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76話 GINJI

頼介が元に戻った。


仕事場の面々は、そう言って安堵の声を漏らした。


あの晩の後、次の朝、目が覚めた頼介は、俺の作った朝食を食べてくれた。

流石に以前のような食欲はなかったが、一人前に近い量を平らげた。


仕事場でもオン・オフの切り替えができるようになって、必要のないところまで、殺気立った雰囲気を醸し出す事もなくなった。


あえて、問題があるとするなら、俺の後を金魚の糞のようにくっついて離れなくなった事くらいだ。

だが、もともと頼介が俺に懐いていた事を知る仲間達は、特に気にした様子もなかった。

むしろ俺といる事で頼介の精神状態が保てるのなら、心ゆくまで一緒にいてくれという感じだ。


あれから俺は、頼介のマンションで寝泊まりしている。

ひとりで居たくないと、頼介が言うからだ。


「GINJI!」

台所で調理する俺の後ろから、頼介が抱きついてくる。

「包丁を持っている時はやめろ。危ないだろう。」

一応、嗜めたが、聞いている様子はない。


「今日のメシ何?」

「今夜はおじやだ。まだ消化の良いものの方がいいだろう。胃腸も本調子じゃないだろうからな。」

「うん、俺、おじや好き。でも、GINJIも料理できるんだね。俺、知らなかったなぁ。」

「お前だって、得意だろう。少しは手伝ったらどうだ?」

「やだ。俺、GINJIの作ったものが食べたい。」


頼介は、俺に甘えられるだけ甘えているという感じだ。


夜も一緒に寝ている。

だが、本当に一緒に寝るだけだ。

軽いキスまではするが、それ以上の事はない。


俺はほとんど頼介の睡眠導入剤だった。


今夜も一緒にベッドに入る。

髪を指で梳いていてやると、それが気に入ったらしく、もっとやれと催促される。

そうこうしているうちに、眠たくなってくると、コロッと眠ってしまう。


頼介が食事も睡眠もしっかりとれるようになったのは、何より喜ばしい事だ。

痩せてしまった身体も、このままの調子でいけば、すぐに元に戻るだろう。


だが、俺は俺なりにキツかった。

毎晩、好きな奴が隣で無防備な寝顔を晒しているのに、手を出す事は出来ない。


俺は頼介の求める俺でいる。


そう決めた俺は、決して頼介に手を出すまいと決めた。

ただ、頼介の望むまま、傍に居てやるだけ。


だが、俺も男だ。

はけ口は欲しい。


情けない事に、毎晩、頼介が寝付いたのを確認すると、いつもトイレで自己処理していた。


そんな毎日に耐えかねて、俺はスマホを手に取った。

頼介はもう眠っている。


目的の相手にワンギリして、しばらく待つ。

奴は程なくしてかけ直してきた。


「しばらくぶりだな、蓮介。」

電話に出た俺は、そう声をかけた。

『久しぶりだな。』

電話の相手もそう応じた。

「将太くんはどうしている?」

『もう寝ているぞ。だから、わざわざ部屋の外に出てかけ直しているんだ。こっちの暮らしにも慣れてきたみたいだ。ここから学校にも通っている。』

将太くんが意外に新しい暮らしに順応している様子を聞いて、胸が痛む。

頼介はあれ程、苦しんだのに。


「なあ、蓮介。今から出て来られないか?」

『今から?』


「タマっているんだ。相手しろよ。」


しばし沈黙が流れる。


『いいぜ。』


蓮介は短くそう答えた。

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