体質?」
「そ。後は内緒かなー」
相も変わらず軽薄な態度だが、その瞳は聞かないで欲しいと語っているかのように真剣だった。
……本人が語るか自分で暴くかするしかなさそうだ。
「じゃあね、優。また後で」
◇
「はい、ここが君の当分の部屋だよ」
連れてこられた部屋は優の部屋の向かい側だった。
……監視の意味もあってこの位置かもしれないが、常に見張られている気がしてなんだか落ち着かないな。
内装はサッパリとしたもので、机にベッド、小さな洗面台にクローゼットといった日用品が置いてあるだけのこじんまりとした部屋だ。
「とりあえずこの施設の説明を一通りしちゃおっか。全部周るのは疲れるしね」
そう言いながら秋は懐から一枚の大きな紙を取り出した。
「地図……じゃないな。見取り図?」
「そ。この施設の隅々まで載ってる。……一応脱走しても1分以内で追いつけるからね?」
「……逃げる理由が無くなった以上逃げねぇよ」
「ふぅん……。つまんないなー」
「おい」
◇
「お風呂とかは共用大浴場があるからそこを使ってねー。今まで汚いシャワー室だったから驚くと思うよ?」
得意気に笑う奏を見ながら思い出すが、確かにあれは酷かった。牢屋に仮で入れられていたとはいえ囚人と同じ扱いを受けるとは思ってもみなかった。……まぁ飯は思いの外美味かったが。
「ご飯は食堂で注文したら経費で一応落ちるようになってるから好きに飲み食いしていいよ。……って言ってもそれは君の境遇を思って支部長がしてくれたご好意だからあんまり暴飲暴食……まぁ食べ過ぎちゃ駄目だよ?」
「あぁ、分かった」
「あとは……」
その後も施設の説明が続き、全て終わった時には1時間が経っていた。
話で聞いただけだがどうやらここは相当に広いらしい。
「それじゃあ時々遊びに来るから、またね」
「あぁ」
何がそんなに楽しいのか分からないが奏は終始笑顔だった。俺は聞いてるだけでもかなり疲れたというのに。今日は色々あったし早めに寝たいな……。
そんな事を考えながら机に突っ伏して目を閉じた。
そう言えば俺の愛剣はどこに行ったのだろう。
七星武具と並ぶ聖剣なんだが……。
まぁあれは因果的に俺から離れられないからそのうち帰ってくるだろう、しいていうなら“アイツ”が寂しい思いをするだけだろう。
そう思いながら俺は一度意識を手放した。
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