表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/90

85話 将太

「将太、将太。」


俺を呼ぶ声が聞こえて、目を覚ました。

昨日は、いつの間に寝たんだっけ?

よく覚えていない。


俺は身を起こした。


「もう学校の時間だが…行けそうか?どうしても辛いなら、今日は休んでもいいぞ。」


俺の顔を覗き込み、心配そうに訊いてくる。

そうだ。

昨日は泣きながら、寝ちゃったんだ。

この人が、俺を布団で寝かせてくれたのだろう。


「大丈夫です。行けます。もう随分、休んじゃって、出席日数もヤバイし。」

「そうか、わかった。でも、無理はするなよ。」


こういう事、昔もあった気がする。

オフクロが死んですぐの頃。

頼介の腕の中で、一晩中泣いて、気が付くとちゃんと布団で寝かされていた。

そんな昔の事が思い出される。


いつもは俺が用意している朝飯は、今日はこの人が用意してくれた。

ショックを受けたのは、この人も同じはずなのに。

自分も腫れぼったい目をしながら、俺の事を気遣ってくれる。


この人が作った味噌汁をすする。


ちくしょう…。

よく似た兄弟だと思っていたけれど、味噌汁の味まで頼介とそっくりだ。

どうしたって、頼介の事を考えてしまう。


なんで、こんな事になってしまったのだろう?


俺が頼介を‘捨てた’なんて…。

どうして、アイツはそんな風に…。


アイツはまだ若いから、俺さえ居なくなれば、好きな女と新しい家庭を持つ事だってできる。

‘親’を殴り倒すような‘息子’は、消えた方がいい。


俺はそう考えたんだ。


否、それだけじゃない。

もうひとつ、大きな理由があった。


俺は頼介に対して、本来、‘親’に抱くはずのない感情を抱いている事に気が付いた。

小さい頃、まだ純粋に頼介に甘えていただけの時にはなかった感情。

いつの頃からか、頼介に抱いていたこの気持ち。


それがはっきりとわかったのは、頼介が俺に殴られて怪我をして、自宅で療養していた時だった。


身体を拭いたり、着替えさせたり。

動けないアイツの身体に触れる度、俺の中にあってはならない衝動が沸き起こった。


こんな気持ちを隠し持ったまま、‘親子’として、暮らし続ける事はできない。


そう思って、俺は逃げ出した。

でも、行く当てなんてないから、実の父親であるこの人の所に逃げ込んだ。


今まで俺に何もしてくれなかった実父。


だからこそ、俺に引け目があるだろうと思った。

それに、付け込もうとした。

卑怯な考え方だ。


それなのに、この人は優しく俺を受け入れてくれた。


だけど、頼介の事はいつも頭から離れなかった。

それでも、こんな風になっているだなんて、思いもしなかった。

俺が居なくなっても、頼介は自分のペースで生活しているものとばかり思い込んでいたんだ。


話で聞いただけの、頼介の今の姿を想像してしまう。


薬でわざとボンヤリさせられて…。

身体もガリガリに痩せて…。

どれ程、痛ましい姿だろう。


頼介…。

俺はどうすればいいんだ?


すると、きつく握りしめて白くなった俺の拳の上に、あの人が手を置いてくれた。


「お前の気持ちは、いずれ頼介もわかってくれる。今、頼介の傍には銀司がいる。今は銀司に任せよう。」


俺は涙を拭きながら、黙って頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ