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プロローグ

加筆修正しました。

 俺の名はレッド・アルキス、世間で言うところの勇者だ。

 世界を魔王の手から守り、平和な世の中にするために魔王を討つことが俺の使命だ。

 結論から言うと、俺は魔王を倒した。完勝とは言えないが、無事に俺は使命をやり遂げた。



 ――その結果、俺は世界に嫌われた。




 俺は生まれつき魔力が多く、沢山の魔法を学んできた。

 魔法が使えればそれだけで冒険者として喰って行くことが出来ると、元冒険者の父から魔法と剣の手解きを受けて育ったのだ。そんな、どこにでもいる平凡な冒険者の一人だった。


 それは俺が十五歳の頃、冒険者としての腕を磨きながら暮らしていたある日のことだ。

 俺の剣と魔力量がある人物の目に留まったのだ。

 その人物は魔族との戦いを終え、村で物資を補給するために兵を率いてやってきた軍の隊長だった。


 名をアイギス・フォン・エリスタニア。

 後の俺の師匠にしてその時点で世界最強と謳われていた七聖騎士の一角だ。

 俺は魔王という世界の脅威を抑え、戦争を拮抗させている七聖騎士の一人に才能を認められて王宮に迎えられた。


 最初は他の七聖騎士や大臣達からの反対も多かったが、アイギスが見初めた才能ならとの王の言葉によって七星騎士達の師事の下、修行が行われた。


 それから三年、俺は全ての七聖騎士を超える勇者として旅立ち魔王を討つ事となった。

 魔王を倒したことで世界は平和になり、世界中が歓喜に包まれた。生き残った魔族や魔獣など、問題はまだまだ山積みだが、それは国の大臣や王様が何とかする事であって俺達の仕事ではない。お伽噺や英雄譚ならここで幕引き、大団円で終わるのだろう。


 ――だが、現実はそうはいかない。


 平和は長くは続かなかったのだ。

 七聖騎士よりも強い俺個人という戦力をどこの国が保持するかということで争いが起きた。


 元々七聖騎士達は世界各国から集められた七人の兵士で構成されていたが故に、大国間での戦力差は無く問題にもならなかった。


 だが俺は違う。どこの国に居ても戦力過多で他国に睨まれるという状況に陥ったのだ。


 俺が国を出てどこか辺境の地で暮らす、身を隠す等の手もあった。だが世界中から魔王の爪痕が消えない現状で、魔王以上の力を持った人間が自由になっているのだ。

 民衆の不安が募るのは時間の問題だった。


 ――結果、俺はこの世界から居場所を失った。

 いや、厳密に言えばかつての仲間や家族、師匠に七聖騎士の皆はずっと味方でいてくれた。

 中でも師匠はずっと俺のことを気にかけていてくれた。感謝してもし足りない。だが、俺はそんな現状に耐えられなかった。


 世界が俺を拒み、そのせいで争いが起き平和が崩れた。

 俺はそれに耐えられなかった。


 そして今、俺はある森の中にいる。


 そこは精霊の遊び場と言われ、通常よりも空気中の魔力密度がとても濃い、世界でも有数の聖域だ。そこに陣を作り、儀式の場を整えた。


 いつか師匠と見た古文書に載っていたマジュツという物だ。

 どこから持ち込まれ、なぜ存在するのか。全てが謎の魔法によく似た技術だ。

 魔法と大きく違うところと言えばマジュツは空間に霧散している魔力すらも利用することが出来る。故に俺はこの場所を選んだ。


「準備は整った……」

 誰に言うでもなく、俺は呟いた。

 この陣を起動させれば俺は此処とは違う世界へと繋がる扉を開くことが出来る……らしい。

 本当にそんな事が可能ならばと準備をしたが、土壇場になってやはり決心が揺らぎそうになる。……今まで過ごしてきた故郷を、大切な仲間たちを、世界ごと捨てるのだ。


 だが、やらねば真の平和は訪れない。だから俺は世界の為にこの世界に別れを告げる。これが勇者として俺に出来る最後の仕事だ。

 俺は意を決して陣の上に立つと、マジュツを発動させ――――


「待て」


 魔力を込めようと練った瞬間に何者かに呼び止められ、つい発動を止めてしまった。


 ――あぁ、やっぱり。見つかったか。


 これが知らない人間なら何事もなく発動させただろう。だがその声はあまりに見知ったもので、安堵とよく似た思いを抱きながら俺は振り返った。


「師匠、よくここが分かりましたね?」

 そこに立っていたのは銀髪の麗人。整った顔に雪の様に白い透き通った肌、そして肩まで流したままの艶やかな髪。

 その洗練された剣術と魔法の技量の高さ、雪を思わせる肌と銀髪といったところから【銀嶺(ぎんれい)】の二つ名を有する俺の師匠ことアイギス・フォン・エリスタニアその人だった。


「お前の位置を常に探知できるようお前に魔法を使っておいたからな」


 ……何してんすか師匠。


「……何のためにそんなことを?」

「こうして聖域に赴きマジュツを使うのを止めるためだ。……その陣、空間転移を可能とするものだろう?」


 流石と言ったところか、一瞬で見抜かれた。だが、師匠に止められても俺は止めるつもりは毛頭無い。


「師匠には敵いませんね。ええ、確かにこれは空間転移陣です」

「昔私が見せたものだな、よく覚えていたものだ」

「師匠やみんなと過ごした時間は今ではかけがえの無い物ですからね、今でも鮮明に思い出せますよ」

「フッ……嬉しいことを言ってくれるな。だが、それを使うのを私は容認出来ない」


 スッと俺を睨むと同時に辺りの温度が数度下がった様に感じる。いや、実際下がっているのだろう。魔力の解放だけで周辺に影響を与えるくらい、七聖騎士には造作も無いのだから。


 ……師匠は間違いなく怒っている。

 だが、その表情は俺だけに向けたものではなく、どこか強い後悔と悔しさを感じられた。そして、とても辛そうだった。


「……何故とは聞きません、言いたいことは分かってます。でも、これは俺が考えに考えてたどり着いた答えだから、変えるつもりは毛頭ありません」


 俺はしっかりと覚悟を持った目で師匠にはっきりと告げた。俺は師匠にこんな顔をしていて欲しくない。

 俺は、誰かにこんな顔をさせるために世界を救ったわけじゃない。


「そうか、ならば私に出来ることはもう一つしか残っていないな」

 恐らく俺の覚悟が伝わったのだろう。フッと悲しそうに笑うと師匠は一歩後ろに下がった。

 大人しく見送ってくれるのだろう。

 俺は、ありがとうございますと一礼すると魔力を一気に練り上げ陣を起動させた。

 陣は青白い光と閃光を放ちながら強い力を生み出していく。まるで辺りを呑み込むかのように光はどんどん強くなり、それに比例するかの様に辺りの魔力密度が薄くなっていった。


 陣が辺りの魔力を取り入れているのだろう。

 そして、光が一層強くなり陣の力が安定してきた瞬間にそれはきた。

 身体を浮遊感が包み、もうじき飛ぶだろうと思った瞬間、陣の上に師匠が上がってきたのだ。


「なっ……! 師匠まで巻き込まれますよ!!」

「元よりそのつもりだ。一人で行くのは退屈だろう? 連れないことを言うな、馬鹿弟子」

 俺が師匠を押し出そうとした時には既に遅く、身体は完全に光に包まれ何も見え無くなり、俺は思わず目を閉じた。



誤字脱字、感想等があればよろしくおねがいします。

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