70話 頼介
将太がいなくなっても、俺は淡々と仕事をこなしていた。
いつもと同じようにしていたかった。
いつも以上に元気にしていたかった。
確かに仕事はこなす事はできた。
だけど、ダメだった。
‘素’の自分に戻れなくなってしまった。
今まで、仕事モードに上手く切り替えられなくて、GINJIがあの手この手を使ってくれた事はあったけれど、‘素’に戻れないなんて事は初めてだ。
このままの状態でいる事はツラい。
まるで、息が出来ないみたい。
それに、あれ以来、自分の身体が食べ物を受け付けなくなっていた。
無理矢理食べても、吐いてしまう。
苦しい…。
誰か、助けて。
GINJI…。
助けて。
「本当、疲れたな、頼介。腹減っただろ?メシでも行かないか?」
GINJIが気を遣って、声をかけてくれる。
本当は縋り付きたいのに、あっさり断って、俺は1人で帰って行った。
だけど、GINJIは追って来てくれた。
俺を車の助手席に乗せ、走り出す。
強引にでも一緒にいてくれるGINJIが、ありがたかった。
車の中で、ずっと無言だったけれど、GINJIが口を開いた。
「お前、寂しいんだろ?将太君がいなくなって。安易に蓮介に任せようなんて言った俺が悪かった。将太君を迎えに行こう。な?」
そんな事を言われたけれど、GINJIは全然わかっていない。
将太は自分の意志で出て行ったんだ。
実の父親の下へ。
無理矢理連れ帰ったって、意味はないんだ。
そう思って、反論したら、肩を掴んで引き寄せられた。
そして、抱きしめられて、キスされた。
俺は何故だか驚きもしなかった。
驚かない自分に驚いていた。
そうだ。
俺、わかっていたんだ。
GINJIの気持ち。
わかっていて、無視して、それなのに頼っていたから、GINJIは怒ったんだ。
長いキスを受け入れて、そのまましばらくGINJIの腕の中にいた。
GINJIがどう思っていても、GINJIの腕の中は安心できた。
だけど、GINJIは俺を離し、苦しそうに俯いた。
「すまない、頼介。忘れてくれ。」
そう言って、もうそれ以上、触れてこようとはしなかった。
俺は車の外に飛び出した。
GINJIは追ってこなかった。
俺は無茶苦茶な方向に走り出していた。
家がどっちなのか、もうよくわからない。
独りになった。
その事だけを痛烈に感じていた。
もう俺には家族もいない。
頼る相手もいない。
しっかりしなきゃと思うのに、涙ばかりボロボロ溢れてきて、どうしようもなかった。




