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87話 蓮介

その日は平日だったが、俺の仕事は休みで、部屋でボンヤリと過ごしていた。


頭に浮かぶのは頼介の事ばかり。

退院したという連絡は受けていたが、回復しているわけではないらしい。


頼介が退院してからは、銀司からの連絡はめっきり減った。

頼介から目が離せず、電話する余裕もないという。


傍に居られない俺は、銀司にすべてを託すしかない。

それこそ、祈るような気持ちだった。


そんな時、玄関をノックする音が聞こえた。


将太が学校から帰るには、まだ早い。

新聞か宗教の勧誘かと思ったが、一応、

「どちら様ですか?」

と、声をかけた。


すると、

「俺だ。」

と、聞き馴染んだ声が返ってきた。


俺は慌てて玄関のドアを開けた。


「銀司!?」


そこに立っていた銀司は、まるで幽霊のように生気がなかった。

青白い顔で、目の下には濃いクマを作って…。


とにかく銀司を部屋の中に入れた。


「お前、一体どうしたんだ!?」


車で来たのだろうが、駐車場からここまでは傘もささずに来たらしい。

外は土砂降りで、全身びしょ濡れだった。


「将太くんは学校か?」


「あぁ、学校だ。それより、服を脱いで身体を拭け。俺の服を貸してやるから着替えろ。」


銀司は言われた通りに着替えだした。

だが、俺は銀司の左腕の赤く血を吸ったタオルに気が付いた。


「これは…どうしたんだ!?」

「頼介と揉み合っているうちにちょっとな。頼介に怪我はない。今は信頼できる人に任せてあるから、心配ない。」


「酷い出血だ。病院に行った方がいい。」

俺はそう言ったが、

「イヤ、今はいい。それより、休ませてくれ。眠りたいんだ。」

と、銀司はそう言った。


俺は布団を敷いてやった。


銀司は倒れ込むようにそこに横になると

「2時間…2時間だけ眠らせてくれ。2時間経ったら、頼介の所に帰るから…。」

と、それだけ言って、すぐに眠りに落ちていった。


俺は眠った銀司の左腕のタオルを外した。

思ったよりも深い傷だった。

応急的な手当てしかできないが、とにかく消毒して包帯を巻いた。


これは頼介にやられたのか?

頼介は時折、興奮するとは言っていたが、銀司すら傷付けるような暴れ方をするのか?


頼介を全面的に銀司に任せた事を、初めて後悔した。


しばらくして、将太が帰ってきた。

部屋で寝ている銀司の姿を見て、驚いたようだが、俺は人差し指を口元に持っていき、声を出すなと合図した。

将太は物音を立てないように注意しながら、部屋の中に入ってきた。


「なんでGINJIさんが、こんな所に?」

囁くような声で、将太は訊いてきた。

「余程、疲れていたらしい。頼介は別の人間が看ているというから、今は寝かせてやろう。」


結局、2時間経っても銀司は目覚めなかった。

だが、俺は敢えて起こさなかった。

ただ、左腕の傷は心配だったから、医者を呼んだ。


医者は傷口を5針ほど縫合し、抗生物質を処方して、帰って行った。

その間も、銀司は眠ったままだった。


その時、銀司のスマホが鳴った。

発信者は、‘佐久間’となっている。


「将太、誰だかわかるか?」

放置するのも気になって、将太に訊いてみた。


「頼介のマネージャーさん。もしかすると、今、頼介を看ているのって、佐久間さんかも。」

「じゃあ、お前が出てやれ。急用だとマズイ。」


そう言われて、戸惑いながら将太は電話に出た。


その佐久間って人も、銀司の怪我が気になっていたようだ。

俺は将太から電話を代わって、状況を説明した。


頼介の方は、目が覚めて銀司が居ない事でパニックになりかけたそうだが、今は何とか落ち着いて、大人しくしているという。

銀司が怪我した事については、頼介は気付いていないようなので、佐久間さんもまだ言っていないらしい。

俺もまだ伝えないでいてほしいと頼んだ。


「弟の事、任せきりにしてしまって、本当に申し訳ありません。銀司は一晩こちらでお預かりします。疲れ切っているようなので、銀司にも休養が必要でしょう。」


そう言って、通話を終了した。

頼介の事は心配だが、今の銀司に任せるわけにはいかない。

少なくとも、充分に休養を取らせないと、頼介の所には帰せない。


俺と将太は、死人のような顔で眠る銀司を、ただ見つめていた。


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