82話 GINJI
頼介の入院に関する手続きは、俺が身内代わりという事ですべて行った。
ただ蓮介は1度だけ医師の話を聞きに、病院を訪れた。
「俺がアイツの居場所を奪うと…頼介はそう考えているんですか!?」
「実際には、自分自身がお兄さんの居場所を奪ってきたと、そう考えているようです。銀司さんから、頼介さんの成育歴をお聞きしましたが、頼介さんはあまりご両親の愛情を受けられずに育ったようですね。」
「えぇ、俺達の両親は…マトモな親じゃありませんでした。」
「親の愛情を充分に受けられなかった子供は、自己確立が上手くできない場合があります。そんな中、頼介さんのアイデンティティーを支えていたのは、将太さんであったり、彼のお母さんであったり、R-GUNであったりしたわけです。でも、それらすべては、お兄さんに繋がってしまう。将太さんが貴方のもとへ行ってしまった事で、自分を支えてきたものすべてが、お兄さんに奪い返されてしまうと思ったようです。」
医師の話を聞き、蓮介は苦しそうに俯いた。
「アイツは…俺が捨てていったものを、守ってきてくれたんです。今更それを俺が奪い返しに来るだなんて、アイツの妄想だ!」
「えぇ、その通りです。ですが、頼介さんはその妄想に憑りつかれています。頼介さんとお兄さんの面会は、許可する事はできません。今、頼介さんにとって、お兄さんは恐怖の対象なのです。」
蓮介は項垂れて帰っていった。
頼介にとって、自分が恐怖の対象だなんて…辛い宣告だろう。
あの日から1週間して、俺と頼介は、頼介の自宅マンションへ戻った。
本当はもっと長期の入院が必要だったのだが、医師はこう言った。
「頼介さんは、銀司さんに深く依存しているようです。今の段階で無理に引き離すのは、得策とは思えません。ご自宅で看る事ができるなら、その方が良いでしょう。ただ、他傷の恐れはないと思いますが、自傷には充分にご注意ください。」
俺は考えていた。
医師は将太くんが出て行ったのが、すべてのキッカケと言っていたが、それだけではないと。
それだけだと、将太くんが出て行ってからしばらくして、一時的に持ち直したのに、説明がつかない。
キッカケはあの夜だという気がする。
俺が蓮介と逢ったあの夜。
あの時、頼介は起きていた。
多分、俺が蓮介に電話している段階で、既に起きていたのだろう。
だとすると、あの晩、俺が蓮介と会って何をしていたのか、想像がついてしまう。
あれ以来、頼介の俺に対する依存が、更に激しくなった。
俺の不注意としか言いようがない。
俺は頼介のマンションで、頼介と2人きりで過ごした。
食料品やその他の必要な物は、佐久間さんが届けてくれた。
全く外に出ないのも良くないと思ったが、頼介は強い安定剤のためか、いつもぼんやりと眠そうで、外出はしたがらなかった。
ただ、それでも時折、発作的に興奮状態になる。
その度に、医師から処方させた頓服を飲ませて、何とか落ち着かせた。
俺は頼介から、全く目が離せなかった。
少しでも目を離すと、また…。
「頼介、大丈夫か?」
食事の後片付けをする間、ほんの数分、背中を向けていただけだった。
今度は自分の腕を血が滲む程、噛みついている。
すぐに頓服を持ってきて、飲ませてやった。
こんな事に慣れてきている自分が悲しかった。
「ほら、怖くない。怖くない。」
まるで赤ん坊をあやすように、語りかける。
今の頼介は、赤ん坊と一緒だ。
頓服の影響で眠り始めたところを、寝室まで連れて行く。
ベッドに降ろしてやると、ドッと疲れを感じて、俺は座り込んだ。
身体も疲れちゃいるが、精神的な疲れは半端じゃない。
そう、こんな頼介にさえ…俺は欲情していた。
自制するのに、精神力を使い果たした。
今も頼介は、ベッドの上で寝息を立てている。
薬で眠っているから、ちょっとやそっとじゃ起きないだろう。
そう思うと、止まらなくなる。
ほんの軽く…のつもりで、口唇を合わせた。
だが、それでは物足りず、薄く開いていた歯列を割って、舌を侵入させる。
唾液をすすり、手はシャツの中に忍び込む。
「ん…。」
頼介が小さく呻き声をあげ、我に返った。
「なんて事を…。」
獣以下だ…。
自分の浅ましさに、笑いすら漏れた。




