7話 将太
そして、放課後。約束通り、希美を連れて家に帰った。
「お邪魔します」
行儀良く靴を揃え、希美が家に上がる。
「ん?いらっしゃい」
ボサボサの髪、ヨレヨレのタンクトップにジーンズ姿のオヤジが奥から出てきた。口に棒アイスを咥えている。
「オヤジ、じゃないアニキ!いたのかよ…」
不在を期待した人物は、しっかりと在宅していた。
「あ、大丈夫。これまだ冷凍庫にいっぱい入ってるから。お前たちの分もあるよ」
「イヤ、アイスが欲しいんじゃなくて…」
「お兄さん、こんにちは。よかったら、お兄さんも一緒に聴きませんか?」
希美はニコッと笑って、R-GUNのCDを取り出した。どうやら、オヤジまでハメる気らしい。
「ん?R-GUNか。希美ちゃんR-GUNが好きなの?」
「ワーワーワー!」
まさか気付くとは思わないが、俺は大いに慌てた。
「何1人で騒いでんだ?将太」
「R-GUNというより、RAISUKEが好きなんです。」
「そうなんだ。でもR-GUNはRAISUKEだけじゃないよ。確かにバンドってのは、ボーカルが一番目立つけど、GINJIのギターは世界的に認められてるし、USHIOのベースもいい。NAOTOのドラムだって、最高だと思うけどな。」
「お兄さん…詳しいんですね」
「そりゃ、詳しいよ。なんたって俺は」
そこで、俺はストップをかけた。
「アニキ、ちょっと来い!」
オヤジの首根っこを引っ掴んで、ヤツの部屋に連れて行く。
「バラしてどうすんだよ!」
「まさかバラさないって。やっぱり、俺だけに人気が偏るのは、良くないからさ。メンバー全員あってこそのR-GUNだし」
「てめえのファンってのは、何万人いると思ってんだ!ここで希美1人をどうにかしても、意味はないだろ!」
「イヤイヤ、身近なところからコツコツと」
「いいから、てめえは自分の部屋から出てくるな!いいな!」
俺はオヤジに買ってきたお菓子類をすべて手渡して、扉を閉めた。これだけあれば、食い終わるまでは、大人しくしてくれるはずだ。